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私は幸せだと決めつけた方が良いと分かりつつ認めたら弱くなる気がしてお湯を注ぐ

とぷとぷっと湯を注ぐ。分厚いプラスチックは水位が見えず、だいたいステンレスの台所にびやーっとこぼす。

仄暗い台所の明かり
浮かび上がる一文

お湯は満杯まで入れてください

ゆたんぽ中に空気が多く含まれていると非常に危ない。
冷めていく過程で圧力が下がり
分厚いプラスチックが割れてしまうのだ。
布団は濡れるし何しろケガするかもしれない。
そうならないために
湯たんぽはなるべく空気を無くす必要がある。

お湯は満杯まで入れてください

満杯とは。
完全に音がしなくなるまで入れるには
そもそもそちらの設計ミスだ。
ペットボトルのような形にすれば良いものを
入り口を横につけるからいけないんだ。
まして強度を上げるためのデザインであろう
なみなみのボディも不向きだ
そこに空気が溜まって仕方がない。


もうお湯も溢れたから良いかと思うのだが
先程の危険性を教えてくれた母は
ゆたんぽを傾けて空気を抜いていた。
とことん空気を排除したいらしい。

割れるのは嫌だし
習った通りにやるしかない。

入り口を上に傾ける
なみなみのボディにいた空気たちが
潔く入り口のほうでポコポコと顔を出す。

傾ければ傾けるほど
揺らせば揺らすほど
隠れていた空気たちが
「バレたか、ちぇっ。ポコポコポコポコ」と出てくる。
まったくキリがない。

満たしても満たしても
満たされない。

私自身かよ。と
寝る前に1人台所で
自分自身を嘲笑う。

邦画のワンシーンみたいな気持ち
しかし右手はやかん
左手は湯たんぽを傾ける。
全く締まらない。

もういい加減いいだろうか
終わりがないし
どれだけ入れても結局不安だ
もう疲れた
ゆっくり寝たいだけなのに
見えないリスクに備え続けるの意味ない気がする
ああもう面倒だ面倒だ。
ただお湯を注ぐだけなのに
こんなことを考える自分が1番嫌だ。
あたたかく寝たいと引っ張り出してきたのも自分
母との思い出を引っ張り出してきたのも自分
全て自分で初めて自分で後悔している。
いつもそうだ。
湯たんぽ1つでさえこうだ。んもう!

もういっぱいだよ。大丈夫だよ。
あったかくして寝なね。

誰かにそう言って欲しいのは
湯たんぽの事か私自身のことか。

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