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2006年3月 日本経済新聞に小さく書かれた技術について

日本経済新聞は、経済ニュースを扱っていて、ビジネスマンや株式投資をする投資家が読む新聞だ。ビジネスマン、投資家も全てのニュースが全て理解できる訳じゃない。自分の専門に近い分野なら背景も分かるが、ふつうは見出しの内容とこれから儲かりそうか?という見立てに興味がある。

最近だと、5GやIoTという情報通信インフラや、コロナ対策需要が伸びるから儲かりそうというトレンドと捉える読み方は出来ると思います。投資は、自分の詳しい分野について行うのが原則だと投資の神様的な人が言っています。逆に、投資するなら、その分野に詳しくなることが必要になります。

私は化学、電子材料化学、ナノテクなどを学生時代に学びました。特に専攻した応用化学とは、一言でいえば製造業の学問です。モノを製造するときの仕組みやノウハウを学問としたイメージです。化学繊維や化学薬品を作るだけではありません。自動車や半導体部品を作るときにも、どんな材料とどうやって組み合わせてどう作るか?と考えるのは応用化学の範疇です。


では、2006年の私の文章を再掲して、一部追記しながら紹介します。

其の一。
マグネシウム材の実用化。
実用金属では一番軽いマグネシウム。
自動車は軽量化が燃費に直結し、エコロジーに役立つ。
鉄からアルミに代わりつつある現状だが、
さらにマグネシウムを使いたいらしい。
しかし、問題があって今まで実用化できていない。
それは、熱処理に弱く、もろくなってしまうのだ。

それを、解決するのが、材料化学のテクノロジー。

解決策1は、微量添加物の活用。
カルシウムを添加すると、
マグネシウム板の表面に薄いバリア膜を作る。
酸素がマグネシウム中に入って錆びるのを防ぐ。

解決策2は、原料の微細粉末化。
原料のマグネシウムの粉を細かく均質に砕く技術。
これまでは一部大きな粒子が混ざっていて
それが、熱処理の時にもろくなる原因だった。

こうした工夫によってアルミを上回る軽量化材料
マグネシウム板は実用化に近づいているという。

【追記】

自動車のボディーをマグネシウム材で作るのは、2020年でも一般的ではないみたいです。本当に難しい技術なんでしょう。材料を変えるという技術革新はこれまでスピードがものすごくゆっくりでした。スマホがどんどん進化したり、新しいWEBサービスが始まるスピードとは比べられないぐらい遅いです。

だから、そこへAIを使って加速したいわけです。他社より技術で先行して基本特許を取得したり、製造能力を高めたりすれば、ちょっとやそっとじゃ追い抜けないような差を付けられるんです。


「マグネシウム合金にステンレス鋼のノウハウを生かす」

どちらも、ナノテクでも応用可能な優れたアイデアだと思う。
それは、鉄鋼で蓄えられたノウハウが活かされている。
純粋な鉄よりステンレスの方が強く、使いやすい理由も
微量の添加物のおかげだ。
添加成分の種類、量、配合にさまざまな工夫があるのだ。
カタログにはそれら添加物の違いにより
使い分けできるステンレス材料が何種類も載っている。



気になる科学ネタ。其の二。
農家はウシの糞の処理に悩まされているという。
肥料にするのが一般的だが、それ以上に糞が余っている。

それに目をつけたオムロンと東工大。
なんと熱と圧力を強くかけることで
牛糞をガソリンに変えることができた!という。

おそらく、牛糞処理が目的で、
将来ガソリンを大量に作る技術にはならないと思う。
熱処理にエネルギーを結構多く消費してしまうからだ。
しかし、バイオエネルギー技術の今後の発展に期待したい。

化石燃料を消費している石油化学が
農業と結びついたバイオ化学、バイオエネルギーに
交代して発展していけばいいと思う。
化学はもう一度、自然と人間を調和した社会を作り出せる。
可能性を信じたい。


【追記:メタン発酵】

牛糞からガソリンを作ったというニュースのその後は全く聞きません。しかし牛糞をメタン発酵させてメタンガスをバイオの力で作るというのは、実用化されています。ただし、メタン発酵は古い技術なので、オムロンや東工大の技術とは関係がないと思います。私も、当時はそれほどバイオには詳しくありませんでしたが、牛糞からガソリンがじゃんじゃん作れるというような判断はしてなかったです。ガソリンが出来るというのは、私が記事の解釈を間違えていて、燃料が出来るという書き方だったのかもしれません。農業廃棄物からバイオの力で燃料ができるって夢があるストーリーで投資したくもなりますよね。


でも、メタン発酵の研究所勤務を経験した私は、今ではちょっとネガティブです。牛糞は単なる廃棄物よりも、ずっと危険な病原体を含んだ汚染物質と捉えた方がいいと思います。社会はコロナウイルスの影響もあって清潔へ大きくシフトしてます。汚いものを処理する技術に、衛生コストを加算すると、安くなった原油に太刀打ちできないでしょうね。

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