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貨幣論「又貸し説」と「内生説」・・・誤解の原因

なぜ、教科書に掲載され多くの経済学者や金融実務家が信じる又貸し説を誤りだと断言する人がいるのか。一方、なぜイングランド銀行や独ブンデスバンクが論文を掲載し多くの賛同者がある内生説を一蹴する人がいるのか。

そもそも、貸出が行われ、預金が創造されるプロセスについては、貸出実務上の一つの「事実」しかありません。これに対し、どのようなアングルから切り込んでいくか。そこに違いがあるのです。

「信用創造とは、貸出を起因として、預金を創造していくプロセスです。貸出実行のために日銀当座預金の移動が発生します。」

【補足説明】 銀行が貸出を行う際、銀行は貸出金を顧客が指定する口座に送金します。顧客の預金口座に入金することもありますが、多くの場合、その顧客の仕入れ先だったり、土地の売り手だったり、あるいは工場建設を請け負った建設会社に送金するのです。仮にSMBCからみずほ銀行に送金する場合、SMBCが持つ日銀当座預金(=準備金)をみずほ銀行名義に振り替えることにより送金が実行されます。これが日銀当座預金の移動です。なお、みずほ銀行に送金された貸出金は、仕入れ先、土地の売り手、建設会社の預金口座に入金されます。ここで新たな預金が生まれました。これが信用創造です。

又貸し説は、「日銀当座預金の移動」という部分に焦点を当てています。

内生説は、「日銀当座預金の移動」には焦点を当てず(そもそも貸出先が自行に預金口座を持つ場合は出・入が相殺されるので日銀当座預金の移動が不要)、「預金を創造」という部分に焦点を当てています。

話をややこしくさせているのは、又貸し説を誤って理解して批判する内生説派、内生説を誤って理解し批判する又貸し説派が大勢いることでです。

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さらには、又貸し説を誤って理解し声高に主張する勘違い又貸し説、内生説を誤って理解し声高に主張する勘違い内生説が多いことも、混乱に拍車をかけています。

勘違い又貸し説は、負債としての「預金」、民間が所有する資産としての「預金」、引出の対象としての現金・準備金を混同しています。

勘違い内生説は、背後にある「日銀当座預金の移動」に気づいておらず、ひどい場合には、まるで銀行が(負債としての預金ではなく)「現金」を作り出しているかのような錯覚を起こしています。

以下のイングランド銀行記載論文の図も誤解を呼ぶ要因となっています。

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"Money creation in the modern economy" (McLeay, Radia, Thomas) 
https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/quarterly-bulletin/2014/money-creation-in-the-modern-economy

左図で、New Loan(貸出)が発生すると同時に 、借入人の銀行でNew Deposit(預金)が計上されていますが、 実際には、

・シンジケートローンのように貸出金が直接、幹事行に送金されるケース(そして、幹事行が、借入人の預金口座に入金、あるいは、支払先に一括して送金)

・貸出金が直接、支払先(貸出先の仕入れ先や、工事代金支払い先、土地の販売元等)に送金されるケース

が多く、その場合は、借入人の銀行ではNew Depost(預金)は計上されず、支払先の銀行に貸出金が送金され(ここで貸出原資が必要)、そこでNew Deposit (預金)が計上されます。それでも、結果としての右図は変わりません(中銀預金がSeller's bankに移動し、そこで預金が創造される)。

これを見て、又貸し説派は、日銀当座預金が必要であるとの事実を根拠に、内生説は誤り、と結論付けるかもしれません。しかし内生説派も、原資としての日銀当座預金が必要なことを否定しているわけではありません。

一方、内生説派は、New Deposit(預金)を図示することで、借入人が自らの意図通りに利用できるお金を手に入れた、との事実をコンセプトとして表すものであり、実際に現金が入金されるかどうかは重要ではない、と主張できるでしょう。

以下、私の得た結論です。

結局、正しい内生説と、正しい又貸し説は、同じことを異なるアングルから見ているだけ、ということです。

しかし、勘違い内生説、勘違い又貸し説が多いため、混乱が生じているのです。

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