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【短編】欠陥免疫剤

「ここのところ仕事が忙しすぎてカラダのケア出来てないなー」
不摂生から来る漠然とした体調の悪さを感じ、若手社員の中でも期待されている黒田が帰宅途中に立ち寄ったのは、
「よぼう屋」 と呼ばれるカラダ総合ケア商品を扱う店だ。
黒田は買い物を済ませ、足早に帰宅する。買う物はいつも同じなので、店に滞在する時間もわずかだ。

買って来た「Eki - Men」を飲み、入浴と食事を済ませベッドに入ったら、落ちるように眠りについた。

翌朝、目覚ましアラームが鳴る15分前にスッキリと起きた黒田は、ベッド脇のミニテーブルにあるワイヤレスイヤホン型の端末を耳に装着する。「ピピッ」と確定音が鳴り、小さなウィンドウに目をやると「免疫効果率 94.3%」の表示。
よし、と小さく呟き、黒田は支度を済ませ朝食をとり、仕事へと向かった。

午前のタスクをこなしホッと一息。
「午後の商談はうちの部の業績を左右する大事な商談だから、体調は万全にと昨日Eki  -Menを飲んでおいて良かった。気力、体力共に申し分ないぞ」

厚生労働省認可のいわゆる「服用免疫剤」が世に出てから10年、疲労回復や万病予防として一般的に使用されるようになった。

発端は、他の先進諸国に比べ著しく悪い経済成長率を改善するべく政府が打ち出したプロジェクト「伸ばそう競争力×強壮力」にある。

冗談みたいなこのプロジェクトだが、同じく冗談みたいな名前の服用免疫剤とともに意外にも効果を発揮し、土壇場で踏ん張る力がビジネスのあらゆる場面で生まれた事で、この国の経済はV字回復していた。

「服用免疫剤」が従来の栄養剤や免疫剤と異なる点は、免疫そのものを摂取する、という全く新しい概念から誕生しているところにある。

免疫とは本来生体防御機能の事を指すが、そのバリヤー機能を概念から実際に物質化する研究が一定の成果を挙げた事に政府は目をつけた。

経済停滞には土壇場で踏ん張る力がもっと必要だ、時の官房長官がコメントしてから認可、発売まで約2年。今や誰もがここぞという場面でお世話になるようになっている。数十年後、ある重要な問題が明るみに出るとも知らずに。

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