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美味しい珈琲はいかが?2 3杯目

「カランカラン」扉に取り付けた鐘がなる。

「いらっしゃいませ・・・あ!久しぶりです!」
 今日来てくれたお客さんは、半年前にこのお店でのプロポーズが成功、お店の裏にある教会で結婚式を挙げた2人が来てくれた。

「主人が、ここの珈琲が飲みたいって何度も言う物ですから、来ちゃいました!」
「だってさ、僕たちが結婚して半年記念日なんだよ!ゆかりのあるこのお店に来たいじゃないか。」

 いい旦那さまは、こういう所は抜け目ない。きっと幸せな新婚生活を送ってるんだろうなと改めて感じ取る。

「やっぱり、あの珈琲ですか?」
「はい!あの珈琲でお願いします!」
「畏まりました。」

 マスターが豆を炒り始める・・・。

 そう、この二人が注文した珈琲は「ストロング珈琲」改め「キューピッド珈琲」。
 初めてこの二人が来店した時に、なかなかプロポーズに踏み切れない男性の背中を押すために淹れたパンチのある珈琲だ。

 かなり強烈な珈琲の香りが店内に広がる・・・。
「お待ちどう様です。」
「これですよ!これ!」と男性が口にする・・・ガツンと来る珈琲にまたもや噴き出しそうになる。
「あなた、半年前と同じことをしてるわよ。」と奥さんが笑ってる。
「アハハハ、前に飲んだ珈琲はこんなに強かったんですね!」と笑ってる。
「でも、この珈琲のおかげなんですよね・・・。」と優しい目でカップを見つめる男性。
「これからも、仲良くしてください。」と奥さんに「告白」をした。
「はい。よろしくお願いします。」

 ありがとうって言葉を残して2人は帰っていった。

 その日からしばらくして、初めて来るお客さんが来た。
「あの、キューピッド珈琲をください!」
「え?」

 そのお客さんは焦っているのか、早口で捲し立てる。

「僕は、結婚式に参列したあの2人の友達なんです!ここの珈琲を飲んだことがきっかけで、プロポーズが成功したって聞いたものですから・・・。」
「もしかして、お客さんもプロポーズですか?」
「はい、これから会う人にプロポーズしようと思ってまして、気合を入れようかと。」

 珈琲はエナジードリンクではないのだけど・・・。

「畏まりました。でも本当にガツンと来ますから、覚悟してくださいね。」

 次の日にその男性客は女性を連れて来た。
「いらっしゃいませ。あら、この方ですかぁ~昨日おっしゃっていた方って。」
「ここの珈琲のおかげで、大成功ですよ!ありがとうございます!」
「では、ここで結婚式をされるのですか?」
「はい!あの2人のような幸せな結婚式にしたいと思います!」

 翌月、2人の結婚式を執り行った。

 その事がきっかけで噂が噂を呼び「ここの珈琲を飲むと恋が成就する」との都市伝説が生まれ、プロポーズを成功させたい人や片思いを実らせたい人が、次々と来店するようになった。

 この店は神社じゃないのだけど、それでも高確率で成功しているのだから、噂は広がるばかり・・・。

 そんなある日、小学生の2人が来店。
「いらっしゃいませ。」
「キューピッド珈琲を下さい。」と注文をする男の子。
「大丈夫?ここの珈琲は1杯、1500円もするのよ?」
「大丈夫。貯金をがんばったから・・・。」
「キューピッド珈琲はすごく苦いわよ?本当にいいの?」
「・・・・」

「香さん。」マスターが手招きをする。
「ここは、私に任せてください。」とヒソヒソと言ってくる。
「わかりました。」

「お客様、畏まりました。20分程、お待ちくださいね。」
「20分もかかるの?」
「そうよ~。ここのお店は「本物の珈琲」を淹れるんだから!」
「わかった!」

「香さん、お待ちどう様。」とマスターが出してくれたのは、「カフェオレ。」
「マスター、いつの間にミルクなんて用意していたんですか?」
「これは、たまごサンド用のミルクですよ。小さなお客様にお出しして下さい。」
「わかりました。」

「お客様、お待たせ致しました。キューピッド珈琲です。」とカフェオレを出す。
「わぁ~、甘くておいしいね。」と女の子が嬉しそうに飲んでいる。
 男の子は黙って下を向いている。

・・・こんな時って、男の方がヘタレなんだよね。

 男の子は決意を固めたようで、
「あの、あのさ。」
「なぁ~に?」女の子の方が堂々としている。
「僕は、君の事が好きだよ。」
「ありがとう。私も大好きだよ!」
「じゃあ、僕と付き合ってくれる?」
「うん!」

 無事、ちいさな恋が実った二人は「ごちそうさま!キューピッド珈琲って苦いって聞いてたけど、甘くて美味しかった!」と言って、手を繋いで帰って行った。

・・・私でさえ、彼氏がいないのに・・最近の小学生ときたら・・・うらやましい。

「カランカラン」いつのも常連さんが入って来た。
「いらっしゃいませ。今日は遅いんですね。」とおしぼりとお水を出す。

 常連さんは腕時計を外しながら、
「小学生のカップルとすれ違ったんだけど、この店に来たの?」
「ええ、キューピッド珈琲を飲んで、恋が成就したんですよ。」
「でも、小学生にあの珈琲は苦すぎるだろ?」
「大丈夫ですよ、カフェオレを出しましたから」と笑いながらマスターが答えた。

「それにしても、変な繁盛の仕方をしたもんだ。」
「それでも、皆さんは緊張してるので騒がしくないですよ。」
「本当は、プロポーズって思いの強さが決め手なのになぁ~」と常連さんは天井を見上げる。
「まっ、ゲン担ぎになるんだったら、それでいいか!それにしても、小学生だぞ!今の子供達は進んでるな!俺の頃は鼻水垂らしてたぜ!」ガハハハと笑う。

「それはそうと、厨房の件は進んでるのかい?」
「ええ、明日の休みの日に業者さんが、計測に来る予定になってます。それを元に設計図を起こすみたいですよ。」とマスター。
「そこに香ちゃんは同席出来ないの?」
「え?何で、私が同席するんですか?」
「そりゃ、当たり前だろう、厨房を使うのは香ちゃんなんだから、使い勝手のいい設計にした方がいいだろう?」
「でも、そんなことをしたら、お金がかかるんじゃないですか?」
「金の事なら、気にするな!俺はこう見えても金持ちだからな!なんちゃって!」
「それじゃあ、同席させてもらいます。」
「ああ、それで美味い飯を食わせてくれ。頼んだよ!」

「カランカラン」もう一人の常連さん、マダムがやって来た。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちは。ねぇ、小学生の2人とすれ違ったのだけど・・・」
マダムも同じことを聞いてくる。
「オウ、マダム!その2人は、ここの珈琲を飲んで付き合う事になったそうだぞ!」
「あら、よかったわね!それにしても、よくあの苦い珈琲を飲めたわね?」

 同じ疑問をマダムも持つんだよね。この二人は気が合うんだろうな。
「あの2人には、甘いカフェオレを出しましたから、大丈夫ですよ。」マスターも同じ答えをする。

「そりゃそうと、明日はよろしく頼むぜ!」と常連さんがマダムに言う。
「任せてよ!納得が行く厨房を作ってあげる。」
「ひょっとして、マダムの会社の人が来るんですか?」
「私の会社・・と言うより、私のグループ会社のひとつね。」
「グループ会社?マダムって商売上手なんですね!」
「オイオイ、香ちゃんは知らないのかい?マダムは有名グループ会社の会長さんなんだよ!」

「え?それは失礼しました!」と慌てて、頭を下げる私・・・。

「そんなに畏まらないでいいわよ。この店に来たら、私もただのお客さんの一人だし、この立場になってからは周りはみんな遜ってくるから、やなのよ。だから、いつものように接してくれる香ちゃんでいてね。」
「わかりました。それよりも、マダムは何だか元気ないですね。」
「あら、香ちゃんには敵わないわね。ちょっと仕事の事で色々あってね・・・。」
「よければ、愚痴ぐらいなら聞きますよ。」
「いいの?でもね。」
「何でしょうか?」
「この店に来ると癒されるから、もういいのよ。ありがとうね。香ちゃん。」

「そんな事よりもなマダム、聞いてくれよ!」

小さな店内にゆっくりと流れるした時間、みんなの幸せそうな笑顔。
この店にバイトで入って良かったな。改めてそう思った。

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