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レベッカの結婚

映画・Ghost Worldの世界を地でいってたイーニドなので、同窓会の誘いがあっても顔を出席した事がない。いや嘘です。1度だけ出席したことがあります。クリエイティブな仕事の横文字名刺交換しただけで、どうでもいいクソみたいな雰囲気を感じたので、面倒臭がりは二度と出席しないと思ったのでした。名刺を出し聞かれたので仕事内容を答えただけなのに、田舎者の小さな出来事からの遥かなる想像力はまちおこしにでも生かして下さい。

田舎を出てから数十年、どんどん人口は減りお店は無くなり町が衰退していく。田舎の残った者同士で町をなんとかしようと郷土「愛」と言う優しさと楽しさで立て直そうと努力している。田舎から出て何か知りたい見たいと言う好奇心や学びの気持ちがないと人は変化(成長)しない。一度外に出てから、その辿ってきた道を俯瞰しないと自分の事すら知り得ないし、ましてや同じ日本でいながら大きく文化が違うことも気がつかない。それを知った上でなければ、町外から来た人たちが何を求めて何を必要としているのかわからないだろう。大前研一さんの言う住む場所とつき合う人を変えなければ人は変わらない。

レベッカは、友達やお世話になった人、学生時代や青春、生まれ育った場所や思い出、吹き荒ぶ強い風、坂の上から見える水平線、真冬の陰鬱な荒くれたグレーな海、神社の桜並木、親も愛も憎しみも情も義理も全てを捨てた。

レベッカの母親は精神的に病んで以降、認知症を患いレベッカの父親が面倒を見ていた?ほぼ家に閉じ込めてられていた噂は知っていた。妻が精神的に病んで、恥ずかしいとレベッカに八つ当たりし、その頃から家から出さずほぼ幽閉していると聞いていたので、その話を聞いてもそうだろうな程度しか浮かばなかった。レベッカを見かけたとか帰ってきたとか噂も一切入って来なかったので、仕送りはしても実家に戻る事は殆どなかったのだろう。ずっと東京に居続けているのだと思った。そのうちレベッカの母親が新聞の死亡欄に掲載されていると母から連絡はきたが、葬儀の話はどこからも聞こえてこなかった。以降、帰郷した時、レベッカの1人と会っても愚かな事をした過去の人として話題が出る程度になってた。それすらも忘れてしまっていた年月が過ぎた頃、レベッカが実家に電話を掛けてきた。
「イーニドさんと連絡を取りたいので電話番号を教えて頂けませんか?」
母曰く、レベッカの父親が亡くなったので田舎に戻って来ていたようだった。もうその頃にはレベッカの件は親に伝えていたので、母親もレベッカに余計な事は言わず聞かずでやり過ごした。そしてまたすぐに電話が掛かってきた。それは同じ田舎出身で東京に出てから意気投合して、当時よく一緒に遊んでいた友達からだった。その友達は東京で学生生活を終えた後、田舎に戻ってすぐに嫁いでしまったので、数年に何度しか会う程度で話をしても近況報告程度だった。その友達は愛想もよく賢くしっかりして立ち回りが上手なので、レベッカに探りを入れるように近況を聞いた。「父が亡くなり、もうお葬式も済ませて家の整理をしているの。結婚して今、旦那さんと一緒なんだ。イーニドの連絡先知ってる?」

性格が全くマメではない怠慢な私は、数人の友達にしか電話番号を教えていない。一時期海外で仕事をして居たのもあって、いちいち報告するのが面倒だったのもある。20代からメールアドレスが変わっていないので、私に用事があるなら、そのアドレスで連絡すればいいという考えである。私のその性質も知っている上、レベッカと学生時代仲良かったのも知っているし、そもそも嫁ぎ先の店の番号で辿ってまで電話をしてきたので、察しの強い友達はレベッカとの電話を切ってから、すぐさま私に連絡を入れてきた。「レベッカさんから、私に電話が掛かってきたのびっくりしちゃった!仲良かったのに私のところに電話を掛けてきたって事は、きっと何かあるだろうと思って連絡先は教えなかったわ。教えて欲しいって言ってたけど、教えないほうが良いよね。取り敢えず確認してから断ろうと考えたので電話したよ。」レベッカの事情は地元関係でも全く話をしていなかったので、色々あった事を友達に一通り教えると「また電話するって言ってたので、連絡きたらわからなかったって伝えておくわ。」
これが最後のレベッカだった。

時間という薬は、いつの間にか忘れさせてくれるし、勝手に記憶を上書きしてくれるし、大概の事を都合の良いように書き換えてくれる。


思い返すと、イーニドの1人の実家の電話番号とレベッカの1人の電話番号は変わっていないのに、レベッカは彼女たちに全く連絡をして来なかった。
嫁ぎ先に電話がきた友達とは、過去に挨拶程度しか会ったことがないのにもかかわらず、私の交友関係を思い出し電話帳を調べてまで嫁いだ友達を返して私と連絡ができるか試みたのだろう。そこまでして私に、一体何の用事があったのか?何か心残りがあったのか?結婚して幸せマウントをとりたかったのか?それとも何か取り繕う為の演出としてのアイテムが欲しかったのか?単純に学生時代の友達と思い出の甘さを取り戻したかったのか?
友達に助けて貰った恩を感じていれば、私のところより先にイーニドの1人の実家に連絡し詫びを入れ借金の返済の旨を伝えるだろうが、相手に対し借りと恩と誠意があれば電話ではなく、礼儀として親が亡くなったと死亡通知に誤りのコメントを入れ手紙を送り連絡の手立てを取るのが社会人としての常識だと思う。それぐらいもう私たちは若くはないので、年齢を重ねた経験としてのマナーを身につけており、礼儀の価値観が合わなければ同じ土俵にはいられないものだ。レベッカの行動で考えつくのは、羨みと恨みだけがいつまで経っても解消されず、それを精算したかったのかもしれない。
実家も売却し、全ての整理がついたので二度とこの田舎には足を踏み入れる事はないだろうし、レベッカはもう自分に嘘をつく必要がなくなったと思う。面倒だけど、もしレベッカに言葉をかけるとするなら「もう終わった事なのでお互いを思い出さずに忘れたほうが幸せだよ。」


あの頃、頬を赤らめてながらわざとふざけた甘えた声で
「かよはね、将来お姫さまになるの。そして幸せに過ごすの。」
「何それ?想像力足りなくない?将来の夢ってもっと何かなくない?」
「うふふ」と、恥ずかし​がりながら楽しそうに笑っていた彼女を思い出す。

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