𝑠𝑎𝑘𝑖,

気持ちの書き置き

𝑠𝑎𝑘𝑖,

気持ちの書き置き

マガジン

最近の記事

いつか神様に救って欲しいから

自分の腕に入った刺青を眺めながらそう呟く男の子と、短い冬の間だけ付き合っていたことがある。 否、付き合いと言えるほど長くはなかったと思うし、たった2ヶ月ほどで終わった気がするからあれはまだ愛じゃない。私が20歳の時のことだったのは覚えている。 彼は当時、大学生だった私がバイトをしていた店の2階にお母さんと住んでいて、半分はフィリピンの血が入っていた。お母さんは綺麗な異国の人だった。 よく夕ご飯を食べに店に一人で来ていたので、歳が同じだと分かってからはすぐに仲良くなった。元

    • 【流浪の月】 或いはたった一人の運命

      朝起きたらまず、蛇口から一番最初に出る透明なお水で毎日花瓶の水を替えるような女に憧れていた。 しかし現実の私は平気で2日は放置することもしばしばだ。3日目の夜くらいになって、ふわふわした布団に入った途端に思い出し、ああ、めんどくさいと思いながら渋々這い出して水を替え、寝る。 そんなことだから昔は花も枯らしがちだったのだけれど、数年前に食器用洗剤を数滴入れると除菌になって長持ちするという手法を得てからは意気揚々とそうするようになった。仕事でも私生活でも化学の力に甘え切っている

      • ゆるやかなさようならを

        仕事の終わりに白いバラを一輪買った。 午前9時を周ったばかりのまだ新鮮な街の中では今日もいつもと変わらぬ沢山の白いマスクがあっちへこっちへ。 最寄りで電車を降り駅前の広場へ出てみれば、まだ開店したばかりの花屋には匂い立つ瑞々しく新鮮な花々があり、清潔そうな薬局と、そしてほんの少しの雨の匂いがしていた。 昨夜は一つの命が旅立った日だった。 一週間と少し前、彼の声と清明な意識が失われる恐らく最後の瀬戸際の日に受け持っていたのは自分だったはずだ。朦朧とする彼に声を掛け、家族が彼と

      いつか神様に救って欲しいから

      マガジン

      • 宛先のないもの
        2本
      • 愛したもの
        1本