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待ってろ俺の白うさぎ。エゾユキウサギはピーターラビットなのか?

2023年、卯年のスタート。徳川家康を取り上げた大河ドラマではさっそく「待ってろ俺の白うさぎ」なる名言が生まれた。

白うさぎと言えば、日本では赤目に大きめの身体の日本白色種といううさぎが有名だ。他に白うさぎとなると、野生のノウサギが冬季に白化した姿も有名である。ネットミームと化している「足の長いホッキョクウサギ」の写真は見たことのある方も多いだろう。

日本にも冬季に身体が白くなるノウサギが何種かいる。そのうち北海道に住むのがエゾユキウサギである。そのエゾユキウサギであるが、昨夏、北海道・美瑛の農家のツイートで一躍有名になった。栽培しているブルーベリーを食べる動画だ。このツイートが拡散し、ネットメディアにも取り上げられた。

https://mobile.twitter.com/haskapfarm/status/1554059134374641664

ネットメディアの記事はこちら。これは「ねとらぼ」。「農園のブルーベリーを食べる野生ウサギ、『ありがたい』と言われる理由は? 人とウサギのすてきな共存に『ほっこり』『ピーターラビットの世界』」

こちらは「All About」。「まるで絵本『ピーターラビット』の1ページ? うさぎとブルーベリー農園が“共生”する光景に絶賛の嵐」

どちらにも共通するのが、有名な絵本「ピーターラビット」に例えている点である。ここで、うさぎ好き、かつ、ファクトチェックをかじっている者として引っかかってしまった。「ノウサギ(エゾユキウサギ)はピーターラビットに例えるのは間違いなのか、そうではないのか?」

ひとつ確認しておきたい。日本では「うさぎ」とひとくくりにされるが、英語圏では「ノウサギ(Hare)」と「アナウサギ(Rabbit)」と明確に分けて捉える。

ペットとして飼育される、品種改良されたカイウサギは全てアナウサギが原種だ(ごく稀にノウサギをペットとして飼育している人もいる。日本では、行政への届け出が必要。関連する法律はこちら)。なお日本に野生のアナウサギはいない。

その上で、ピーターラビットである。あまりにも有名なこの絵本は、英国のビアトリクス・ポター著だ。

ピーターラビットの絵本は、文章も絵もビアトリクス・ポター本人が手掛けている。ここに登場するピーターラビットのモデルは、ビアトリクス・ポターの飼育していたうさぎとされるが、はっきりとしたことは実はわからない。

カイウサギとして人気の高いネザーランド・ドワーフがモデル、というネットの言説もよく見かけるがこれもしっかりした根拠は見つからないのが現状だ。

となると、野生のうさぎがモデルか、とも思わせるがこれもはっきりしない。ビアトリクス・ポターが住んでいたのは、英国の湖水地方である。死後、そのヒルトップ農場は当時のまま保存されている。

しかし、ヒルトップ農場がピーターラビットのモデル地方であるとは、推測はできるものの確たる証拠はない。日本のピーターラビット公式サイトや、英国のピーターラビット公式サイトを確認しても名言はされていない。

また、仮にヒルトップ農場が舞台だとしても、当地にいるのがアナウサギかノウサギか、当地を訪ね調査しない限りははっきりしない。

いや、もしかしたらこの本なら掲載されているかも知れない。地球規模でどこにどのうさぎがどのような生態で住んでいるか掲載されている本だ。

しかし、である。資料として求めるには、一個人には躊躇する価格帯が問題だ。例えば獣医であるなら、この本は永続的に役立つだろう。一市民なら?どうだろうか。私は、残念ながら諦めざるを得なかった。

ましてや、当地の調査などどう頑張ってもやりくりがつかない。現地を見たい思いはあるがこちらも諦めざるを得ない。

ピーターラビットがどのようなうさぎか、確たる証拠が見つからない。なので、エゾユキウサギをピーターラビットになぞらえるのは根拠不明と判断する。

思い込みで例えてしまったりするのは日常生活ではよくあること。しかもそれが周りに大きな迷惑や誤解を生じさせたりというのは多くはないだろう。

それでも事実は事実として追求しておきたいのがファクトチェッカーの性だ。そして、うさぎは可愛い。これは価値判断なのでファクトチェックの対象ではないが、うさぎは可愛い。待ってろ俺の白うさぎ。

【2023.04.02追記】
山奥の水路でノウサギが流れていたという前代未聞の珍事がTwitterにアップされ、Togetterでまとめられていた。タイトルを見るに、やはり日本では「ノウサギ」は「ピーターラビット」のイメージなのだなぁと思う。それにしてもこのノウサギ、見事な「うさぎかき」で上流に泳いで逃げて行ったが、何がどうして水路に落ちてしまったのだろうか。世の中には訳のわからないことがたくさんある。

山奥の用水路から野うさぎが流れてきた「ピーターラビットの世界観」

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