ビジネス書を読むより仕事に役に立つ ー 今野敏著『隠蔽捜査』シリーズ

堅物・真面目・冗談を言わない主人公・竜崎伸也が活躍する異色の警察小説。
プライドに引きずられて仕事をしたり、悪いものに蓋をするような行動をとる者をギャフンと言わせる痛快もの。
堅物にも関わらず柔軟な思考で事件を解決に導く突破力がすごい。第一級のエンターテイメントでありながら組織人として成果を上げるための姿勢を学ぶことができる。
ここでは凡人のありがちな発言と竜崎の発言を対比させながら、この小説で何を学ぶことができるか示していきたい。なお、これらの発言は私がこの小説から読み取ったメッセージを汲んだ創作である。

凡人の発言
「わが社は規則が多すぎ、がんじがらめになっている。これは官僚主義だ。規則に縛られて本来の営業活動ができない。」
竜崎の発言
「規則は最低限のコンプライアンスを守らせ、後から見てどのように意思決定がなされたか記録を残すため必要となる。営業マンにとって、規則通りに動くことで、頭を使わずに最低限の労力で遵法・記録の要件を満たすことができる。理不尽な規則があれば、それは変えるべきだし、何を変えるべきか言語化できるのは、そもそも明文化された規則があるからだ。」

補足
竜崎はルールの意義を理解し、ルールに沿って運営することが結果として会社のためになることをよく理解している。そしてうまくルールを活用し、ルールから逸脱することなく、自分の有利になるように仕事を進めることができる。

凡人の発言
「組織の和を守ることは大切。上司が誤ったことを言うこともあるが、ある程度は飲み込んで組織の調和を乱すことを避けるべきだ。」
竜崎の発言
「誤ったことは正さなくてはならない。相手が上司でも疑問のまま放置するのではなく、その場で正すことが、結局は組織のためにも、上司のためにもなる。」

補足
上司から見れば、「うるさい部下」と思われるリスクがある。しかし周りの人から見たら一本筋が通っている、ブレない、頼れる、といったポジティブな評価が確立される。
また、常に自らの信念に基づき行動することで、自らの言動に矛盾が生じることがなく、よって何かに思い悩むようなシチュエーションが減る。職場の悩みの多くが人間関係絡みであり、自らの言動の矛盾から生じる。

凡人の発言
「わが社の理念? そんなの誰も読まないし、気にしてないでしょ。私は割り当てられた仕事をちゃんとやって給料をもらっている。会社の目的とか意義とか、経営陣が考えることでしょ。下っ端が考えても意味ないよ。」
竜崎の発言
「自分の仕事がどのように組織の目的達成に貢献するのか、しっかり理解すべき。組織の目的を信じ、自分の仕事がそれに直結すると信じることが、自分の仕事への誇りにつながる。」

補足
竜崎は組織の目的を理解しているからこそ、柔軟な発想ができる。
シリーズ別作に出てくる話で、捜査本部をフィジカルに設置することに固執する刑事部長に対し、大森署長の竜崎は、携帯電話やオンラインを活用することで、バーチャルな捜査本部を設けることができると主張する。
凡人は、捜査本部の非効率性について文句を言うことはできるが、そこから脱してオンラインに移行する発想・決断ができない。組織の目的・仕事の目的、規則の目的を真に理解してこそ、ドラスティックな改革が可能となる。


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