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小説 本好きゆめの冒険譚 第二十三頁

 あれ?

 ここは何処なの?

 真っ暗である。

 まるで水に浮いているような…この感覚は覚えがある。

 私は、ゼウスさんの所に呼ばれてるんだ…。

 いつもは、すぐに何処かにいるのに、今回はやけに暗闇の時間が長く感じる…。


 暗闇とは本来、恐怖を生む物だ。
 通常の人間ならば、発狂するのが普通。


 だが、ゆめは違う。

 何度も来ているからと言うのもあるが、ゼウスへの信頼が、恐怖を感じさせない。

 むしろ、心地よいとも感じている。

 目を瞑って、漂っていると、
 突然の光に目が焼けそうになった。

「全く、こんな所に放っておくなんて、最低よ!」女性の声がした。

「あの…ここは…?」

 聞かずとも、いつもの場所であるのが判った。

 そして、

「ハア〜イ!元気にしてた?」

 最高位の女神、ヘーラーが私を覗き込んでいる。

「あの、私は何でここにいるんですか?」
「今はあなたの意識と、エロジジイが入れ替わってるからよ。」

「私、寝てないのに…。」
「今回は強制的にあなたを寝かしつけた訳よ。」
「そうなんですか?」
「そうなんですのよ。」

・・・暫くヘーラーさんとお喋り・・時間が過ぎて

「ゆめちゃん、本当に可愛いわね〜、私の子供にならない?」
「私には、パパとママが親ですから…。」

 ゆめの事が余程、気に入ったのかヘーラーが纏わりつく。

「本当の親は親でいいのよ。それ以外の所でどうかしら?」
「どういう事ですか?」

「例えばね〜」
 パチンと指を鳴らすと、何もなかった空間が草原へと変わった…。

「この景色を見て、どう思う?」
 柔らかな陽射しに気持ちいいそよ風、それに逆らう事もなく、そよそよと流れる草からは、緑の匂いがする。

「とても綺麗で、気持ちいいです。」
「そう、そんな気持ちに私を感じてくれればいいの。」
「そんなので、良いんですか?」
「そんなことがいいのよ。」

 パチンと指を鳴らすと、また景色が変わる。
今度は海の上だ。

「どんな感じ?」
「海の上を飛んでる気分です。」
「これはね、本当の鳥が見ている風景よ。」

 海の上を凄いスピードで飛んだかと思えば、停止したりしている。下の方に銀色の塊のような物が、キラキラしている。

「動くようね!」ヘーラーが叫ぶ!
 すると、さっきまで海の上だったのが、一気に水の中に…銀色の正体は魚だった。

 勢い良く海から飛び上がると、小魚がピチピチと動くのが見える。

「ごはんをゲット!おめでとう!」
 何故か私とハイタッチ。

 またパチンと指を鳴らす

 すると、海の上からずっとずっと上に昇って行き、雲を抜け地球が見える…。
 そして視界は様々な星の間を猛スピードで飛んでいるかの様に変化している。

「ねえ、ゆめちゃん。」
 ヘーラーさんが、呼びかける。

 ヘーラーさんを中心に宇宙を飛んでいる光景のもと、ヘーラーが両腕を広げながら私に言った。

「この世界を作ったのが私達「神」よ。」
「そして、この世界を守るのも「神」の仕事。」
「私達は、いつもあなたのそばにいる、この瞬間も!」

・・・宇宙の真ん中で、浮いている私達。
 ヘーラーがそっと私を抱き抱え、見つめてくる。

 なんて美しい瞳なんだろう…

 もう、このまま時間が止まっても良いとさえ思える幸福感。

 これが・・・神さま・・・

 すると、急に何もないいつもの空間に戻っていた。

「お〜、探したぞ…。」
 ゼウスだ。

「お前のパパとママに会って来たぞ!仲の良い、いい夫婦じゃな。お前がいい子な理由が解る。」
 私の頭を撫でながら、そう言った。

「そこでじゃ、どうじゃ、儂の娘にならんか?話なら付けてやるぞ?」

「ゆめちゃんは、私の娘なんです!アンタみたいなエロジジイに渡すもんですか!」
 と、ヘーラーが引き剥がすと同時に、私を抱きしめる…。温かい…柔らかい…いい匂い…。

「そうか〜、仕方ないのぅ。それならば、儂の能力の一部を授けよう。ゆめちゃんは、本が好きだったの?」

 私に向けて光のボールがフワフワと進んできて、私にぶつかれば花火の様に、散って行った。

「これで完了じゃ!」
「あんまり、悪さをするんじゃないぞ。」

「どういう能力をくれたんですか?」
「本を読んでいれば、いずれわかるよ。」

「それと儂らとは、何時でも会えるからの。」
「どうやったら、会えるんですか?」

「手の甲に、紋章が刻まれたじゃろう?」
「それを意識して、儂らを呼ぶんじゃ、それが出来れば、儂らと会うことが出来る。頑張れるかの?」

「はい、頑張ります。」

「それではの。」

 私は闇に吸い込まれて行く。

・・・頑張って!・・・・

 ヘーラーの声が、微かに聞こえた…。


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