【小説】 捨てられて、かわいそう
うちの親は仲が悪い。年がら年中、喧嘩している。
そしてその度に私は、一緒に住んでいるジジイに連れられて、近所の公園へ行く。
ジジイと言っても、他人ではない。いわゆるおじいちゃん、祖父だ。ただ、うちの祖父はクソジジイなので、皆にジジイと呼ばれている。
ジジイは、お父さんとお母さんの喧嘩が始まると、お母さんに「みづきを散歩に連れてってください」と言われ、舌打ちをしながら私を連れ出す。ビニール袋に入った砂場のおもちゃを片手に、もう片手に私の手を握って、家の裏にある公園まで歩く。
歩きながら、「老人虐待や」などとぶつぶつ呟いて、私の方は見向きもしない。
もちろん、公園についてからもずっとその調子だ。滑り台横のベンチに座り、「お前に親の喧嘩を見せへんように、ワシがわざわざ一緒に出かけたってるんやぞ」「そんなつまらん顔して、ほんま可愛いない。そこらへんの石っころの方がまだ可愛いわ」「これは労働や。お前の親は何で一銭もワシに渡してこんのや」などなど、ずうっと文句を垂れている。これをクソジジイと言わずして、何をクソジジイと言うのだろう。
「ジジイ、うるさい。もっと楽しい公園連れてってよ。みづきもうここ飽きた」
「何やと、ションベン垂れ。お前に文句言う権利あると思うてんのか」
「え、ないの」
「あるわけないやろ。ガキは大人の言うことハイハイ聞いてればええのんじゃ」
「大人にクソジジイは入ってるん」
「入っとるわ。残念やったな、クソガキ」
「そうなんや。大人ってろくでもないな」
「お前はその大人がおらんと生きていけんのや。かわいそうにな。ほれ、砂場でお山ごっこでもせえ」
そう言ってジジイは袋の中のおもちゃを投げてよこす。
「砂場なんかでもう遊ばへんし。あーあ、つまんな。なみちゃんはこの土日、ジャンボプール行くんやって。いいなーみづきも行きたいなー」
「そんなもん、お前の親に頼め。離婚はやめて、ジャンボプールに連れてってくださいってな」
「え、お父さんとお母さん、離婚すんの」
「知るか。毎週毎週喧嘩しとんのや、そのうち離婚するやろ」
確かにうちの親は喧嘩が多い。でも両親が離婚するなんて、考えたことがなかった。
「そうなん。お父さんとお母さん離婚したら、みづきどうなんの」
ジジイは一瞬、驚いた表情を見せた。そしてにやにや笑いながら、
「なんや、怖いんけ。そうやなあ、そうなったら、帰る家がなくなるわなあ。ホームレスとちゃうか。ほら、この滑り台の下で、生活すんのや。ホームレス小学生やな。おめでとう、麒麟の田村の友達や。ダンボール準備しとくんやで」
と言った。
「みづき、捨てられるん。捨てられて、ホームレスになるん」
私は下を向いた。
「せやなあ、明日からホームレスかもしらんなあ」
「ジジイは良いよな。もしお父さんとお母さんが離婚しても、帰る場所があるんやろ」
そう言って私は、出かける前、おしりのポケットに入れたチラシを差し出した。
「なんやこれ」
「これ、お父さんとお母さんが持ってた紙。老人ホームっていうんやろ。お父さんが言ってた。『ここか姥捨て山かしかない』って。ええなあ、ジジイには帰る家があって。みづきにはもう、麒麟の田村しかおらへんのに。羨ましいなあ」
ジジイは性格が悪い。そして残念なことに、私はジジイよりも性格が悪い。
「ほら、もう暗くなってきたし帰ろ。お父さんとお母さんの話し合い、もう終わってるやろ。『そろそろ結論を出す』って言ってたし。なあジジイ、結論ってなに」
ジジイが口をぱくぱくさせた。
いつもありがとうのかたも、はじめましてのかたも、お読みいただきありがとうございます。 数多の情報の中で、大切な時間を割いて読んでくださったこと、とてもとても嬉しいです。 あなたの今日が良い日でありますように!!