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クシティガルバ

桜の花びらが舞う頃、小さかった私はおばあちゃんと手をつなぎ陽気な日差し、柔らかな風の中歩いていた。

おばあちゃんはいつも小さな「祠」に手を合わす。

「おばあちゃん、いつも何してるの?」

「この祠にはね、神様が住んでるんだよ」

「何をお願いしてるの?」

「何もお願いしてないよ。お礼を言ってるんだよ」

「これから毎日、ありがとうって言おうね」

「うん、毎日、ありがとうする!」

すると、優しくおばあちゃんは笑ってくれた。


そんなおばあちゃんは私が小学校に入る頃に亡くなった…。


私は、おばあちゃんとの約束通り

毎日、「小さな祠」にありがとうってお辞儀してる。

最初は何に感謝擦ればいいんだろうって考えて

「今日は美味しい給食が食べれてありがとう」とか

「昨日はパパが早く帰って来ました。ありがとう」

みたいな事を言ってたけど、最近は「ありがとうございます」とシンプルになった。

友達には「神様なんかいるわけないじゃん!」って

言われるけど、それでもおばあちゃんに会える気がして毎日、祠に向かう。


私が小学2年生の頃、いつも通り祠にお礼してると

「毎日来てくれてありがとう」って声が聞こえたような気がした。

勘違いと思いながら、家路につく。

次の日もまた次の日も「ありがとう」って声が聞こえる。


思い切って聞いてみた。

「神様ですか?」

「神様じゃないよ。」

「誰ですか?」

「ワシは地蔵菩薩じゃよ。」

「神様でしょ?」

「いや、だから菩薩なんだってば」

「ボサツってなに?」

「菩薩と言うのはお釈迦様が亡くなってから…」

「話、長くなりそうですか?」

「ん?これからがいい所なんじゃが?」

「もういいです。」

「聞いてくれないの?」寂しそうな声で言う。

「なんて呼べはいいんですか?」

「お地蔵さ…」

「神様で!」

「いやだから、ワシはおじぞ…」

「神様で!」

「神様でいいです…」


それからが毎日の私と「神様」の話が始まる。


次の日に学校で神様の話をすると

「そんな訳ないじゃん!や〜い変な子!」

先生はわかってくれるよね、さすがに!

先生は違う心配をしていた。


学校の帰りに祠に向かう。

「ねぇ神様。誰も神様の事信用してくれないの。」

「誰もワシの事なんて信じちゃくれんよ。」

「でも、ここにいるじゃん。」

「昔はね、いっぱいの人が、ここに来てくれたんじゃよ。お供物をもって…アッ!」

「なに?」

「いや、ついつい口が滑ってしまった!気にせんでいいよ。」


家に帰って、おかあさんに「お供物って何?」

「お供物はね、神様の食べ物なんだよ。」

「おばあちゃんと行った祠に持って行こうと思って」

「じゃあ、明日果物を持って行ってあげなさい。」


次の日に果物を持って祠に行く。

「お供物を持ってきたよ」

「あ…ありがとうね。ゴメンね催促したみたいで」

「ううん、いいの。」

「そうだ、お礼に願い事を1つ、聞いてあげるよ。」

「本当?」

「ああ、いつも来てくれるワシからのお礼じゃ。」

「じゃあ、明日の給食はプリンが出るんだ!

もう一つ食べたいな!」

「そんなことでいいのかえ?」

「うん、プリン大好きだから!」


次の日の給食のデザートは、「プリン」がでた。

しかもクラスの男の子が風邪でお休み。

「プリン好きだったでしょ?もう一つ食べていいよ」

他の子達が羨ましそうに見ている。

「あの、他の子にあげてください」

「いいの?」

「…はい」


祠にて…

「神様、私だけプリンが2つでたの!」

「美味しかったかえ?」

「他の子にあげちゃった」

「優しい子じゃな、よし、もう一つ願いを叶えてあげよう」

「でも、ひとつだけって…」

「優しい子には、サービスじゃ」

「じゃあね…テストで100点とりたい!」

「そんなことでいいのかえ?」

「うん!」


翌日、テストの予定はなかったが、

先生が「抜き打ちテストしま〜す!」

「ええー!」とクラスの子全員のブーイング。

やった!100点だ!

しかし…ズルは良くないよね…

自分で考え、選択問題は鉛筆を転がして決めた。


祠にて…

「神様、今日はテストがあったの」

「100点、とれたじゃろ?」

「ううん、ズルは良くないって自分で考えたの」

「頭の良い子じゃな。もう一つ叶えてあげよう」


「…神様の国に行ってみたい…」

もじもじと答えた。

「ちょうど連れて行ってあげたかったんじゃ、今日は帰って、よく眠るんじゃよ」

「今、連れて行ってくれないの?」

「そうじゃよ」


家に帰ると、いい匂いがする。

大好きなカレーだ、しかもハンバーグが乗っている!

2杯も食べてしまった。だって美味しいんだもん。

お腹がいっぱいになると眠気が襲ってきた。

お風呂に入ろうとするが眠気には勝てず布団の中に入る。

「なんで、よく眠るように言ったんだろ…」

そう思いながら眠りにつく。


温かい光が体を包む…気持ちいい…

目を開けると、ちいさな時におばあちゃんに読んでもらった絵本のような街が見える。

平たく言えば平安時代のような町並みである。

「ようこそ、神の国へ」

何人もの綺麗な女の人が並んでいるその奥に、おじいちゃんらしき人が椅子に座っていた。

「クシティガルバ様、お嬢様のお着きです。」

「よく来たの〜」

聞き覚えがある声だ。

「もしかして神さま?」

「そうじゃよ。会えるのを楽しみにしておった。いつも祠に来てくれてありがとう」

優しい笑みで答えてくれる。

「ここは何処?」

「祠の中じゃよ」

「あんなに小さいのに?」

神様は笑いながら答えた。

「祠は入り口にしか過ぎん。その先がこの世界に通じると言うことじゃ」

「なんで私が眠ってるときに?」

「あの小さな祠の中には入れんじゃろ?今は意識だけ、この世界に来てるんじゃよ」

「さっ、ワシの家に行こう」

と神様と手を繋ぐ。

あったかい。昔、おばあちゃんに手を繋いでもらった思い出が蘇る。


「ところで神様?」

「何じゃ?」

「私が持っていった供物は食べてくれた?」

「うっ、まだ食べておらん。もったいなくて」

「早く食べてください!腐っちゃう!」

「…す、スマン」


「ワシの家までは少しあるでな、そこのコンビニで好きな物を買ってあげよう。」

コンビニ?…え?あのコンビニ!

「コンビニがあるの?」

♪ピンポンパンポポ〜ピンパポポン

…ファミリーマート…

「150円になります!ポイントカードはお持ちですか?」

「ああ、あります、あります!」と財布の中をまさぐる神様…

「欲しい物はかえたか?みんな働き者ばかりじゃからな」

そういう事を聞きたいんじゃないんだけど…

何か納得いかない!


コンビニでお菓子を買って食べながら歩く。

その道中、会う人会う人が頭を下げる。

「もしかして神様って、偉い人なの?」

「そうじゃよ〜何と言ってもお釈迦様が亡くなって…」

「もう、いいです。」

「やっぱり聞いてくれないんじゃな…」

「着いたぞ、ほれ、あそこがワシの家じゃ!」


大きなお屋敷…黄金色に輝く門の中には、天女さん?が沢山。綺麗な音色が耳に心地よく聞こえる。


「神様はここに住んでるの?」

「そうじゃよ〜」エッヘンと胸を張る。

「でも、どうやって祠での私の声が聞こえるの?」

「そこは…ほれ、携帯電話での、ワシ、インスタしとるし、フォロワーも多いんじゃぞ。インフルエンサーっていうもんじゃな」

「ん!?」携帯あるんですか?い、インスタ!?

さっきのコンビニといい、携帯電話といい、一見昔話のような世界も近代化してるのね…

心地よい音楽と綺麗な天女の舞…

神様と少し話こんでると、食事が運ばれて来た。

「これは何?」

「レンチンしたピラフじゃが、ワシはこれが大の好物での〜」

「もっと、ちゃんとした物を食べさせて下さい!」

「わかった、わかった、冗談じゃよ」

すると今まで食べたことのないような、いかにも高級そうな食べ物が次々と出されてくる。

「カレー2杯食べておったが、食べれるかの?」

「見てたの?このストーカー!」

「うっ、スマン」

最後に見覚えのある物が出てきた。

「神様、これって…」

「ああ、君からもらった供物じゃよ」

「この屋敷に出てくる物は全て供物なんじゃよ」

「でも、最近は誰も来ないって…」

「うん、だから他の国の神様からクール宅急便で送ってもらっとる」

…もう、近代化のギャップには慣れた…。


「さて、もうそろそろ起きる時間じゃ、送ってやろう」

「また来ていい?」

「ああ、構わんとも、ほれ、これをあげよう」

一枚の紙切れをもらう。

「これは?」

「年パスじゃ」

…あきれて言葉がでなかった。


目が覚めた…夢だったのか、どうなのか判らない。

でも、手には一枚の紙切れがあった。

楽しかったな〜また行きたいな。


「お母さん、今日ねいい夢を見たんだ!」

「へぇ〜よかったわね、どんな夢?」

神様の家に行った事、神様はとても優しかった事

そして、つないだ手が温かい事…

言葉が止まった。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない…」

頬をつたう涙を拭いながら、そう答えた。


「今日、神様にあげる供物を持って行ってもいい?」

「ごめんなさいね。今日は何もないの」

「冷凍のピラフでいいよ!」


祠にピラフをお供えする。

「神様…昨日はありがとうございます」

答えがない…


祠の横に撤去します。と書いてある看板が目に入った!

「うそ…」

その近くにいる、工事の人に声を掛ける

「祠を壊さないで!神様がいるんです!」

「お嬢ちゃん、神様なんていないんだよ」

優しい声で諭すように言われた。

「本当にいるんです!話もしてきたし、昨日は神様の家にも行ったんです!お願い、お願いします!」

何度も何度もお願いした。両手を地に付けて…

でも、聞いてくれない…。


「神様、私はどうすればいいの?」

何も返事はなかった。

「神様、お願い!祠を壊させないで!」

グシャ!祠が壊される音がした!

しばらくして「祠」は撤去された。


更地になった場所にランドセルをギュッと握りしめながら、座り込んだ…


「お嬢ちゃん?」

知らない大人達が声を掛けてきた。
涙でグシャグシャになった顔をあげれば、優しい笑顔で手を差し伸べてきた。

「祠はね、引っ越しをするんだよ。ほら、そこに空地があるでしょ?そこに新しい祠を建てるんだよ」

顔がパァッと明るくなった。

「本当に引っ越すの?」

「ああ、そうだよ。お嬢ちゃん毎日、祠にお辞儀してたでしょ?泣きながら壊さないでって言ってたでしょ?みんなそれを見てたんだよ。それで町内会の皆で話し合って決めたんだ」

「また、神様に会える?」

「ああ、会えるとも」


新しい「祠」は急ピッチで建造され、2週間で出来上がった。

「さっ、最初はお嬢ちゃんだよ。神様に会えるといいね」

「うん!」

「神様、冷凍ピラフ持って来ました。食べてくださいね」

そうすると、柔らかな風が吹き

「久しぶりじゃの〜、ホレ見てみよ、祠もキレイになったし、今度は鳥居までついておる!みんなお嬢ちゃんのおかげじゃよ!」

「良かったです。もう会えないかと思いました。」

「ワシも会えてうれしいぞ。そうだ、もうすぐ誕生日じゃな?何か願い事を聞いてあげよう」


少し考えて…

「この祠がなくなりませんように…」

「ありがとうね…」


私は30歳になった。ソコソコの大学、ソコソコの会社で務め、今の主人と出会い結婚、母親にもなった。

「神様」とは、あれ以来、話す事ができなくなっていた。

子供を連れて散歩をしていると子供が指を指し

「ママ〜、あれな〜に?」と

「祠」を指さした。

「あれはね、神様が住んでいるお家なの、毎日ありがとうって言うと、いい事があるのよ」

「じゃあ、私も毎日ありがとうする!」

「そう、いい子ね、じゃあさっそく行きましょうか」

子供の手を取り少し古ぼけた「祠」に手を合わす。

「神様、私も母親になり、幸せな毎日を過ごしています。ありがとうございます」

「ありがとうございましゅ!」

子供の元気なあいさつが微笑ましい。


すると、子供が何か言った。

「ママ〜年パスってなに?」

「え?」

「あと、冷凍ピラフって言ってるよ」


神様がいる!

私には聞こえないけど、確かに神様がいる!

「ママ〜どうして泣いてるの?」

「ううん、ママはね、とってもうれしいの」

財布の中から紙切れを出す。

「いい、この年パスをあげる。ずっと持ってるのよ。神様に会えるから」

「今度、冷凍ピラフ、持ってこようね」

「うん!」

「祠」を後にする。

季節外れの桜の花びらが舞うかの如く柔らかな風が吹いていた。


ー完ー


ーーーーーアトガキーーーーー

こんにちは、

モカ☆まった〜りです!

いかがだったでしょうか?

今回は「ファンタジー」に挑戦してみました。

この物語を思いついたのは、ある小学生の女の子が祠にお辞儀をしている光景を目にしたからなんです。

その光景がいいなと思い、祠だけを写真に撮り、Twitterにあげました。

なので、全てが「妄想」ではありません。

こうだったらいいな〜という思いからです。

子供が祠の主人を「神様」と呼ぶのは、実は間違えなんですね。

そもそも、日本における「神」とは日本神話に出てくる方達の事を指します。天照大神が有名ですね。

祠などは「仏教」からのものなので、正確には「仏様」?と言っても、大乗仏教における仏様は、お釈迦様ただ一人。

では、祠に鎮座している「地蔵」は何でしょうか?

正確には「地蔵菩薩」。

仏様の次の位で智慧者と言われています。

でも、僕は「ファンタジーに菩薩?」はしっくり来なかったので、無理やり「神様」にしました。

もし、祠を見かけたら「お礼」をしてみるのはいかがでしょうか?

ちなみにクシティガルバと言う名前は、地蔵菩薩のサンスクリット語訳の名前です。

それでは。



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