見出し画像

明日の無い世界で明日に向かって撃て!【SF短編小説】


ミウ軍に所属する先天型機械兵ミロ。
ガウ軍との果てしの無い市街戦を戦っている。
市街地は自動修復建材を使っているので、放っておくと内装以外はすべて元通りになるが、
もしくは戦い続けて結局は遮蔽物無しの瓦礫の山の上で戦うことになるのか。
どちらでもよい。
ミロは生まれたときから鋼殻に包まれてきた機械兵だ。
おそらく人間ではなく、ロボットの一種だろうと思っている。
何のための戦いかはよく説明されていなかった。
戦友の死もそんなに堪えなかった。
ああ、死んだな。と思うだけだ。
量産機械にどうやって感傷を抱けばいいのか?

ある時、ミロに命令が来た。
「脱走兵を補足せよ」
こんな奴らでも脱走しようとするやつがいるのかと驚いたが。
追撃したミロは、脱走兵と思わしき機体が破壊されてる現場を偶然発見する。
この落ち込んだ穴の中では、見つからないわけだ。
この脱走兵は見覚えがあるのか?
よくわからない。だがフシギな装置を持っていた。
それはカラフルで目立ち、この戦場には明らかに不釣り合いだ。
これだけでも持ち帰ろうと思って手に取った瞬間、
何かのスイッチに触れてしまった。

その瞬間、自分が異質な世界にいることに気づいた。
ここはどこだ?
言語検索:日本語と判明。しかし文字の向きが逆だ。
1940年代(第2次大戦中)日本語の横向き文章は左から読むスタイルになるが、
ここは右から読むスタイルだ。
そして自分の格好も変だ。
着物と袴。これは人間の肉体だ。
近くのガラス窓で自分を映してみると、うっすらと青年男性の姿が見える。
これが自分か?
そこは書店で、紙に書かれた日付を読むと「大正」とあった。

ふしぎな感覚はもうひとつあり、どこかでまだあのレバーに触っているという感覚があった。そのレバーを戻すと、五感のすべてがあの市街戦の場所に戻ってきた。

この機械は、異世界に自分を飛ばす装置だと認識。
この件は報告せず、脱走兵の死体はそのままにして、その装置だけをひそかに持ち帰った。
脱走兵については見つからなかったとだけ報告した。

それ以来、しばしば「大正」に赴くようになった。
大正は平和で安全だった。
少なくともあの市街戦の世界からは程遠い。
海の向こうではあの市街戦みたいな場所もあるらしいが、
少なくともここではない。
そして、ここで過ごす時間はあちらの時間ではごくわずか、であることも発見した。
つまり長い間、ここで休んでいてもあちらではほとんど時間が経たない。
存分にここで暇をつぶしてもいいわけだ。

それ以来、私は「大正」で生活しながらこの世界を探索することにした。
様々なものをみた。
そして異質なものも観た。
ある出し物屋に置かれていた、あの機械兵の模型。
もちろんそれはおもちゃで、好事家が買っていく程度のものだったのだが。
あの世界出身者にたいしてひとつの真実を押している。
あの世界を知っている人間がいるということだ。
私は製作者の住所を教えてもらい、そこへ行った。

彼はあっさりと、自分が第44世界の出身者であることを語った。
そしてこの「大正」は第45世界だということも。
そして彼は、あの脱走兵の正体であることも語った。
彼は亡命したのだ。この平和な世界に。
「もちろんこの第45世界も20数年後に大きな戦争が起こるが、それまではのんびりと暮らしていける。どうだ。お前も亡命しないか?
方法は、こちらに来ている間に向こうの体を破壊すること。
つまり死ぬこと。一緒にここで暮らさないか」

あの機械はどこで見つけたんだ? と訊いてみた。
いわく、
「おかしな動きをしていた機械兵を見たのだ。
そいつはまったく戦場の素人みたいな動きをしていた。
そしてそいつが持っていたのが、この機械だ。
俺が思うに、そいつは上の仮想世界から降りてきたばかりの奴なんだろう」

上の?
意識すると視野の隅に明滅するシグナルがあるだろ。
今はunder-45となっているはずだ。
元からそこにいる連中の階層では表示されないが、違う階層に一度でもいくと、それ以降、ずっとその数字を意識できるようになる。
俺たちが機械兵として戦っていたあの場所はunder-44だ。

そして彼は言う。
「俺はここで暮らす。もう上には戻らない。ここが戦場になったら次の階層を見つけてさらに下に降りる。そうしない理由があるか?」
だが私は彼に賛同しなかった。
上に戻ることにした。

帰り道、彼が襲撃してきた。
銃身が伸びた奇妙な日野式拳銃とどこかで手に入れた脇差で襲撃してきた。
「俺のことを報告するつもりだろう。生かしては返さん」
買いかぶりもいいところだ。
私は手傷を負いながらも、扉を壊して、釘の生えた戦端を彼の脳髄に突き刺した。
彼は機能を停止した。
彼はどこへ行ったのだろうか?
もっと下へ降りたのか? それとも上に戻ったのか。上の彼の機体は完全に破壊されていたが。

私は第44世界に戻った。
そして脱走した。
私は下へは行かない。
私が目指すのは、最上層。第1世界だ。
もし私の仮説が正しいのであれば、そこは真にリアルな世界のはずだ。
この階層構造の世界の謎を突き止める。
世界の意味を。
自分の生まれてきた意味を。
それを知るためには第1世界に行くのが賢明に思えた。

意識にちかちかとするシグナルは、装置の次の在り処も教えてくれていた。
場所は分かる。

追撃が来た。脱走兵は必ず討伐される。
機体を大破されてしまったが、電磁パルスで相手の脳髄を焼き切ることに成功した。
だが自分の機体はもう使えない。
今、電磁パルスで破壊した敵機体を修復して、そちらに乗り換える。
生まれて初めて機体の外に出た。
私は第44世界でも人間の肉体を持っていた。
髪が長く、肌は白く、胸と尻がふくらんだ女の形をしていた。
が、やはり青年だ。
自分はどこへ行っても年寄りではないかもしれない。
あれこれ考えることなく、私は敵の機体を修復し、それに乗り込んだ。
視野の隅で、次の装置の場所とunder-44の表示が煌めいた。

注意:ローランドエメリッヒ監督の「13F」を元ネタにして、押井守の「アヴァロン」を参考にして、ジャンプ読み切り風にアレンジしてみました。
一応読切ですが、人気があれば続けられます。

#小説 #短編小説 #SF #SFがスキ #ディストピア小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?