記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

ばいきんまんはシビレるほどに「あきらめが悪い男」。『映画アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』感想

 アンパンマン映画は毎年は行けてないながら、なるべく見るようにしてる感じです。
 以前もここに載せたんですが、私が今まで見た映像の中で一番の災害復興がテーマの作品は『映画アンパンマン よみがえれバナナ島』です。
「アニメ映画では」じゃなくて「映像作品では」です。
 幼児向け映画とはいえ、舐めちゃ困ります。


 今年の映画『アンパンマン』、深夜アニメ風に言うなら

『異世界ばいきんまん メカ皆無の世界で0から始める巨大ロボ建造』


という感じで、前半まるまるばいきんまん主人公の映画です。もうばいちゃん推しの方は行かないという選択肢はありません。
 異世界のばいきんまんなのです。やってきた「絵本の森」には当然普段使っている工房(ばいきん城)やすぐれた工具などはありません。機械があるような文明レベルでもないのです。ばいちゃんは根っからのメカ戦頭脳派で、フィジカルな戦闘力はそれほどありません。そこでばいきんまんが初めにやることは…。
 まあ普通に考えたら、「その場にあるもので工夫してメカをこしらえる」なんでしょうが、そうじゃなく

「まずモノづくりのための”工具”を作る」


ところから始めるんですよ。そう、ある意味『Dr.STONE』なんです。
 ダダンダン(ばいきんまんの主力戦闘ロボット)の胴を作るために木と鉄で巨大な樽を作るんですが、その工程で私がずいぶん前に樽づくりのドキュメンタリーで見た記憶がある”鎌”のような工具が出てきて、うわぁそこまでやるかと。(後で調べましたが、これは「前鉋(まえかんな)」という道具だそうです。)
 モノづくり大好きな私なんかはこの描写に大喜びだったんですが、でもさすがにこういうの絵的に地味過ぎるし、女の子なんか退屈しちゃうんじゃないかと心配しました。
 でも、これもあとあとちゃんと効いてくるんですよ。

 今作の冒頭は、絵本の森の妖精の世界が、「すいとるゾウ」という自然の生命力を吸い取ってしまうマンモスの化け物に襲われていて今や崩壊寸前。唯一難を逃れた妖精の子供ルルンは、異世界のヒーローに救いを求める…という、まあ言い方悪いけど今日日の異世界ファンタジー物ではげっぷが出そうなありがちな滑り出し。そこで召喚されるのがアンパンマンじゃなくてばいきんまんってところが最高に面白いんですがw
 ここで「呼ばれたのがアンパンマンの方だったらこの映画5分で終わってる」とか思いがちかもですが、私はそうでもないと思ってます。(後述)

 「救いのヒーロー」として呼ばれたばいきんまんですが、「はいそうですか」と救済を簡単には引き受けません。高額報酬を吹っかけたあげく最後に裏切るぶりぶりざえもんよりはましですがw でも単に悪役だからとか人のことなどどうでもいいとかだけじゃなくて、彼なりの美学が見えるんですよね。ばいちゃんは「やる」と決めたら意地でもやるんですよ。それこそ自分が死ぬような目に追いやられても。だからこそ、自分のすべてを賭けられるかどうかの判別は厳しい。でもやると決めたらおそらく依頼者が「もういいよやめて!」って言っても止めないんでしょうね。

 もともとゴキ○リの様にしぶといのが売りのばいきんまんですが、今作ではシリーズ屈指のあきらめの悪さを発揮します。というか、今回の敵「すいとるゾウ」がべらぼうに強いというか、「やっつけた!」と思ったら驚くような方法でさらに強くなって、こういうバトルものを見慣れてるオタクの私ですら「いいかげんやられろよ!しつこいよ!」って思うほど。シン・ゴジラの第4形態どころじゃない進化を遂げます。
 でもこれは「あきらめのわるいばいきんまん」のための演出であり、彼の「やると決めたらあがけるだけあがいてみろ!」という生き方を表現する舞台でもあります。

 そもそも、先述のように「絵本の森」では機械文明はありません。かろうじて鉄の鋳造くらいはあるらしく、金属製のシャンデリアがあったりします。
 よくよく考えると、この時点でばいちゃんにとっては試練なんです。ばいちゃんは自分で作ったメカで戦うスタイルなので、まず「自前のメカがない・メカ作りのための工房もない・現地調達したいけどそもそも機械文明がない」と言う時点であきらめるのが当然の状況なんです。中華の鉄人に「美味しいチャーハン作って!でもガスもコンロも米もラードもないけどね!」って言ってるようなもんです。だから最初はかたくなに拒むしかないんです。でも彼は「やるといったら意地でもやる」男。
 なので、彼にとってはすいとるゾウの「やられるたびにパワーアップして帰ってくる」こと以前に、「自分の得意技が封じられてる」状況がすでに試練なのです。メカを作る以前に、「メカを作るための環境がない」ことが試練なんです。

 だから、一件無意味で退屈に見える「まず工具を作ります」の過程が大事なんです。その姿をルルンが見ているってことが大事なんです。
 
ルルンはばいきんまんの姿に「あきらめないこと」を学んでいるのです。
 ただここで、「あきらめが悪いことだけですべてが解決するわけじゃないよね?」っていう疑問が、大人なら湧いてきます。でもその答えも用意されています。

 その後のばいきんまんの奮闘は心震えるほど熱いものですが、それでも倒してもその都度パワーアップしてよみがえる敵を前に、ついに自分の力だけではどうしようもないことを認め、最大の敵でありライバルであるアンパンマンに助けを求めるようルルンに伝え、自分は今できるせい一杯を果たすべくさらに立ち向かう。

いやもうかっこよ過ぎでしょう。


その後はだいたい想像通り、ルルンがアンパンマンを連れて戻ってきてすいとるゾウを倒してめでたしめでたし…

とはならないんですよ。


アンパンマンが戦い、助け出されたばいきんまんが最後の力を振り絞って抵抗し、さらには二人の戦いに心を打たれて勇気を振り絞ったルルンに森の力が応えて奇跡の巨人を生み出す…

それでも勝てないんですよ。


 ばいきんまんは再度やられ、アンパンマンとその仲間は無力化され、結局ルルンだけが残される。
 でも、戦いの最中にアンパンマンが言い残した「みんなが仲間だ。ボクも仲間だ(ちょっとうろ覚えだけどだいたいこういう意味合い)」という言葉と、最後まであきらめなかったばいきんまんの姿を思い出して最後の奇跡を起こす…。

 思うに、もうしつこいくらいのばいきんまんのあきらめの悪さの描写は、単に「あきらめなければ夢はかなう」とかいうきれいごとじゃなくて、「あきらめなければ、きっとその姿を仲間が見ているよ」というメッセージなんでしょう。

 ばいきんまんは基本悪役を自負しているし悪ぶっているので普段は臭いセリフなんて言わないんですが、自分が気に入った相手にはあんがい面倒見がいいんですよね。私が大好きな『よみがえれバナナ島』では、主人公バンナ王女を前からやさしくリードするのがアンパンマンで、後ろから尻を蹴っ飛ばすのがばいきんまんでした。
 
今回も、メカ作りの手伝いどころか邪魔してばかりのルルンを追い払ったりしなかったし、しまいにゃルルンに対し、「おまえがなるんだ!愛と勇気の戦士に!」というくっさいセリフを放ちます。(大好き)

 ちなみに最初の方で

”ここで「呼ばれたのがアンパンマンの方だったらこの映画5分で終わってる」とか思いがちかもですが、私はそうでもないと思ってます。”
 
 と書きましたが、アンパンマンって単体のスペックが高くて強いんですけど、その他総合的に見た場合だとあまり強くないんですよね。
 前にもどこかで書いたのですが、アンパンマンっていい意味で人間らしくないんですよ。ある意味俗っぽさを超越した、神様に近い存在。
 なので、正義のために戦いはするけど、基本ど直球で、策を弄したり敵を疑ったりはしないんですよね。それゆえしょっちゅう敵の罠にはまってピンチに陥ってる。そこでアンパンマン号の仲間などに助けられてリベンジマッチに至る~ってのがわりとデフォルト。
 なので、アンパンマンが単体でこの世界に来てたら、ピンチに陥った上に「新しい顔」の供給もないままバッドエンドを迎えるのが容易に想像できる。
 アンパンマンはある意味超越した存在であるものの、けして無敵な存在じゃないんです。そして、アンパンマン自身もそれを知っているのです。
 むしろこういう場合は勝つため生き残るために最大限考えるばいきんまんの方が長けているのです。


 という感じで、お話のシチュエーションと言う意味でも、作品のメッセージ性と言う意味でも、かなり好きな作品です。個人的には、木製のダダンダンをはじめとした木製ばいきんメカが最高にときめきます。
 古いオタクしか知らないと思いますが、昔『ロボットカーニバル』という、ロボットアニメだけのオムニバス形式のOVAがあったんですが、その中の一篇『明治からくり文明奇譚〜紅毛人襲来之巻〜』と言うのがありまして、明治期に西洋人のマッドサイエンティストが巨大ロボで日本を襲うのを、日本人の主人公が木製の巨大ロボットで立ち向かうという、荒唐無稽のロボットアクションアニメだったんですが、それに出てくる巨大ロボット大「からくりみこし 陸蒸気弁慶」をほうふつとさせるんですよ。

陸蒸気弁慶


背後

 この手のレトロフューチャー系のロボットとかメカって、だいたい蒸気力で動く「スチームパンク」的な感じなんですが、今回のばいきんメカはそれよりもさらにレトロなゼンマイ動力なのがなんというか、子供向けでいくらも嘘ついてもいい作品世界でも、最低限のリアルを用意したいんだろうなぁって勝手に思っております。あそこで蒸気機関の開発までやってたら、映画としても冗長になっちゃうしなぁ。




 でも、正直ちょっとだけ今作品に苦言と言うか欠点を指摘しておきます。

 まず、とにかくばいきんまんが異世界に行ってからの色合いがすっごく地味。 周囲は敵によって木が枯らされてる状況で画面が茶色。ばいちゃんが黒でルルンも基本アースカラー。そんでダダンダンも木製なので、後半アンパンマンたちが来るまで画面の色彩が地味過ぎる。一番鮮やかに見えるのが悪役のすいとるゾウの青(と言ってもわりと彩度低め)
 赤い色がほとんどないのよ。これはお子様には辛いんじゃないかしら。
  あと、上でも述べたようにばいきんまんがやってることがとにかく渋いんで、お子さまによっては退屈しちゃってたみたいで、何人かぐずってる子もいました。

 あと、古参おたくにしてみたらずいぶんダイナミックプロ風味が強いなぁとw(これは欠点とは言えないかもですが)
 すいとるゾウの胸のあたりにばいきんまんが格納されてるの、漫画版『グレンダイザー』に出てきた人質をくくりつけられたグレートマジンガーのノリなんで、エグいにもほどがある。
 当然ダダンダンやモグリンなどの、2Dならではのむちゃくちゃ変形の元祖は『ゲッターロボ』ですしねw

グレートマジンガー兄さん






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?