猫と国芳と化け物退治
パリに住んでいたころ、ルーブル美術館と同じ建物内にある、Musee des Beaux-Artsのミュージアムショップで、一冊の絵本をみつけた。
表紙は怪しげな猫。日本の浮世絵だったので自然と目が止まった。
本を手にして、タイトルみると
"la formidable aventure du chat de maitre Kuniyoshi"
とある。
日本語で「マスター・クニヨシの猫の大冒険」
ちなみに、マスター・クニヨシとはgoogle翻訳の訳。なかなか粋な訳だな。
クニヨシとは、以前日本でも展示会が話題になった歌川国芳のこと。あの、がしやどくろの浮世絵「相馬の古内裏」で有名な絵師だ。
知らなかったのだけど、歌川国芳は沢山の猫の絵を残したことでも有名なのだそうだ。
この本の主人公は、そんなマスター国芳のアトリエに住む猫。その名もNecoというらしい。
その猫が、江戸湾にやってきたクジラに導かれ、「イチ、ニ、サン、変身!」とサムライに変身して化け物退治をしていく。
全編、国芳の浮世絵をうまく組合わせ、話は進んでいく。言葉なんてわからないけど、奇想天外な国芳の絵が、爽快な冒険活劇になっているのはわかる。
でも、この本を作ったのが、日本人ではなく、フランス人だというのはちょっと悔しかった。だって、浮世絵なら、日本人の方がわかってるはずなのに。
これはアートのことを良くわかってる人達だからこそ作れる本のような気がした。
つまらないウンチクなんていらない。国芳が生き生きと描いた江戸の風俗や、庶民が熱狂した歌舞伎のワンシーン、闇夜の魑魅魍魎たちと人間の攻防。そんなストーリーを見たままに絵から想像を膨らませ、サムライに変身した猫の冒険物語を再構築する。
高尚なウンチクとか、芸術は崇高なものとかいう固定概念なんかも取り払って、アートをこんなふうに自分勝手に遊んでみると、アートも自分自身も新しく生まれ変われるのかもしれない。
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