大工の子は大工、
その数時間後、警察署から実家に連絡があり、兄を連れて行った二人組はヤクザなどではなく、刑事さんだったことがわかりました。見た目からしてマル暴だったのかも。
ということで、勤務中にも関わらず僕もその事実を知り、兄に対して怒りが沸くやら、呆れるやら。そして、兄と共に僕に引導を渡した父に対しても怒りが沸いてきて、もう何が何だか・・・それに心配性の母が心配。
真っ先に僕は信頼する会社の先輩Yさんに電話をかけて相談しました。
「火の無い所に煙は立たねえ! 先ずはその事実を受け止めて、おまえは冷静に行動しろ」
と、Yさん。更にYさんはこう言いました。
「おまえのお父ちゃんは今日までおまえらを大工で喰わせて育てたんだから、立派なんだ。お父ちゃんを責めるのは違う」
はい。
「だけど、クビにして外に出すべきはおまえじゃなくて、お兄ちゃんの方だったな。お父ちゃんはそこを間違えたんだよ」
先輩Yさんは、この後も相談に乗り続けてくれ、僕を落ち着かせてくれました。このご恩は一生忘れません。
結局のところ、兄にかけられた容疑は詐欺罪。何週間かの拘留のあと、再逮捕があり、また何週間かの拘留。この間、僕は弁護士に会ったり、警察署に行き刑事と話したり、兄を探す兄の恋人・友人・知人からの連絡に対応したり・・・。
そして、兄にも面会しに行きました。
「また一緒に働こうぜ、戻って来いよ」
少ない時間でしたが、色々と話した後、兄は弱々しい声で僕にこう言ったんです。
そして、兄のいなくなった工務店を一人で支える父は僕にこう言いました。
「最近忙しいんだよ。一人じゃアレだからさ、戻ってきてよ」
この数年前、僕を工務店から追い払った二人です。
工務店をクビになった後、僕は妻に心配と迷惑をかけながら、色々な仕事を転々とし、産廃会社に就職。心の病もすっかりよくなるほど気持ちのいい仲間たちと出会い。生涯を通じて尊敬できる先輩にも出会い。内装解体班というやりがいのある楽しい仕事を任され、充実した日々を送っていた、ハズなのですが・・・。
Yさんは、戻ればどうなるかわかってるな? また同じことが起こるぞ? とおっしゃいました。
妻は、また絶対僕が傷つくことになるから、と反対しました。
それでも、僕は結局、工務店に戻ったんです。
理由はきっと、僕には勇気がないんだと思います。今、これを書くのにかなりの勇気を出してはいますが、やっぱり勇気がないんです。
家族を見放す勇気。それは同時に家族に見限られる勇気です。
勇気がないから、今日も明日も僕は大工なんです。小さい頃から本当は大工になんかなりたくなかったのに。勇気がないから、意識低い系大工のまんまなんです。
大工の子は大工、なんですかねえ。
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