極渦崩壊は何を示唆するのか
極渦分裂

極渦崩壊は何を示唆するのか

mokosamurai / もこ侍

気象庁によると、これから日本列島は観測史上最強とも言われる寒波に見舞われるとのこと。

この寒気団、しばらく前から北米やヨーロッパに異常低温

をもたらしていた寒気団と同質のものです。
「屋外での深呼吸は控えよ」というのは、かつてシベリアのヤクーツク(1月平均気温-40℃)での警告を耳にして以来。
家畜が立ったまま凍っていたなどというとんでもない話も耳にしますので、その異常さがわかります。


異常な寒気の正体

この異常な寒気の正体は「北極の寒気」
極に近い地域は、太陽の熱エネルギーを受ける量が少ないため、上空の気温は非常に低くなっています。
勿論、南極にも同様の寒気が存在します。

しかしこの寒気団、普段我々が接することはほとんどありません。
日本列島に冬をもたらしているのは「シベリア気団」

小学館「日本周辺の気団とその発信地」より
です。

北極の寒気団とは別物ですが、関連性はあります。
シベリア気団は、

・広大な大陸が放射冷却で冷やされる
・偏西風、および上層のジェット気流は、南北の気温差を解消する動きをするため、特に北半球では冬には気温が極めて低い北から寒気を南に送り込もうとして南に大きく蛇行する(傾圧不安定)。それにより一層北極の寒気を引き込む。

さらに
・南側にヒマラヤ山脈をはじめとする高峻な山脈・高原があり、その寒気を放出する場所が少ない(溜め込む)

このような冷却過程で形成されます。
冬にとりわけシベリア気団が強くなるのはこういった理由からです。
(気温の一年間の変化は高緯度ほど大きい。赤道付近は「常夏」ですよね)

さらに、エルニーニョやラニーニャなども偏西風の蛇行に大きな影響を与えるため、年によって気温が変化するんですね。

一般的には、

南北の気温差が大きいほど偏西風は南に蛇行しやすい

と考えると良いかもしれません。

ちなみに、エルニーニョ現象ではインドネシアなどの西太平洋地域の海水温が低下します。

気象庁より

インドネシア付近の暖水が東方向に「間延び」することで、全体の水温は低下してしまうというイメージです。

すると、

低緯度の気温が低下
=南北の気温差が小さくなる+南の海上に高気圧形成
=偏西風は北上
寒気が北側に閉じ込められたままになる
=日本は暖冬

という流れですね。

気象庁より

さて、ここまでで触れているのですが、実は極付近の寒気を閉じ込めているのは、偏西風の上空に流れる「ジェット気流」です。

ジェット気流には2つの大きな流れがあります。

緯度40度付近の「寒帯ジェット気流」と30度付近の「亜熱帯ジェット気流」です。
ちなみに偏西風の蛇行が大きくなる冬に、日本や北米大陸東岸ではこの2つのジェット気流が合流することがあります。

ちなみに、北極の寒気を閉じ込めているのは、「寒帯ジェット気流」です。
閉じ込められた寒気は、極の上空で渦を巻いています。
これが「極渦」と呼ばれる寒気の巨大な渦です。


エルニーニョなのに「極渦崩壊」で…

今までの話を見ると、今年は暖冬傾向のはずです。

今年の傾向は、気象庁も明示している通り明らかに「エルニーニョ」。
実際、日本も今回の寒波襲来までは比較的暖冬傾向でした。

ところが、今回北極圏ではとんでもない事態が起きています。
それは「極渦崩壊」

北極圏を取り巻く寒帯ジェット気流が、全体的に大きく南にぶれてしまい、

NOAAより

中緯度地域にまで北極の寒気を送り込んでいます。
そして現在、何とこの極渦は2つに分裂してしまっています。

ひとつは北米、もうひとつはヨーロッパを襲いました。
そしてさらにその極渦が日本に襲い掛かろうとしているのです。

実はこの現象、初めての事ではなくここ数年幾度か発生しています。
しかし今回は規模が大きいのです。

これは、上の図でもわかりますが、北極海の異常な海水温上昇と、それに伴う気温の上昇が大きく影響しています。

JAXAより

上の図は、北極海の海氷面積を計測した図です。
これを見ても、海氷の減少傾向は顕著で、1980年代に比べて最小期では半分以下の面積にまで落ち込んでいます。

そして実は、「年間を通して残り続ける」海氷が減少することで、面積以上に「厚み」の減少が顕著なのです。
一度溶けて冬に凍るというサイクルでは、海氷は十分に成長せず、薄い氷が張るだけ、という状況になります。
つまり、面積の減少以上に北極の海氷の減少は危機的な状況であると考えた方が良いでしょう。

水温が上昇した北極海には、今まで存在しえなかった「暖気」が出現し、それが極渦を断ち割って極渦崩壊を引き起こしていると考えられます。

本来、南北の気温差が縮まれば偏西風は南に下がることなく、極渦が安定するはず。
しかし、温暖化による北極海における「暖気の出現」という異常事態で、極渦そのものが崩壊してしまったのです。
つまり、この極渦崩壊は明らかに地球温暖化の副産物ということになります。

ちなみにこの北極の極渦の運動、気象用語では「北極振動」といいます。
振動というのは「周期的な運動」という意味です。
ちなみに北極振動の指数がマイナス(弱い)になると、今回のような状況に陥りやすくなります。
ただ、今回のケースは「マイナスになった」というより「崩壊した」という方が正しい異常な状態で、しかも近年その「異常」が頻繁に発生しているのです。


崩壊しつつある大循環

実は、2016年にある恐ろしい観測データが発表されました。

カナダ・オタワ大学教授のPaul Beckwith氏が2016年に掲載した動画です。

この動画で何を言っているかというと…

北半球の亜熱帯ジェット気流が、南半球の亜熱帯ジェット気流に流れ込んでいる

ということです。
つまり、ジェット気流が赤道を超えるという前代未聞の事態が発生したことになります。

そしてその前年には今まで完全に崩れたことはなかった「成層圏準2年周期振動」(赤道付近の成層圏の風向きがおよそ26か月周期で規則的に変化すること)が崩壊したようだ、というアメリカ地球物理学連合(AGU)の研究者らによる報告がありました。

つまり、2015年~16年にかけての赤道付近における大気大循環の崩壊、それに続いて極付近の極渦崩壊…と、地球規模での大気大循環システムの崩壊が進行しているように見えます。

そして、大気大循環の崩壊は、海洋大循環の崩壊にも結び付きます(相互の関連性がある)。
近年の温暖化による氷河の崩壊は大量の淡水を海洋に送り込み、明らかに海水の塩分濃度を低下させています。
海洋の塩分濃度が低くなれば、表層と深層の循環(熱塩循環)を止めてしまいます。すなわち「海の死」です。
ちなみに、表層の海水の循環(海流)のことを「風成循環」といいます。風の力が表層の海流の原動力なのです。大気大循環の異常はこの循環にも影響を与えます。

海洋大循環と大気大循環は、共に地球上の熱輸送を円滑に行う役割も担っているのです。つまり、これらの循環が弱まると、地球上の熱輸送がうまくいかなくなります。
その場合、モデル解析では北半球の方が寒冷化すると言われています。

そして先ほども触れましたが、大気は温度を平均化しようとする=寒冷な北半球から温暖な南半球に寒気が流れ込む、ということもあり得ます。
先ほどのジェット気流の話は、嫌な感じで繋がってくる気がしませんか?
つまり、

海洋大循環が既に弱まりつつあり、熱輸送が十分に行われなくなったので南北半球の気温差が広がりだした。
大気大循環がそれを必死に補おうとしている。

と私には見えるのですが。


温暖化は「閾値」を超えたのか

閾値(いきち)=引き返せなくなる境界線

私見では、既に地球温暖化による大循環の崩壊は閾値を超えつつあると私は感じています。
一度閾値を完全に超えてしまえば、もはや取り返しがつきません。

この期に及んで「〇〇ファースト」等というスローガンは、もはや愚かとしか表現のしようがありません。
現在の急激な気候変動は、「人類が生き延びられるか」という瀬戸際に来ている…というのは決して誇張した表現ではありません。
文明が崩壊したらファーストも何もないのに…と思うのですが。

残された時間は少ない。
本気で考え、行動しなければならない時が来たのではないかと私は考えます。


対策について(おまけ)

寒い時に怖いのは「水道管の凍結」
特に普段そのような心配をしたことがない地域では、その対策が不十分で被害が起きやすいのではないかと思います。

対策① 水抜き
対策② 水を少しだけ出しっぱなしにする

などは有効ですね。
外の水道管にタオルなどを巻いて冷気を遮断するのも良い方法です。
ちなみに私は、必要な時には大抵②の方法をとっています。
とはいえ、私は常に水道管が凍るほどの寒冷地には住んでおりませんので、詳しくは

こういった動画は参考になりそうです。
ちなみにこの動画、下関市が作ったものですが、凍結した場合や漏水した場合の対処法にも触れているので参考になりそうです。

なお、動画内にもありますが凍ってしまった場合「熱湯」をかけるのはNGです。
配管を傷めるなど、あまり良い結果をもたらさないでしょう。
せめてぬるま湯で。

そして、災害対策の基本ではあるのですが

停電時でも作動するものを用意する

も鉄則です。
特に暖房器具は、ファンヒーターではなく、電源不要の昔ながらのストーブは災害対策としても役立ちます。

その他、路面の凍結などにも要注意です。

雪道の歩き方についてお勧めの解説サイトは

こちら。わかりやすいです。

ちなみに、一番参考になるのは

この歩き方だそうです。
大自然出身の頼りになる先輩がいらっしゃいました。

とにかく「普通ではない寒気」が来るので、細心の注意を払いましょう。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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mokosamurai / もこ侍

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mokosamurai / もこ侍
土地調査・環境・防災コンサル会社等を経て地歴科講師となり15年。地理、歴史、防災、趣味のコーヒー関連の記事を中心に投稿します。地理や歴史は暗記ではないことを伝えたい。知の力と和の精神は世界を救う。第2回cakesクリエイターコンテストで佳作をいただきました。今後も精進いたします!