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各国紹介(ヨーロッパ) フランス

地理に関心がある皆さんへ。各国地誌を見ると、地理の要素や要因、系統地理を理解する助けになります。
地理の学びは物事を見る解像度を引き上げてくれます。

本日の一国は「フランス」
西ヨーロッパに位置する先進国の一角。欧州最大の農業国、世界一の観光大国でもあります。
では、参りましょう。

フランスの領域(海外領土含む)
フランス国旗
フランス国章

フランス共和国は、大西洋、北海と地中海に面する本土と、仏領ギアナやマルティニーク島、レユニオン島、マヨット島など世界各地に海外県、海外領土が存在します。
これらの海外県、海外領土は旧植民地で、フランス語もこの領土の広がりを反映して広く使われています。フランス語話者人口は、中国語、英語、スペイン語、アラビア語に次ぐ5位。
また、フランス語圏である旧フランス植民地とは「国際フランコフォニー機構」という緩やかな協力組織を設置しています(元々、文化や技術協力を主目的として設立されており、他の地域連合のような経済・政治連合色は薄い)(現在はフランス語圏以外も参加)。

フランコフォニー国際機関のロゴ

国土面積はおよそ64.1万㎢。海外県や海外領土を含む場合、排他的経済水域の広さは世界2位。人口は6700万人ほどです。

英仏海峡を挟んでイギリス、その他ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、スイス、イタリア、スペイン、アンドラ、モナコと国境を接しています。

国名は、ローマ帝国以後、ヨーロッパで大きな勢力を持ったフランク王国と同じ「フランク」に由来。
フランクとは、英語や古フランス語に見られる「自由・高貴・誠実」を表す語、さらに遡るとラテン語の「自由人」という単語に行きつくという説、さらにゲルマン祖語のFrankōnに由来し、フランク人が用いた飛び道具(実際には投げ斧(フランシスカ))に由来するという説などがあります。

北部や西部には、15世紀くらいまでは森林地帯だったとされる肥沃な平地が広がり、南東のイタリア、スイス、ルクセンブルクとの国境地帯はジュラ山地やアルプス山脈、スペインやアンドラとの国境地帯はピレネー山脈がそびえています。その間の地域は地中海に面しています。

地形図

また、主要河川としては東部を北流するライン川、首都パリを通り、英仏海峡にそそぐセーヌ川、その南に大西洋にそそぐロアール川とガロンヌ川、地中海にそそぐローヌ川などがあります。

主要な地形

また、コルシカ島など、沿岸の島々があります。
構造で言うと、ヘルシニア造山運動(古生代から中生代)で形成された古い山地が北部から西部に向かって走り、一方で南から東に向かってアルプス造山運動によって形成された険しい山地が走っています。
古い山地の代表例が、石灰岩質の山地であるジュラ山地。地質年代「ジュラ紀」の語源ともなっています。

また、南東部には中央高地が広がっています。
ローヌ川は、中央高地と南東部のアルプス山脈の間を抜けて流れていることがわかります。
また、コルシカ島はアルプスなどの山地群の一部。島の7割を山地が占めているのはそのためです。

コルシカ島の衛星写真

最高峰は、イタリア国境、アルプス山脈にあるモンブラン(4810m)です。

モンブラン

また、これらの山地は、アキテーヌやパリなどの盆地の周辺を囲んでいます。
パリ盆地周辺は地層が硬軟の互層になっていて、それが地殻変動で傾き、不均等に侵食されたケスタ地形で有名。

ケスタ地形の概念図

傾斜地で水はけが良いこともあり、ブドウの産地、醸造業が盛んであり、その周辺地域も肥沃な土壌に恵まれているため、農業の中心地です。
ちなみに、フランスはブドウ生産では中国、イタリア、スペインに次ぐ4位、ワイン生産ではイタリア、スペインと並ぶ3強で、トップ争いを展開しています。

その西側のブルターニュ半島は一転してやや起伏の大きい地形で、海岸付近までなだらかな山地や深い谷が張り出しています。

ブルターニュ半島

その北のサン・マロ湾やビスケー湾付近は砂浜や砂州が見られ、サン・マロには有名な陸繋島、モン・サン・ミッシェルがあります。

サン・マロ湾とモン・サン・ミシェル

ブルターニュ半島はケルト文化が残る地域で、ケルト語の系統であるブルトン語とフランス語とのバイリンガルの人々が見られます、現在でもヨーロッパの言語分布ではケルト語圏として扱われることが多い地域です。

英仏(ドーバー)海峡沿いには石灰岩の白亜(チョーク層)の絶壁、地中海沿岸のコートダジュール沿岸の山地など、海岸線は意外に険しい地形が多いのも特徴です。

ドーバー海峡

気候は、北大西洋海流と偏西風の影響を非常に強く受けています。

気候分布

国土の多くは西岸海洋性気候(Cfb)で、西部沿岸地域は特に気温の年較差が小さく、比較的多湿。東に行くほど大陸性気候の特徴を呈するようになり、冬季の冷え込みが厳しくなります。
南東部は地中海性気候(Cs)、山地は高原など、標高が高い地域では冷帯湿潤気候(Df)が見られます。
首都パリの1月平均気温は4.6℃、7月が20.4℃、年降水量は620㎜ほどです。

産業は、まず西ヨーロッパにおける最大の農業国です。
ヨーロッパ全体の農業生産額の2割近くを占め、国土の半分が農地。
特に北部地域で高度に商業化、合理化された農業は、主要食糧の完全自給をほぼ達成し、他国に穀物や畜産、乳製品、ワインなどの食糧、加工品を輸出しています。

工業も高度に発展。食品加工、繊維などは高付加価値化が進んでおり、化学や機械、自動車、航空宇宙、原子力などの分野において世界最先端を走っています。
有名どころでは、自動車メーカーのルノーやプジョー、航空機メーカーのエアバスなどが挙げられます。
トゥールーズは、エアバスの最終組み立て工場があることで有名です。

旧植民地でウランが採掘されたこと、できるだけ他の勢力圏に資源や技術を依存しない安全保障上の観点などから、原子力発電が7割近くを占めている点は特筆されます。
原子力技術を統括している企業がオラノ(旧アレバ)で、福島第一原発の事故の対応にも様々な技術を提供している会社です。

同様の思想は軍需品調達でも見られ、フランス軍は戦闘機や戦闘車両を含む多くの兵器を国産にしています。

フランス軍ラファール戦闘機

また、偏西風を利用した風力が1割近くを占めており、水力も1割、西岸部は干満差が大きいことから潮汐発電を行うなど、発電においても独特な方向性を持っています。

ルイ14世の時代から観光地として歩み始めたニースや、映画祭で知られるカンヌなどを中心とするコートダジュール(フレンチ・リヴィエラ)など、南部のリゾート地は北ヨーロッパの人々に人気。
さらに各地に残る文化財、文化都市「花の都」パリやルーブル美術館など観光資源にも恵まれており、観光客数は長年にわたり1位をキープ。世界一の観光大国です。

コートダジュール
パリ

このように、第一次産業から第三次産業に至るまで非常に安定した経済基盤を持っており、国民1人当たりGNIはおよそ40,000ドルを誇ります。

およそ6700万人の人口は、ヨーロッパではロシア、ドイツに次ぐ3位の多さです。
フランスの主要民族である「フランス人」は、ケルトやゲルマン、古代ローマの人々の混血とされ、その他バスクなどの少数民族、イタリア系、南アジア、マグレブ、トルコ、アルメニア系などの移民が多く、度々民族問題が発生しています。
また、ロマの人口も多く、度々その扱いも問題になっています。
フランスは人口の4割が、20世紀以降の移民をルーツに持つと言われる「移民の国」の一面もあります。
公用語はフランス語、その他諸民族の言語や各地方語(先述のブルトン語など)が使われています。
宗教はキリスト教カトリックが7割程で優勢ですが、北アフリカ系の移民が増えていることから、イスラム教徒の割合が増加しています。

文化面における日本との繋がりは深く、日本のアニメも大変人気があるようです。
19世紀の「ジャポニズム」流行をはじめ、日本とは文化面での交流が特に多い国の一つとも言えます。

一方で最近では、年金改革反対デモ、反差別デモが暴徒化し騒乱状態になるなど、治安関係の悪いニュースで目にすることも増え、国内情勢が不安定化している様子が見て取れます。

しかし、その存在感と国力は今も世界屈指。今後も世界の主要国として独自スタンスを貫き、存在感を発揮していくのではないでしょうか。

今日はこれくらいで。

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