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小説 本好きゆめの冒険譚 第二十二頁

「ゼウスのおじさんと会うのは、昼だよな?」

 壁掛け時計で確認しながら、ゆめに言った。

「そうだよ。パパ。」
「じゃあ、早い目の昼ごはんにしようよ、ママ。」
「そう言うと思ってたわよ!」

「今日のお昼はカツ丼でーす!」

 揚げたてトンカツにフワフワ卵。
 出汁の効いた少し濃く甘いタレの匂いが、食欲を唆る。
 お吸い物はすまし汁で、色は付いていないのに、しっかりと味があり、出汁の香り、三つ葉の香りが、堪らない…。

「「「「いっただきまーす!」」」」



「ふぅ〜、満足満足…」
 お腹をポンポンと叩きながら寛いでいると、

 パタン、と言うよりもフワッとゆめが倒れた。

 皆が慌ててゆめを抱え、大丈夫かと頬をペシペシと叩くが、意識が戻らない…と言うよりも、眠っているかの様な感じがする。

 ゆめをソファに横にすると暫くして、ゆめが、ソファに、足を大きく広げ胸を張り座り込んだ…。

「皆の者、待たせたな…。」
 ゆめの口から出る声は、明らかに「ゆめの声」ではなく、老人のような、若いような男性の声だった…。


 …ゼウスだ!


「あなたが、全知全能の神、ゼウス様でいらっしゃいますか?」
「左用、我こそが全知全能の神、ゼウスその人である。畏まる事はない。気軽に聞きたい事を述べよ。但し、嘘偽り、己の欲にまみれた内容ならば、死が皆を待っている、そう思え。」

そう言われても、態度を崩す訳にもいかず、黙っている3人。

「何もないのであれば、儂は去るが?」

「お、お待ち下さい!」

「聞きたい事があるのじゃな?」

「はい…。」

「構わん、述べよ。」

「貴方様は本当にゼウス様なのですか?」
「さっき、言ったではないか?」
「そうですが、証拠を見せてもらえませんか?」
「良かろう…外を見よ。」

 今日は、雲一つない晴れである。夏ではないが、日焼けしそうなぐらいの陽気な天気が広がってる。

「ほれ。」
 ゼウスが言った瞬間、洪水のような雨と急激な寒さが、3人を襲ってきた!

「わ、わかりました!ありがとうございます!」
「そうか…。」

 その瞬間、元の晴れの空に戻った…。

 これは、本物だ…

 神に会えた嬉しさと、耐え難い恐怖を感じつつ、

「次の質問、宜しいでしょうか…?」
「構わん。」

「何故、ゼウス様と桃太郎がリンクしているのでしょうか?」
「桃太郎は、元々儂の冒険譚なのじゃよ。それを解りやすくしたのが、世界中に伝わって今の桃太郎になった訳じゃ。」

 次の質問…
「何故、ゆめが桃太郎の噺を変えた事がゼウス様に影響を、及ぼすのでしょう?」
「それは、色々と理由があるな。」

「まずは、その桃太郎の本じゃ。」
 いつの間にか、古い絵本が置いてある。
 ペラペラペラと勝手に本が開いていく。

「その絵本の内容は、他の絵本と違い非常に儂の冒険譚に近い!と言うのが、1つ目じゃな。後で確認されよ、お主らが知らぬ話もある。」

「2つ目じゃが、この家にある。お前も、この家の噂位、聞いた事があるじゃろう?」

…確かにこの家は不思議な事が起きる…そんな話を聞いた事はある。しかし、ただの冗談だと思っていた…。

「じゃが、安心せい。この家に悪魔の類は来んでな。」

「3つ目じゃが、この子の能力が関係ある。」
「ゆめが神の力を持っているとでも?」
「違う、桃太郎が好きだと言うのも立派な能力じゃ。余りにも好きすぎて、つい悪戯したくなったんじゃろうて、可愛い奴よの。」

「4つ目なんじゃが、これは、儂のミスじゃ。つい、寝てしまっての、能力に綻びが出来たんじゃ。ほんの数分だけじゃが、儂らの時間軸と人間の時間軸は違うからの。」

「…ゼウス様が寝ている間に、ゆめが悪戯をしたと言う事でしょうか?」
「簡単に言えば、そう言うことじゃ、儂はこの子を罰せようとはせん。安心されよ。」

「最後に、宜しいでしょうか?」
「何じゃ?」

「ゆめに残したメッセージも貴方の物なのでしょうか?」
「あぁ、あの紋章の事じゃな?あれは、儂との依代でな、あれがないと、儂が困ったのじゃよ。」

「あの紋章が、娘に悪さをすることは無いと思って貰えば良い。ただ、儂はあの子が可愛くての、また会いたいものじゃ、妻もそう言うとる。」

「あの、妻とは…?」
「ヘーラーの事か?」
「あっ、いえ、大丈夫です。はい…。」

「もう、いいかの?」

「あ、あの!」
「まだなにかあるのか?」
「紋章と一緒に書いてあった文字は何と書いてあるのでしょうか?」
「文字?儂は紋章しか書いておらんぞ。何かの間違いではないのか?」
「そ、そうなんですか…。」

「もう、よいか?」
「はい、ありがとうございました。」

「では、また会うかもか知れんしな、息災でな。」

・・・ゆめがフワリとソファに沈んだ。


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