見出し画像

現状否定だけが変革ではない:自由研究の良さを引き出すには

モメンタム・デザイン代表高橋俊之が2013年から関わり現在は教育顧問を務めている淑徳与野中学・高等学校での活動について聞きました。

高橋俊之の淑徳与野中学・高等学校サポートシリーズ全5回を予定しています。今回は第4回「創作研究(自由研究)」です。自由研究編は聞きたいことが、またでてきたので続編も予定しています。合計5+1回になりそうです。

既存のものの良さをもっと引き出したい

海老原: アクティブ・ラーニングの次は、中学校で創作研究のプロジェクトに取り組まれたそうですね。創作研究というのはいわゆる自由研究と同様なものと聞いています。なぜ創作研究に取り組むことになったのでしょうか。
高橋: そうですね。まず淑徳与野の創作研究は自由研究と「自分でテーマを見つけて創作や研究に取り組む」という点で同じですが、1年近くにわたって取り組まれ、ポイントで指導が行われる点が違います。自由研究と卒業論文の中間のイメージでしょうか。創作研究自体は以前から行われていて、取り組んだのはてこ入れだったわけですが、なぜそれをやったかを一言で言うと、新しいことを始めるだけでなく、今やっていることの良さをもっと引き出すこともやりたいと考えたからです。

海老原:  なるほど。変革というと現状否定とか新しいことをやる方ばかりになりがちですが、今やっていることの多くにも良さは必ずありますよね。
高橋: そうなんです。これだけの規模のものは元々大事な狙いがあって作られているはずですし、創作研究(自由研究)は実際、すごく価値のあるプログラムだと思います。他の勉強はこのためにある、と言ってよいくらいです。
海老原: ただ、自由研究は適当に「こなす」子どももけっこういたり、親がやってしまっているなんて話もよく聞きますね。
高橋: 確かに。淑徳与野中学校でも「手を入れよう」となったのには、そういう背景がありました。つまり、ただ続けるのでも、やめてしまうのでもなく、真の価値を引き出しきるように改良しようと。そういう意味で一番まずいのは、とても大事なものを、あまりうまく行っていないからと、ただやめてしまうことですね。

海老原: 何が大事なのかを見極めていないとそういうことになりがちですね。ところで、他に(新しいことに取り組むのではなく)既存のものに取り組んだ理由はありますか?
高橋: 新しいことを足してばかりいたら先生方がパンクする、というのもあります。先生方はそれでなくともかなり多忙です。新しいことをやるなら何かをやめる/効率を上げる必要がありますし、この時は新しいことではなく既存のものを、より実り多いものにすることに取り組もうと考えたわけです。

自由研究は宝の山

海老原: ところで先ほど「創作研究(自由研究)は宝の山」だと言われていましたが、どういう意味でそうなのでしょう?
高橋: 3つの意味でそうだと考えています。1つめは「考える」力を高めることですね。現象等を観察しながら自分で仮説を立てて、その検証方法を考え実際に検証することを繰り返しますから。
海老原: 確かに。覚えること重視の勉強では、やっていないところを鍛えられますね。

高橋: はい。「覚えること」と今出ましたけど、2つめとして、知識を得ることの意義を感じられるという意味もあります。一見「こんなことは将来絶対使わないじゃない?」と思っていたのが、実は役に立つと分かるわけですね。例えば料理を研究テーマに選んだら「理科で学んでいることがむちゃくちゃ役に立つ」と分かったり。すると次に「こんなこと、役に立たないんじゃない?」と思うことに勉強の中で出っくわしても、「いや、そうでもないかも」とやる気を高められるかもしれません。

海老原: 本当は実生活に役立つ学校の勉強って、世の中で思われている以上にありますよね。3つめは、もしかしてキャリアとのつながりですか?
高橋: その通りです。生徒たちが自分の興味・関心領域を探る機会になりますね。そのまま将来その方向に進むとは限らないけれども、少なくともその候補を作っていくことに役立つはずです。

海老原: ここまでの3つのポイントを考えると、これまでインタビューで話を伺ってきたキャリア教育やアクティブ・ラーニングともつながっていますね。
高橋: そのとおりです。考える力はアクティブ・ラーニングでも高めているので、創作研究で役立ちますね。インパクト体験棚卸しで考えたことから創作研究のテーマが生まれるかもしれないし、創作研究からキャリアにつながることが生まれるかもしれない。そんなふうに、複数のプロジェクトがつながっています。

研究テーマの選び方を変えた:興味があればジャニーズでもいい 

海老原: 第1回のインタビューで伺った「たくましく生きる」に通じてきますね。具体的には、どのように変えていったのでしょうか? 

高橋: 一番大きな変化はテーマの選び方を変えたことです。テーマとして選んでいい範囲を広げた。生徒が好きなもの、興味のあるものというと、たとえばディズニーとかジャニーズがでてきます。でもこれまでは勉強っぽいものじゃないとだめという制限がありました。その制限を取っ払いました。本気で取り組むには、自分が本気で考えたくなるテーマを選べるようにすることが不可欠だと考えました。

海老原: 確かに女子中高生はジャニーズなんか、ものすごい調べそうですね 笑 
しかし、生徒の興味は引いても研究とはいえないようなテーマも出てきてしまうんじゃないかと思います。そこは何か工夫しているのでしょうか?
高橋: 対象は制限を取っ払いましたが、テーマ選びをこうやってやろうというのを大事にしました。中でもポイントは「まだ答えが出ていないことでないと研究とは言えない」ということです。
海老原: なるほど。それは理工学部大学院を出た私からすると納得感があります。論文のテーマ選びでは、それは他の人がすでにやっていなのか、と何度も問われました。研究というのは世界で唯一じゃないといけないと知りました。一方、世界唯一は意外と誰でも狙えることも知りました。同じ研究対象でも独自の切り口を加えてやるだけで世界唯一になりえる。でも、それを中学生が自力でやるのは難しそうですね。
高橋: その通りです。なので、テーマ発見のサポートがこれまでよりもぐっと厚くなったところです。テーマ発見のためのワークショップを追加したのと、ある程度領域が見つかった後も、そこからテーマをひねり出す個別指導を先生方にお願いしました。
海老原:  それは個人的にも興味がありますね。
高橋: 全員の「テーマ原石」をシートにしたものを集めて先生方とどう指導しようか話し合ったのですけど、それ自体、とても面白かったです。先生方も「この研究結果は私も知りたい!」とか盛り上がったりしてました。機会があればこの「研究テーマをいかに仕立てるか」はここでまた取り上げましょう。

勉強は苦行だという概念を変えたい

海老原: 創作研究のやり方を変えた結果どんなことが起きましたか?
高橋: 全体の底上げに繋がりましたね。以前から優秀者の研究はとても面白かったんです。一方で以前は、調べてまとめただけに終わっていたもの、最小限のエネルギーで課題をこなしたものも少なからずありました。それがこの改変によって「その人なりに考えたもの」がぐっと増えました。特に下の学年ほどその傾向は強かったですね。創作研究について前のイメージが薄いからではないかと思います。

海老原: ちゃんと考えているとか、本気で取り組んでいるといった生徒が増えると周りにも影響しそうですね。自分もやらなきゃ、っていう生徒が増える正のサイクルが回りそうです。
最後に創作研究を通じて、もっと世の中がこうなって欲しい、というものがあれば教えてください。
高橋: 勉強は苦行だ、という概念を変えたいですね。みんな興味のあることは持っている。興味があることを掘り下げるためにその力をつける。学ぶことに、こういう意味があったんだと感じてほしいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?