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もけると物語【8:建築家増沢洵さんとバランス】


「村の外からのお客さんは?」

しばらくの間、珈琲の香りだけで随分と時間が流れましたけど、ポップコーンがはじけ出したように突然会話が進み出し、あれよあれよと妄想アパートメントもけるとの未来予測が組み立てられていきました。というよりも、たまたま私が妄想アパートメントもけるとを買い取ったことが要因で、元々あった未来予測が少々早まっただけのようで、だいぶ前から決め事はあったみたいです。そんな決め事の中にも一貫していることがひとつだけあって、利用者は村人に限るのだそうです。やっぱりあの出来事が大き過ぎて新たな展開はまだ視野にないということなんですかね。村人たちは明らかに”人”ではなく”モノ”を主役に生計を立てています。村人たちのお人柄をもっと知ってもらうような仕組みを選んでも良いと思うんですけど。

いずれにしても、今、もけるとの村の産業構造が3つの柱で成り立っていることを教えられました。将来性があって地球にも優しいよねって強く感じました。私もどこかでほど良く協力できると嬉しいなぁ。

ミニマムとマキシマム

日本の建築の中で小さな有名住宅と言えば通称「9坪ハウス」で知られる建築家増沢洵さんの自邸。最小限住宅として戦後の住宅産業に大きな影響を与えたと言われているそうです。総2階建て、すなわちズンドウな四角いサイコロ住宅は、吹き抜けの面積を除くと45平米しかありません。今、二ホンのアパートの2LDKや3DKがそのくらいの広さでしょうか。家族3人がアパート暮らしするのにちょっと狭いくらいの広さです。ミニマムというほどのミニマムさではないですけど、小さな土地に建てるには合理的なプランかもしれません。真四角だから構造も強いですし。壁らしい壁は浴室、便所、収納くらいで、あとは襖や障子で空間を分割する程度。二ホン独特の間の取り方ですね。

増沢邸2

そんな小さな住宅ですが、実際にこの建物が建った敷地の面積は200坪あったと言われています。要するに吹き抜けの幅だけ開けた大きな開口窓(兼玄関)は広い土地だからこそできたわけです。もし土地が小さければ、その窓は障子やカーテンで閉じられっぱなしだったことでしょう。外からの視線を遮らなきゃ現代人は落ち着いて生活なんてできませんから。

現代人は敷地が大きいと建物も大きくしがちです。マキシマムな建築面積または延べ床面積を選びがちじゃないかなぁって。どこでバランスを取るか、何を最優先するかはその土地に住まう者にゆだねられますが。

7つの”リ”

もけるとの村人たちの住宅はそんな「9坪ハウス」のようにミニマムでかつ広い大地に建っています。もけるとの村にしっくりいく、大地に還るオーガニックハウス。彼らが得た悲しくも最強の自由が最も堅実な結果を生んでいます。ほんと、欲がないっていうか。そんな村人たちの収入源のお話を聞いても堅実さがにじみ出てきます。

もけるとの村人たちは3つの収入源で生計を立てています。

1つ目は前にもお話したトウモロコシポリマー。特に建築資材としてはシェアを独占しているようです。特に、何年も前に起きたウッドショックによる木材の価格高騰以来、需要はうなぎのぼり。今では安定した供給ができているそうです。トウモロコシ自体保存も効くしね。土と混ぜてよりオーガニックに近づけることもできると言うから、建築する土地の土と混ぜ合わせればまさに地産地消。ただ、トウモロコシポリマーの生産地は隣町の生産工場名しか知られていないみたいで。村のブランド化ができたら良いのにってちょっと惜しく思ったりします。

トウモロコシ

2つ目はリペアとリデザイン。トウモロコシポリマーを利用して壊れたおもちゃやプラスチック製品を蘇らせる職人がいます。アクセサリーなどのデザインも得意みたい。談話室のカトラリーやお皿類はすべてトウモロコシポリマーでできています。それと、建築物のリフォーム、リノベーションなんかも随分実績を積んでいるみたいです。何せ、解体されたトウモロコシポリマーを再利用して使えるんですから。

3つ目はトウモロコシポリマーから製品化するための機械の開発とメンテナンススキル。これがすごいんです。住宅1棟を丸々囲い込むほど巨大な組み立て式アームプリンターで全体が出来上がるかと思えば、ミニロボット数体が土地の土とトウモロコシポリマーを混ぜ合わせながら住宅の詳細を立体に打ち出して仕上げていくんです。リフォームなどで出た廃トウモロコシポリマーを再利用してその場で建築資材としてボードにしてしまう。粉砕から生成までワンストップでこなすコンベアプリンター。カトラリーなどの小物を大量生産可能にした小型デスクトッププリンターや接着剤替わりにもなるペンプリンターまで、トウモロコシポリマーでできるであろうモノすべてを実現することで世界各国の需要に応えているんです。もちろん、製造販売はしていません。あくまで開発、アイデアとメンテナンススキルの提供です。ノーブランドではありますが版権はしっかり押さえているようです。

リユース、リデュース、リサイクルを難なくこなしている村人たちを純粋にすごいって思います。表立った宣伝をしないなんて本当にもったいない気もするけど、今はそれで良いと村人たちは声を揃えるからまた不思議。面白いほど秩序の整った人たちだなって感心するばかり。

談話室ではまた珈琲タイムです。会話がピタッと止まります。村人たちの鼻だけがヒクヒクと動きます。でも、一人だけ鼻が止まっている村人がいました。管理人ピエロさんです。目は窓の外を見ていました。

「・・・誰か、おいでです」

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