#27 2020年わたし的日本文学ベスト3発表!
新年明けましておめでとうございます。本当はこれを年内に上げて、新年は新年で新しい話題に持っていきたかったのですが、全然終わりませんでした〜。
本屋大賞の一次投票締め切りも近かったので、一緒に考えようと思っていましたが、なんせこれだけ読もうと思っていた本が読み終わらなくてなかなか(と言いつつ年末年始カニ食べて呑んだくれてたのはひみつです)。
ということで日本文学の方もやっていきたいと思います〜!
でもやっぱりというかなんというか、このジャンルこそそこまでたくさん読めていないので今年読んだ数少ない小説ほとんどがランクインしてしまうことになるんだけど、正直読んだものがほとんど全部面白かったんですよ。だからこれでもめちゃくちゃ悩みました。ちなみに先日本屋大賞の一次投票を終えましたが、あちらは去年出た本という縛りがあり、個人的に他の賞を受賞していないものを選ぼうと思っていたので、こことは違うものを選んでいます。
今年はミステリーやSFはほとんど読まなかったです。基本的にわたしの好みはなぜ海外文学が好きなのかという回でお伝えした通り、地道にコツコツ何かを積み上げていく日常のようなジミぃ〜なものなので、そういったジャンルに偏っていることをお許しください。
ということで、いってみよー!
【第3位】
『からくりからくさ』梨木香歩 新潮文庫
こちらは梨木香歩の初期のもので、かなり前の作品になるのだけど長年積読してしまっていて今年ようやく読みました。
そしていやいやこれはものすごい傑作ではないかとびっくりしました。
なんとなく梨木香歩作品の中では埋もれた印象があったので、もったいないと思うほどでした。
ストーリーを書くととても誤解されそうな話なんだけど、まぁとにかく書いてみますね。
祖母が住んでいた古い家に、祖母の死後管理の意味もあって住み始める蓉子。広い家なので他にも下宿人として集まるのが蓉子と同じように手仕事を生業としたり、それを目標にする与希子と紀久とマーガレットという女性3人。
そしてリカさん。
リカさんとは、蓉子が小さい頃祖母にもらった市松人形で、心を持ち蓉子と会話もできる不思議な人形だ。
でも祖母が亡くなるとお浄土に送ってくると言ってリカさんはそれきり抜け殻のようになったのだという。
下宿人の3人はリカさんの紹介に戸惑いつつもすんなり受け入れる……ように見えてやっぱり戸惑っていたりする。そりゃそうだ。
それでも4人はそれぞれ染色や機織りなどの手仕事をしつつ、四季折々に移り変わる庭仕事や、台所に立ってワイワイ過ごしそれなりに楽しい日々を送っていく。
そんな中でリカさんを中心とした不思議な運命の過去がわかりだして……
というストーリー。
あい、ちょっぴりホラーのようです。
でも安心してください。
リカさん、髪逆立てて宙に浮いたり、障子の影からじっと見ていたりはしません。
過去の因縁の話など少し怖いようなところもあるけれど、これは総じて女性の生き方を書いた女性の文学だと思う。
ただ素晴らしいのは、いわゆるフェミニズム文学とは違って女性はずっと理不尽な扱いを受けてきたというところを書いているんじゃなく、女性の血のあり方、違いをきちんと受け入れた上でこんな風に生きてきたというところを書いているところです。
それを、基本的には男の仕事である人形師が作った人形というものを中心として、世界中どこでも女の仕事の中心であった染色、機織りという手仕事で包み込んでいくのです。
ラストはかなり独創的で驚いたんだけど、あまりにも美しくて鳥肌が立つほどでした。
こういうものはやはり、梨木香歩以外には書けないだろうなと思いました。
埋もれさせておくのは非常にもったいない作品。
文庫でまだまだ手に入るので、ぜひ読んでいただきたい1作です。
【第2位】
『首里の馬』高山羽根子 新潮社
第163回芥川賞受賞作品。芥川賞を毎回読んでいるわけではないのですが、こちらは表紙を見てすぐに読むと決めました。
タイトル、装丁も素晴らしかったけど、帯も良かった。
「この島の できる限り すべての情報を 守りたいー
いつか全世界の真実と 接続するように」
とありました。
読んでみて、その第一印象そのままに素晴らしい作品だった。
沖縄で個人的に集めた品物をたくさん蒐集してある郷土資料館で、主人公の未名子は毎日資料の整理をしていた。仕事ではなくそれが一つのライフワークになっていた。それだけでもちょっと風変わりな生活なのだけど、その未名子の仕事がまた超絶変わっていて、遠く世界の果てで孤独にすごす人々にオンラインでクイズを出題するオペレーターという仕事をなのだという。
何それ、そんな仕事ないでしょと思うんだけど、読んでると本当に天涯孤独な人々が気を確かに持っておくために必要な仕事だという気がしてくるから不思議。
そんなある台風の日、幻の宮古馬が家の庭に迷い込んできて居座ってしまう。生き物に縁がない未名子はどうしたらいいかわからず持て余す。
ちょうどそんなおりにお世話になっていた郷土資料館の主人が亡くなって、資料館も取り壊しが決定されて……
というストーリー。
短い物語のなかに時がすぎて失われていくものたちへの想いがぎゅっと凝縮されて詰め込まれていく。
無駄な文章が一切ないという感じ。
読んでいて心地よく、簡単に別世界へ連れて行かれる。
非常に淡々と感情はなるべく抑えて書かれているんだけれど、それゆえ強い想いが押し寄せて胸にきます。上手いなぁとうなってしまいました。
とても読みやすく難しい場面は全くないのだけど、伝えていきたいもの、歴史、その重さがズシリとくる。もう一度ゆっくりじっくり読みたい。そう思わされた一冊でした。
【第1位】
『かか』宇佐見りん 河出書房新社
三島由紀夫賞、史上最年少受賞作。
こちらは今年読んで最も衝撃的だった作品。
”かか” とはお母さんのこと。
この物語は ”うーちゃん” ”かか” ”みっくん” が主な登場人物です。
脇役として ”明子” ”ばば” という二人が出てきます。
まれに ”とと” とか ”ホロ” とかも出てきますが、それがほとんど全ての登場人物です。
大体わかるかと思いますが、一つの家族の物語、もっと言えばうーちゃんとかかの母娘の物語です。
衝撃的なのはまず文体。
全てうーちゃんがみっくんという弟に語りかけるという体で書かれています。
その言葉遣いがとても独特。
一節抜き出してみると
ーいきなし妙ちきりんな告白から始まってごめんだけど、うーちゃんは体毛を剃るのが下手です。はじめてかかのカミソリをあててみたときなんかは、何もつけずにしたせいで当然のごとく肌を傷つけ赤こい線を作りました。今ではさすがに泡あわ使うし怪我はしんけど、十九歳になったところでむつかしさはかわらんもんよ。ー
という感じ。終始この子供のような幼さの残る文体で書かれています。
そして方言に混じって ”あかぼう(赤ん坊)”や ”ありがとさんすん” などの ”かか語” というものが混じってくるので、さらに独特な雰囲気を作り出しています。
うーちゃんのかかはなんとなく想像がつくかもしれませんが、典型的なダメ親で被害者意識を常に持ち、愛せないのに愛されたいタイプの人。そしてお酒に溺れて暴れたりする。
そんなかかを憎みきれず、どうしても愛してしまううーちゃん。離れたいのに離れられず、どうあがいてもしばりつけられてしまう血の呪いのようなものを感じます。そしていつしか愛されたい気持ちで溺れてしまうだろうことを自分でわかっているんです。
その気持ちを解放してくれるのがSNSへの投稿でした。
うーちゃんはたびたび嘘も本当もSNSへ書き込んで、その反応を見ています。それは楽しみのためにやることというよりは、何かの儀式のようで逆につらいように思うのだけど、うーちゃんにとっては必要なことなのです。
それから ”ばば” と ”とと” が出てくることによって、かかもまた愛にうえた恵まれない人だということがよくわかります。そしておそらく自分も同じように繰り返してしまうだろうことも、うーちゃんは細胞の奥の方からよくわかっている。
その呪いを解くため(だとわたしは読んだのですが)にうーちゃんはある驚異的な決心を胸に、熊野へ旅に出ます。
そこはぜひとも読んで確認していただきたい。
わたし自身も娘を持つ母親ですが、自分の母との関係、そして娘との関係を思うと、母と娘の間には何か血のつながり以上の強烈な因縁のようなものを感じます。わたしは十分愛されて育ったし、娘を本当に愛しているけど、そういう感情とは別のところで切っても切れない何かがあるように思います。
そんな関係性を全部飲み込んだうえで、人間のどろどろの部分全部ここに書き切っているという感じがしました。
なんと若干21歳、現役大学生だという著者。その歳で本質的なものを捉えて全て書ききるすごさ。物凄い才能が出てきたなという気がします。
2作目『推し。燃ゆ』も読みましたが、こちらも期待を裏切らないすごさ。
芥川賞候補ともなっています。受賞したら間違いなくこちらも史上最年少……と思ったけど、綿谷りさ、金原ひとみが19歳、20歳だったので塗り替えられはしないですね。でも本当に今後が楽しみな作家さんです。
以上3作、どれも全部素晴らしかったので、もし気になるものがあったらぜひ手に取ってみてくださいね。
今年はもう少し本屋作りを進めて行きたいと思っていますが、コロナが猛威を増してきているのでどこまでできるかわかりません。でも可能な限りで無理をせず進めて行きたいと思います。
それから本屋の仕事のことや、読んだ本のこと、私生活のことなどもゆるゆるとアップできたらなと思っておりますので、もしよろしければお時間ある時にまた見にきてくださいね。
それでは本年がみなさんにとって幸多き年になりますように。今年もどうぞよろしくお願いいたします!
いただいたサポートよい本屋を作っていくために大切に使わせていただきます。サポートしていただいた方にはもれなくわたくしの心からのスマイルを送らせていただきます!念をこめて。