読書記録/『新型インフルエンザパンデミックに日本はいかに立ち向かってきたか』 Popcorn in a Strip Club Vol.3
通っている学校の教授がおすすめしていたので、反射反応音速光速でポチりました。保育園から現在まで、学校の先生がおすすめする本をほぼ全て拒否して生きてきたのですが、今後はそういう態度も悔い改めようと思っており、自己破産するまでは学校でおすすめされた医学系の本全部読む、池の水全部抜く、的なスタンスで行こうと思います。
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本書は2009年の豚インフルエンザの流行を題材に、当時を振り返りながら現在行政がどのような対応策を講じているのかというポイントが端的にまとめられた本です。原稿が全部集まったのが今年の2月、出版されたのは先月、という奇跡的なタイミングでの出版です。
(なお、本書は感染症と行政というテーマで書かれているものの、鳥インフルエンザを中心に扱っている本だということは注意が必要です。また、現在の行政の感染症パンデミックへの対応策も基本的には「インフルエンザウイルス」を仮想敵として策定されているようです。)
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読んで良かった点は3点。1点目は執筆者のほとんどが行政の技官の立場で豚インフルエンザに対応した方たちであり、かなり詳細に渡って、当時の現場の様子が記録されていること。2点目はネットでいろいろと情報が錯綜しやすい中、レポートのスタイルや引用元の明示など、学術的にもそう間違ったことは書いていないだろうという信頼感があること。3つ目は二章でまとめられているスペイン風邪以降の過去のインフルエンザパンデミックの歴史、や三章の鳥インフルエンザの性質などはコンパクトにまとまっていて、基礎的な知識を頭に入れるのに便利なことです。
読み進めながら、今回の騒動でも全くこの本に書いてある通りに行政は感染症対策が進めているのだろうな、という印象を受けました。本書を読む限り、「蔓延のピークを遅らせる&ピークの山を低くし、医療崩壊を防いでワクチンや治療薬の開発までに時間を稼ぐ」という基本方針は10年以上前には建てられていたもので、現在は行政の施策レベルでも浸透、共有されていると思われます。また、緊急事態宣言の説明などにも本書では既に触れられており、基本コンセプトは豚インフルエンザの件を引き継いで作られた仕組みなのだということが理解できます。
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個人的な収穫は、「市民がウイルスの蔓延に際して抱く不安やそれに対する行動はいつの時代も同じ」ということがわかった点です。本書では10年前の一般市民やメディアの反応として、「マスクパニック」や感染が発覚した方が所属する学校や会社の実名発表に関するセンシティブな問題、誹謗中傷や差別などの問題、メディアの報道方法にも触れられています。
全く同じことが今回の騒動でも起きているなというのが私的な実感です。ウイルスや病態に関する研究や知識は日進月歩で進みますが、人間の心理的な面、特に集団心理の傾向については、単純な進歩史観では全く語ることができないし、過去から学んで進歩しているだろうという楽観的な期待をむしろしてはいけないということは心に止めておくべきだと思います。
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難癖をつけるとせば、2点。1つ目はこれしきの本を出すのに行政の人たちって10年もかかるのか、という点。また、短いレポートのオムニバス形式なので、一貫したストーリーのようなものはなく、全体像が見渡しづらいという点です。が、これは上記の良い点とトレードオフなので目をつぶって良いと思います。
今回は学術書、行政レポートに近い内容の本なので、★はノーカウントです。
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コロナ関連で良い連載を見つけたので、貼っておきます。
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