おいしいフィンランドのシナモンロールが食べたい
吉祥寺で、moi(モイ)というフィンランドカフェをやっていた当時の名物メニューにフィンランド風シナモンロールがありました(写真)。
フィンランド風シナモンロール
まず、フィンランド風と聞いてピンと来ないひともいるでしょう。当然です。シナモンロールといえば、たいがいのひとはグルグルと渦を巻き、真っ白い砂糖でアイシングされたものを思い浮かべるはず。ところが、フィンランドのシナモンロールはちょっと違うのです。
そこで、いまから18年前、カフェのメニューとしてフィンランドのレシピでこしらえた自家製のシナモンロールを提供すると決めたとき、渦巻き状のシナモンロールを想像していたお客様をびっくりさせないようモイ(呼び方はカフェモイでもモイカフェでもかまいません)ではあえて「フィンランド風シナモンロール」と記載することにしました。
フィンランドのシナモンロールの特徴
では、フィンランド風のシナモンロールの特徴とはどんなものでしょう? それは、大きく分けて形と味のふたつです。
フィンランドのシナモンロールをお客様に出すと、「え?これが?」と目を丸くされることが少なくありません。よく知られた渦巻き状ではなく、カタツムリの殻をつぶしたような独特のかたちをしているからです。
フィンランド語でシナモンロールをコルヴァプースティ(korvapuusti)、つまり直訳すると「つぶれた耳」といいますが、これはまさにその見た目に由来しています。また、『ムーミンママのお料理の本』というレシピ集には「往復ビンタ」という名前で登場します。形が、ビンタされたときの耳に似ていることからスラング(なのかな?)でビンタのことをコルヴァプースティと呼ぶのだと知り合いのフィンランド人から教えてもらいました。
ちなみに、この「ビンタされた耳」型はフィンランドならではの特徴。お隣の国スウェーデンでは毛糸の束をゆるっとねじったような形になるのが興味深いところです。写真は、フィンランドのヘルシンキにある「アヴィカイネン」というパン屋さんのシナモンロール。横から見ると「耳」のように見えませんか?
かもめ食堂とシナモンロール
ふたつめの特徴は、味にあります。渦巻き型のアメリカ風(?)シナモンロールとフィンランド風シナモンロール、それぞれの味にははっきりとした違いがあります。
シナモンロールという以上、どちらもシナモン風味の菓子パンであることにはちがいがないのですが、それに加えてフィンランドのシナモンロールにはかなり強いカルダモンの香りがします。カルダモンというとカレーなどにも使われるスパイスのひとつですが、シナモンロールに限らずフィンランドの菓子パンではこのカルダモンが好んで使われます。これにかんしてはスウェーデンも同様。なぜか、北欧のひとは甘いものにスパイスを入れるのが大好きなのです。
フィンランドの場合、菓子パンの総称をプッラ(pulla)と呼びますが、プッラづくりではカルダモンを練りこんだ生地が多く使われます。つまり、カルダモン風味のプッラ生地にシナモンと砂糖をまぶし、くるくる巻いて成型したものがフィンランドのシナモンロールというわけです。
また、家庭でつくられるおやつの定番であるフィンランドのシナモンロールは、スパイスの配合や甘さの加減もそれぞれ家庭ごとに違うのが当たり前。日本では2006年に公開された映画『かもめ食堂』のヒットによりフィンランド風シナモンロールの認知度が一気にアップしましたが、あの映画の中でもシナモンロールは日本のおにぎりと対をなす存在、いわば「おふくろの味」として登場しました。じっさい、フィンランドの知り合いに「おすすめのシナモンロールはどこで食べられる?」と尋ねると、いくつか店の名前を挙げた後、「ほんとはうちのママのが最高なんだけどね」なんていう答えが返ってくることもしばしばです。
シナモンロールの起源とシナモンロールの日
ここでちょっとシナモンロールの歴史、ルーツをたどってみましょう? といっても、シナモンロールの発祥についてはあまりくわしいことは分からないようです。
一説によると、1920年代にスウェーデンのパン屋で編み出されたものが流行し、1950年代には家庭でも好んでつくられるようになったといわれています。フィンランドの文化の多くはスウェーデンから入ってきたものが多いので、シナモンロールもまた同様の歴史をたどったと考えてよいのではないかと思います。
スウェーデンやフィンランドなど北欧の人びとの「シナモンロール愛」は、しかしなかなかの筋金入りです。
自国をシナモンロールのルーツと考えているスウェーデンでは、1999年にホームベーキング協会が毎年10月4日を「シナモンロールの日」とすることを決定。これ、日本で言えば「おにぎりの日」って感じでしょうか? ちょっと考えられないですよね。さらにフィンランドでは、それを移植するかたちで同じ日を国民の記念日(ナショナル・デー)にまでしてしまったというのでビックリです。日本人が考える以上に、それが大切な食べものとして認識されていることがわかります。
★シナモンロールの日について、当初スウェーデンについてもナショナル・デーとの表記をしていましたが、スウェーデンでは記念日にはなっていないのでは?というご指摘をいただきました。
あらためて確認しましたところ、スウェーデンでは1999年にホームべーキング協会が10月4日を「シナモンロールの日」として制定、特に国で定めた記念日ではないということがわかりました。お詫びして、上記の通り訂正させていただきます。(2020年4月2日記)
スウェーデンの「シナモンロールの日」公式ページ
東京でフィンランドのシナモンロールを食べられるお店
書いているうちに、だんだんフィンランドのシナモンロールが食べたくなってきてしまいました。読んでいるみなさんもきっと食べたいはず。
もちろん、レシピを探して自分でつくるという方法もあります。でも、手っ取り早く食べたい、いますぐ食べたいというひとのために東京でフィンランド風シナモンロールを食べることのできるお店をご紹介したいと思います。
モイがオープンした2002年当時、おそらく常時食べられるお店は日本でもmoi1軒しかなかったと思いますが、いまでは東京でもぼくの知る限り4軒もあります。フィンランド好き、北欧好き、シナモンロール好きにはうれしいですよね。
まずは、杉並区荻窪にあるistut(イストゥット)さん。アラビアやイッタラのヴィンテージに囲まれて(購入も可能)ていねいに手作りされたシナモンロールやフィンランドのお菓子を食べることのできるセンス抜群のカフェ&ヴィンテージストアです。お店の営業日、営業時間、またシナモンロールの提供日についてはあらかじめ確認されることをおすすめします。
そして、おなじく荻窪にあるkielotie(キエロティエ)さんです。しかし、いま荻窪にフィンランドカフェがふたつもあるなんて素晴らしいですね。じつは、moiも2002年から2007年まで荻窪にて営業しておりました。
キエロティエさんもまた、手作りのシナモンロールやフィンランドビールを楽しめる居心地のいいカフェです。カンテレ教室などワークショップをいろいろ主宰されているのもフィンランドファンにはうれしいところ。やはり営業日、営業時間はあらかじめ確認されることをおすすめします。
世田谷区千歳烏山にあるロバーツコーヒーさんは、「フィンランドのスタバ」的なポジションで愛されるフィンランド発のコーヒーチェーンです。日本にはここ千歳烏山のほか、博多や埼玉県飯能市のメッツァに店舗をかまえています。
カフェでは、ロバーツブランドの豆を使ったコーヒードリンクをはじめもちろんシナモンロールも食べることができます。写真は、先日用事があって千歳烏山を訪ねた際にお持ち帰りしたシナモンロールです。
最後にご紹介するのは、後楽園の東京ドームシティ・ラクーアになるムーミンベーカリー&カフェさんです。ムーミン好きにはおなじみの「名所」ですが、こちらではベーカリーでシナモンロールのお持ち帰りが可能です。カップケーキのように型に入れて焼いているのが特徴です。
まとめ
たしかに、シナモンロールは世界にたくさんある菓子パンのひとつにすぎません。でも、たかがシナモンロール、されどシナモンロール。フィンランドを旅して、カフェで、パン屋さんで、そしてフィンランド人の家庭でそれぞれのご自慢のシナモンロールを口にすると、それはたんなる菓子パンというよりもその国の文化や人びとの暮らしと分かちがたく結びついていることに気づくはず。シナモンロールが、きっとフィンランドのことをより深く知り、もっと好きになるおいしい入口になってくれることでしょう。
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