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【オススメ】この夏ももう終わるけど、まだまだ暑い今読みたい海外文学3選

残暑お見舞い申し上げます。

まだまだまだまだ暑くてかなわない日々ですが、夕方空を見上げると少しだけ秋の顔。
夏の空とどこが違うんだろうと、変わってしまった後ではいつもよくわからなくなってしまうんだけど、なぜか毎年夏から秋に変わる時はあぁ空が変わったなぁと思います。

でも実際はまだ暑い!

そんな夏の終わり、ちょっと腰を据えて気になる大作とがっぷり向き合ってみませんか。
個人的にこの夏(といつかの夏)読んですごくよかった3冊をご紹介したいと思います。


大作、、、、、、とちょっと引いた方もご安心を。
どれもとっても翻訳が素晴らしく読みやすいです。翻訳が苦手という方も違和感なく読めると思います。そしてストーリーは言わずもがなで素晴らしいので、読み切れるかなと不安になっても大丈夫!と言いたい。
それに本は最初から最後まで読めなくても大丈夫とも言いたい。
少しでも何か感じることがあったなら(たとえそれが負の感情であったとしても)それでいいのです。


それでは順不同でいってみよ!

まずはこれ抜きでは今年の夏は語れません。

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『三体Ⅱ 黒暗森林 上下巻』劉慈欣 著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功 訳 早川書房

前回SFはあまり読まないと言っておいてこちら超どSFなんですけど、これは例外。読まないわけにはいかない超大作です。

中国をはじめ世界中でベストセラーになった3部作の第2部です。

第2部ってことは1部から読まなきゃだめなのって思いますよね。

はい…………だめなんですーーーーーーー

残念ながらこれは大丈夫です!とは言えなかった……。

これはぜひ1部から読んでください。

そうじゃないとたぶん意味わからんと思います。

でもご安心を。ものすごい面白さでぐいぐい読めます。第2部は上下巻ですがまったく問題なし。天文学的な話や核の話も少しありますが、読みやすく大体わかるように書かれてるし、多少わからなくても物語は理解できます。

かなりざっくり説明すると、宇宙の彼方に三体という生命体のある星があり、そこがかなり過酷な環境の星なのでどこか移住できる場所はないかと探っているところに、まだ文明的に未発達である地球が ”だーれーかーいーまーせーんーかー!!” 的な感じで宇宙中に呼びかけてしまい狙われることに。はるか彼方なので三体人が地球到着までは4世紀あるが、その間に地球人は三体人との全面対決の用意はできるのか!?という感じの物語。

完全にエンタメなので、スターウォーズなどお好きな方には絶対おすすめだし、もっとずっと細かい設定(ごめん詳しくないので説明できない)で未来の地球、未来の宇宙との関係が想像できて楽しいし、なんかいかにも中国的な無茶苦茶さもあってそれもものすごく楽しい。

三体Ⅰから通して史強(シー・チアン)という警察官が出てくるんだけど、なぜかそのおじさんだけ昭和の刑事の匂いがして絶対みんな好きだと思う。しかもⅠとⅡを通して主要キャラなのは彼だけなので、超重要人物です。

ちょっと中国の俳優はジャッキー・チェンくらいしか知らないので韓国人だけど映画になったらソン・ガンホがやると思う。きっと。

この夏最高のひまつぶしです。

そして第3部が楽しみです。買っちゃいます。絶対。


2冊目

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『アコーディオン弾きの息子』ベルナルド・アチャガ 金子奈美訳 新潮社


こちら読み終えたばかりなんだけど、素晴らしかった。

きっと来年の日本翻訳大賞はこれだと思う。

と思ったら金子奈美さんはすでにその賞を受賞されていたのでわからないけど、でももう一度とっても全然おかしくないと思う。

それくらい素晴らしい作品でした。

作品も素晴らしいし、翻訳もこれはものすごい仕事じゃないかと思います。原書が読めないから想像でしかないけど。

内容は、スペインのバスク地方で生まれ育った主人公がアメリカに亡命して病気でなくなるまでの人生を描いた回想録となっているんだけど、まずバスクってみなさんご存知ですか。
チーズケーキの国って感じですかね。美食の街とも言われていますね。

そんな美味しそうな雰囲気しか今のところは押し出されていない気がするバスクですが、実はものすごく茨の歴史を歩んできています。

わたしもあまり詳しくはないので、細かい部分違っているかもしれませんが、この本はバスクの時代背景がとても重要なので簡単に説明いたします。


ETAという過激派のことを聞いたことがあるでしょうか。
スペインは第二次世界大戦以降、長年フランコという独裁者による独裁政治が行われていました。

バスク地方は独自の言語(スペイン語にもフランス語にも由来しない)を持つ地方自治体だったのですが、その昔ピレネー条約によりフランス、スペイン間の国境を決めた際にはっきり分断され南側はスペイン統治とされました。

その後第二次世界大戦のおりスペイン内戦になり、バスク地方のゲルニカがフランコ率いる反乱軍とドイツ軍の結託により空爆。壊滅的被害を受けました。その時の様子を描いたとされるのがピカソのゲルニカです。

当然祖国を蹂躙されたバスクの人たちは怒り、その一部がETA(バスク祖国と自由)という組織を結成し、どんどん抗議がエスカレートし過激派になっていきます。

この辺の歴史はとても複雑で、バスクの中にもETAとして活動する人がいる一方、反乱軍と結託して祖国を売るものもいました。そして大部分の人々はその間で翻弄されただ巻き込まれていきました。たくさんたくさん人が死にました。

歴史背景が長くなりましたが、バスクの歴史は実際もっとずっと複雑。その時代を生きた主人公ダビとヨシェバとその家族、友人の物語です。

ストーリーを書くと超絶長くなってしまうので、ホームページなどで読んでいただくとして、個人的な感想のみ書いていきたいと思います。

とにかくこの物語はバスク語という消えゆく少数言語で書かれていることにとても意味があるように思いました。
この本の最後には亡命して、祖国バスクには帰れず、自分の母語がだんだん消えてゆくことに、記憶が消えてゆくことに怯えている主人公の姿が描かれています。

ダビは人生の回想録を自分の母語バスク語で残すことにします。それは最愛の妻や娘には読むことのできないものでした。ダビの死後ヨシェバがそこに付け足し、最後のダビの様子も書き込むことによって全ての物語が完結しているという形です。ダビの物語にヨシェバが補足するというところがとても重要で、それによって見えなかったところが見えるような構造になっています。

ダビはアメリカに亡命後とても幸せな結婚をして、幸せな晩年を送りました。
それでもやはり愛する人たちと自分の言葉で話せないというのは、おそらくものすごく辛いことだったんじゃないかと思います。たとえスペイン語では話せたとしても。

実はわたしはバスクに仲の良い友達がいるのですが、彼女のおばあちゃんは彼女が外国人の友達を家に連れて帰るとスペイン語で話し出すと言っていました。その人が何人であってもおばあちゃんにとって外国人はスペイン語を話す人。つまりスペイン語は彼らにとって外国語なのです。

バスク人ってけっこう独特で、他のスペイン人は割と出会ってすぐに仲良くなって1日で腹心の友みたいになっても、次の日には名前も覚えてくれてないみたいな人が多いんだけど、バスク人は割ととっつきにくくて変人。どこからきたの?と聞くと必ずバスクと答え、スペイン?と聞いてもバスクだと言い直される。でも一度仲良くなると本当に心を許してくれてずっと友達でいてくれる。そんなタイプの人が多いように思います。

不器用で真面目で若干めんどくさいタイプ。

この本に出てくる人たちもそんな人が多い。
みんなそれぞれ不器用で、一見不真面目に見えても根は真面目で、いろんなことに固執する故にめんどくさい。


人間は言語をなくしたら記憶もなくなるだろうと何かの本で読んだことがあります。
つまり人は映像のみで覚えているわけではなく言語で映像化しているということ。

祖国で思い出したくないような辛い記憶ばかり作られ、ついには捨てなければならなかったダビ。でも気持ちの中では捨てきれなかった。消えていくのが辛かった。そんな葛藤が垣間見えて胸が潰れそうになった。

とてもここでは語りきれないほど深く悲しい物語だけど、ものすごく美しい世界でした。
これをバスク語から訳して下さった金子さんには本当に感謝いたします。
こんな本を日本語で読めるなんて本当に幸せなこと!
ぜひ堪能してみてください。

そして3冊目

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『屋根裏の仏さま』ジュリー・オオツカ 岩本正恵 小竹由美子訳 新潮社

長くなってしまったので、最後はさくっといきたいと思います。

また新潮クレストブックスでしかも戦争ものとかぶってしまっていて申し訳ないけど、こちらも傑作なのでぜひ。

一番薄めの本なので、手に取りやすいかと思います。

100年前、写真花嫁としてアメリカに渡った無数の日本人たちの声を、いくつもいくつもひろって集めた物語。

物語といえどそれは限りなく真実で、一つ一つは全然別の声なんだけどそれが幾重にも折り重なって大きな物語になっていくという構造。

非常に淡々と書かれているけれど、第二次世界大戦、パールハーバーが起こり、収容所へ連れて行かれる結末は事実としてあって、どうして連れて行かれるのか本人たちも誰も知らないまま、人知れず消えて行ったりする人たちが確かにその時そこに生きていたんだということが実感として迫ってくる。

この文体だからこそ感じられる凄さ。

文句なしに素晴らしいと感じました。
戦争の物語は数あるけれど、こういう書き方をしたものは他にないと思います。そしてそれがこんなにも心に残るとは。

装丁が綺麗なのもクレストブックスはいいですね。


さてさて果たしてこの文章を全部読んでくれる人がいるのか謎ですが、何か一つでも引っかかって本を読んでみようと思ってもらえたら嬉しいです。


あまり海外文学読み慣れないなぁという方も多いと思いますが、そんな方におすすめなのが今年も全国あちこちの書店で始まる『はじめての海外文学』というフェア。

こちらはなんと80人以上の翻訳家さんたちが有志ではじめて読むのにおすすめの1冊を紹介してくれるスペシャルフェアです。

毎年フェア開催と同時にイベントもやっていて、これがもうものすごく面白いトークイベント。持ち時間3分以内におすすめの1冊の魅力を話さなくてはいけないので、かなり高名な先生方も必死でトーク。その様子がもうみんな本への愛に溢れていてすごく魅力的で……、帰り道はどっさり本を買って帰るはめになります。

今年はこんな状況なのでオンラインでやるそうですが、すっごいおすすめなのでぜひ一度体験してみてくださいーーーーーー
イベントの案内もホームページの方で見られますよ。


店作りはなかなかまだ実行できることが少ないので、時々脱線してこんな感じで本の話を混ぜて行けたらと思っていますー。

しくよろよろたのー(突然のEXIT)

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