「型にはまった演技から脱するには」~実践編~
前々回の記事(「型にはまった演技から脱するには」)では、まずは自分を知ること、そしてそれをコントロールすることの重要性をお話ししました。
そして前回の記事(演技の本質は主観性と客観性の両立)では、演技がいかに矛盾に満ちた難しいものであるかをお話ししました。
今回は、それら二つを合わせて、実際に演じる際にどのように考えればよいのかをお話いたします。
「寒い場所」を演じる
いきなりですが、質問です。
皆さんの前に、二つの演技課題が出されました。
あなたはどのように演じますか?
【課題】「寒い場所」にいる時を演じなさい
続きを読む前に文章を読む前に、まずは自分で実演をしてみてください。
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さあ、いかがだったでしょうか?
うまく、演じられましたか?
演技は理論ではなく実技で学ぶ
少し話が逸れますが、皆さんがこれから演技を学んでいこうと思った時には、必ず「実技」をしてください。
世の中には、沢山の「演技論」があります。中には「メソッド」と言われる、非常に体系だった技術論もあります。
僕は今回の話で、「スタニスラフスキー」という、20世紀後半から21世紀前半にロシアで活動していた俳優さんの技術論(これが体系化されたものを「スタニスラフスキー・システム」と言います)の中にあることをお話しします。
そんな数ある技術論を、色んな本などで「勉強」すると、なんだかそれだけで分かったような気持ちになります。
何度も穴の開くまで読めば、もしかしたら、誰かにその演技論を雄弁に語ることもできるようになるかもしれません。
しかし、俳優の仕事は「演技論を語ること」ではありません。
どんなに雄弁に演技論を語ったところでそれを「実演する」という事が出来ない限り、俳優としては何の能力にもならないのです。
なので、必ず理屈を理解するだけでなく、その理屈を自分の身体を通して実践してみてください。
なんなら、誰かに見てもらってください。
そうやって身体を通した結果、理屈を学ぶ前と後で、明確に変わっていれば、そしてその変化が意図した通りであった時、それでついに「技術を身につけた」という事になるわけです。
型にはまった演技になる理由
さあ、というわけで、まずは「気温マイナス10度の外に立っている」というのを自分がどうやって演じたかをしっかりと確認しましょう。
皆さんがどのように演じたかは置いておいて、おそらく10人中8人くらいは「両手で逆の腕の上の方を掴み、震える」という芝居をすると思います。
これがまさしく、「型にはまった演技」です。
なぜ、このような型が生まれてしまうのでしょうか。
それはズバリ、「寒いという事を表すときは、両手で逆の腕の上の方を掴み、震えるものだ」という、多くの日本人(世界ではどうか知りません)が日々の生活の中で刷り込まれているからなのです。
演技には、こうやって、「○○すれば○○に見える」という型が沢山あります。
これはつまり、前回の記事で言うところの「客観性100%」の状態です。
ではここで、日々の生活を思い浮かべましょう。
冬、寒い日に外にいる人(自分も含めて)を思い浮かべた時に、周りで両手で逆の腕の上の方を掴み、震えている人はいるでしょうか?
僕は、見たことがありません。
なぜいないか。
そんなことをしても、暖かくはならないからです。
そう、我々は寒いとき、暖まりたいのです。
そんな時にはどうするでしょうか?
下に、例を挙げてみましょう。
「寒い場所にいる」を主観的に演じるには
① 掌を口に当てて、「はーっ」と息を吐きかける。
僕ならまず、まずこれをやります。
そうしたら、少し暖かくなるような気がするからです。
少なくとも、末端冷え性の人間にとっては、いくぶん手のかじかみが和らぐような気がします。
だから、息を吐きかけるのです。
②腕や手を擦る。
他に、先ほどの例で、「両手で逆側の腕を掴む」というだけ終わらずに、「腕を擦る」というのはというのはあり得ます。
あるいは、腕に限らず、掌をこすり合わせるという事もあるかもしれません。
これも、摩擦熱で、少しでも暖まろうという行動です。
③上着やブランケットをにくるまって丸まって小さくなる。
これも、暖まろうとする行為ですね。両手で掴むのは、腕ではありません。上着やブランケットです。もちろん、上着やブランケットの下には、腕があるかもしれませんが。
また、丸まって小さくなるのは、少しでも表面積を小さくして放射熱を抑えることで、体温が下がるのを防ごうとする行為です。
さて、他にも色々あるかもしれませんね。
皆さんならどういう行動があり得るか、考えてみてください。
そして、なんとなく分かってきたと思いますが、「両手で逆の腕の上の方を掴み、震えている」という表現は、上に上げた例に形としては近いような気がしますね。
おそらく、普段の生活の中で無意識にやっている行動を、表面だけを単純化したものが「型」として定着していくのでしょうね。
しかし、「寒さ」というものを外面的な型ではなく、内面的に捉えて「寒かったら一体どうしようとするだろう」と考えることが、演技の大切な要素だと思うのです。
つまり、外からの見え方ではなく、内からの見え方で考える。
これが主観性です。
客観性とは、「他人からそう見える」ことであり、主観性は「本人がそう感じている」という事なのです。
前述のスタニスラフスキーは、これを「魔法のif」と言っています。
ifとは、「もし~だったら」という英語ですね。
つまり、「もし自分が寒い場所にいたら?」という想像が、演技の第一歩という事ですね。
もうひとつ、スタニスラフスキーは「役としての目的を持って演じよ」と言います。
今の場合であれば、「両手で逆の腕の上の方を掴む」という行動には役としての目的はありません。あえて言えば、「寒さをお客さんに伝えたい」という、役者としての目的に沿った行動と言えます。
しかし、寒い場所にいる人は、基本的には「暖かくなりたい」と思うはずです。すなわちそれが目的となります。
目的が見つかれば、おのずと行動も見つかります。
言われてみればそりゃそうだという気がしてきますが、案外我々はそのことを忘れてしまいます。
何故なら、「観られている」から。
他人の目を意識したとき、我々は無意識に客観性に引っ張られてしまうのです。
そのため、この「魔法のif」は意外とあなたの演技にヒントをもたらしてくれるかもしれません。
まあしかし、上に上げた3つの例は、それでもまだ表現としてはありきたりで、おそらく10人に2人くらいはこのいずれかの表現をします。
そのくらい、「手に息を吐きかける」「腕や手を擦る」「上着やブランケットにくるまって小さくなる」という行為はある種「演技の型」になりかけているくらいにはポピュラーな反応です。
では、ここからさらに「10人に1人もいない」つまり、あなたオリジナルの「寒い場所にいる表現」にしていくには一体どうすればいいのか?
次回は、オリジナルな表現につなげるべく、「より具体的に演じる」という事について考えていこうと思います。
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