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【読書感想】流浪の月 凪良ゆう

この本の概要

2020年本屋大賞受賞作 
愛ではない。けれどそばにいたい。
新しい人間関係への旅立ちを描いた、
息をのむ傑作小説。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
Amazon内容紹介より

感想

最近、小説といえば佐伯泰英の時代小説ばっかりだったので、超ひさびさの新規開拓。

2020年本屋大賞をとっただけあってすごく良かった。暗すぎず、明るすぎず、読後感もほどよく。
とてもバランス良い本でした。
たとえ傑作だとしても、終わり方が悲惨だったりすると読み終えたあとかなり気持ちがふさいでしまうのですが、この作品はそういうのではないので私にとってすごくよかったです。

ストーリーを少しだけネタバレすると、誘拐の被害少女と加害者の大学生のお話です。
周囲は被害者を可哀想がり、加害者を最低なヤツとレッテル貼りするんですが、当人たちの間には当人たちだけがわかる絆が存在しているっていうそういうストーリー。

人の解釈と思い込みというのはたとえそれが優しさだとしてもこんなにも人を傷つけ追い詰めてしまうのだな、と読んで思いました。
誘拐という出来事に対して、世間がおのおの評価解釈をし、それが事実とされ、当事者を置き去りにして一人歩きしてしまう。周囲はそのニュースを事実と思い込み、そこにさらに各自の解釈を加えていく…。
話を聞いていそうでいて、実は誰も当事者の話を聞いてはくれない。ほとんどの人にとって、思い込みを外して世界をみるのはとても難しいのだろう。

よく「ニュースは事実を伝えている」とはいうけれども、これを読んでて、人から人を介して伝えられる物事に事実と呼べるものはどれくらいあるんだろうか?と考えてしまいました。

日々のニュースのなかにはもちろん事実もあるのだろうけど、よくよくみると事実っぽさを装った誰かの解釈が混ざっていることがとても多いということにも気付かされます。
そもそも、出来事を「事実」として取り上げるとき、なにを取り上げ、どういうフィルターを使い、どの部分を切り取るかというその作業の過程で、どうしたって誰かの解釈が入ってきてしまいます。
そこで切り取られた「事実」はどこまで事実とよべるんだろうか。
自分自身の眼でみたものですら、うつしたものを瞬時に無意識下で解釈を加えてしまう。自分単体ですら解釈という罠から逃れるのは難しいのに、他者というフィルターを通してみている物事はどれだけ事実と呼べるのか。

私は人から聞く噂話は面白がって聞くけれども、噂話こそ解釈の結晶だとなんとなく知っているので、それが事実かはあまりみていない。
この人のフィルターを通すとこういう解釈なんだなーっていうのを面白がって聞いている気がする。

解釈から逃れるのは難しい。
でも全ての情報に対しては解釈が多分に含まれるということには自覚的でいなければいけないな、と思いました。

ワタクシ的名文

なにも知らないくせにとわたしはひどく腹を立て、一方で不安に駆られた。わたしを知らない人が、わたしの心を勝手に分析し、当て推量をする。そうして当のわたし自身がわたしを疑いだし、少しずつ自分が何者なのかわからなくなっていった。長い時間をかけて、わたしの言葉は誰にも通じなくなっていき、それを解読できるのは、もはや文だけだと思っていた。
——わたしはおかしいんだろうか?
——みんなが正しくて、わたしが間違ってるんだろうか。
いいえ、それでも正しいのはわたしだと世界に挑めるほど、わたしは強くない。わたしは賢くない。だからもうひとりの当事者である文に縋ってしまう。わたしは間違ってないのよねと問いたくなる。
p140 第三章 彼女の話

わたしという存在の輪郭も、第三者があってこそで、そのわたしを成す本質の部分を理解してくれる人がいなければ、自分のことすらわからなくなってしまう。
人はひとりではあまりにも弱い。
理解してほしいと思う人が理解してくれるというのはとても難しくそして尊いものだな。

主人公の女の子はとても孤独ではあるけれども、それでもその立場に近くてある部分までは話を聞いてくれる安西さんのような人がいることは救われるだろうな、と思いました。
安西さんも母親としてはよろしくない部分もあるけど、主人公にとっては大切な存在だったんだろうと思う。

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