見出し画像

だれでも出来ることだから

旅に出たいなぁ・・・

世界中で今この言葉が一番、沢山のひとの口から漏れ出ているんじゃないだろうか。
いや、海外とかじゃなくていい、ちょっと電車を乗り継いで、ローカル線の終点まで行って、風景写真を何枚か撮って また同じ電車で夕なずむ見知らぬ風景を眺めながら 見慣れた夜の自分の街にもどる、みたいなことでも・・・

「誰もいない」ところをふらりと歩きたい。人の気配を、その町その町での生活の空気を感じたいのだ。

緊急事態宣言が日本で解除されて世の中に人の波が戻って来たようだけれど、私の中では もうそんな呑気な旅は 当分許される気がしない。
人間の世界はそれほどまでに、ウイルス禍によって不穏に分断されてしまっている。

世界が撲滅できていないウイルス病で有名なものに「狂犬病」がある。ペットを飼っている人なら「ワクチン接種が義務づけられている」ことを知っているだろう・・・と言いたいけど、毎年のワクチン接種義務*だ、とかは知らない人も結構いるんじゃないだろうか。「普通に暮らしているなら関係無い病気」と思っているんじゃないだろうか。(*追記:アメリカは3年ごとですが、全く同じワクチンを使っているとは限らないので詳細は不明です)

でも野生動物と接する機会のある場所(アメリカもそう)では 動物に限らず人間も死ぬ。発症後の致死率は100%に近い。
ウイルス宿主(罹って、かつ周りに移しうる生物)がいる限り、狂犬病は「どこかから撃たれて死ぬ」という感じの「ゲリラ潜伏兵」だ。今の所ゼロではないけれど抑えられているのは、世界のありとあらゆる社会でワクチン義務化と「それをかいくぐる野犬などのコントロール(はっきり言えば殺処分)」が成されているからだ。

他にも致死的なのに忘れられているとか知られていない病気は沢山ある。ワクチンを毛嫌いする社会によって一時期接種が控えられた日本脳炎ウイルスによる脳炎なんて、「蚊にさされた」あとに突然の高熱、頭痛、嘔吐などで発病し、意識障害や麻痺等の神経系の障害を引き起こす病気で、後遺症を残すことや死に至ることもある。日本脳炎ウイルスに感染した場合、およそ1000人に1人が日本脳炎を発症し、発症した方の20~40%が亡くなってしまうといわれている。また、生存者の45~70%に精神障害などの後遺症が残ってしまうといわれている。(厚労省ウェブサイトより

多分、いまでも子供とかが高熱を出すと死んじゃうんじゃないかと病院に駆け込むひとが多い理由は、歴史的に長い間日本では 恐らく日本脳炎なんかで「高熱を出して死んだ」ひとが多かったという背景があってなんだろうと思う。診断も治療も、予防法もなかったから。

ウイルスだけじゃない、感染症の世界には今だ予後のよくない細菌性の病気だってある。破傷風や壊死性筋膜炎みたいな怖い病気は細菌性だけど診断が付いたときはすでに後手に回っていることが多い。原虫と呼ばれるアメーバやマラリア原虫なんかも今だ人類は本気で手こずっている。

それでも、情報社会と言いながら【そういう病気を多くの人が忘れている】社会が実際にはある。そもそもどうして忘れ去られているか?を考えた事はあるだろうか。
答えは簡単で、多くの予防医学と公衆衛生と各政府によって、ワクチン政策や中間宿主(感染を媒介する生物)を減らす努力がされてきたからだ。長い間の努力が実を結んだから「忘れていられる」現状なのだ。

情報が溢れているといいながらも、沢山のことが知られていない。本当に基本的で大事な事なのに、「NEWS(新しい情報)じゃない」という理由で。

これまで人類がどんな感染症と闘いどうやって押さえ込む努力をし、どれ程の科学の進歩が貢献してきているかを、殆どの人が知らない。どういうバックグラウンドがあってどれ程苦しんだ人々がいて、それが医療政策に反映されているかを順を追って理解しているひとの少なさに、仕方はないのだろうが絶望感を覚えることはよくある。

メディアの知らせるべき事、というのは新しいニュースだけではなくそういう人類の辿った苦しい選択の歴史というのもあるんじゃないかと思う。同時に今ふつうのひとをやっている元医師として、私は書き続けなきゃイケナイと思っている。

日本での緊急事態宣言解除を喜ばしく思っている。世界中でウイルス対策が少しずつ方向を変えている。それも、悪い事ではないと思う。

ただ皆さん、知ってて下さい。今回のウイルスはそんな簡単に撲滅されないし、実際アメリカでは人々は大分普通に行動しているけれど重症患者はちっとも減っていません。健康な若い人すらばんばん亡くなっているし、なによりそういう重症者ケアの出来る人達の疲弊感がひどくて、仕事を止める人も後を絶ちません。
どうして人類がワクチンというものを開発し続けているのか、どうして世界中でワクチン接種率を上げる努力をすすめられているのか・・・特効薬と呼べるものがない現状で、人類の過去の感染症との戦いと現在の「最後の砦の人達すら疲弊し現場を離れていく」状況を知り、自分に出来ることを考えるのは本当に今です。

ICU集中治療室の中は同じ病院内で働く人にさえも分かりにくいし一般の人には全く見えないです。一般のひとと同じ生活をする私にだって、日常の見える所からは想像出来ない。
だけど毎日、信じられないくらい疲弊して帰宅する夫をみて、その疲弊が体力よりも「心」に降り積もっていることを見て取れるから、現状の禍はまだ真っ只中だと知れます。仕事との距離感が 同職だった私から見ても「上手だな」と思っている夫がこれです、多くの職員さんはもっと酷いのは明らかです。

旅をしたい。

そんな小さな願いは「もう収まったんじゃね?」と思い始めることからfulfill(実現する)されることではなく、

私達は感染症のある世界に生きている、その影響を少なくするには、自分が罹らないようにするにはどうするか

を、歴史的なことも科学の最先端で多くの人が努力していることも知ったうえで選択をしていくことからしか、取り戻せないんじゃないかなと思っています。

だからワクチン、打とうよ。
インフルエンザのほうも忘れずにね。(私は今日こっちを打ってきます)

サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。