見出し画像

【映画】デュエル Duelle/ジャック・リヴェット

タイトル:デュエル Duelle 1976年
監督:ジャック・リヴェット

とにかく風変わりな映画である。説明しにくいというか、ジャンル映画としてカテゴライズするにもはみ出すものが多い。元々「フィルムノワール、海賊アドベンチャー、ラブ・ストーリー、ミュージカル」のジャンルが異なる4作品の連作のうちのひとつとして作られたようで、デュエルはフィルムノワールに当たる作品ということらしい。全体的にフィルムノワール的な雰囲気はあるけれど、後半手をかざして鏡を割るサイコキネシス的な場面があったり、映画を象徴すら二人の女性が超越した存在であるのが明るみになってくると、オカルティックなダークファンタジーの様相も表してくる。ホラーでもないけれど、そういった雰囲気もある。1976年という時代を考えると、ぱっと思いつくところでエクソシストが1973年でこの作品の前に当たるが、サスペリアが翌年の1977年、シャイニングが1980年とこの作品よりも後の時代となる。スターウォーズも翌年の1977年だ。サイコキネシスな超常現象作品表現が当時どれだけ広まっていたのかはわからないけれど、もう少し後の時代に作られていたら、幾らかもっと具体的な表現になっていたかも知れない。見えない力の表現が、そのまま見えない所で働いていて、それが月が満ちていく表現だったり、暗闇だったりと超常的な力の作用が具現化される前の時代の表現のようにも感じられて、それが分かりにくさにも繋がっているようにも思える。
しかしながら、それがこの映画の魅力を損ねるかと言えば、それはまた別でオカルティックな内容以上にポストモダンな1970年代のフランス映画の一作として捉える方が受け取り易いと思う。単純に映画の中に映し出される俳優陣や意匠、インテリア、街並みに浸るだけでも充分に楽しめる。個人的にはビュル・オジェ演じる太陽の女神ヴィヴァの魅力に魅了された(ウディ・アレンのアニー・ホールでのダイアン・キートンを少し彷彿とした。こちらは1977年の作品)。

ジュリエット・ベルト演じる月の女神レニの退廃的な雰囲気も素晴らしい。ヴィヴァの高いヒールの靴にパンツルックでステッキを持つ姿が特に印象に残るが、場面ごとに二人の女神がころころと仕立ての良い衣装を変えて登場する様は映画に彩りを添える。何が起こるか分からない物語に常に注意を払いながらも、それ以上に惹きつけられるのは二人の振る舞いと、衣装だったりする。ヴィヴァとレニの目が表情以上に物語る様は、今の映画ではあまり観られない表現かもしれない。少しばかり濃いめのアイラインが大きな瞳を誇張しているようにも感じられる。

カジノのいかがわしさや、当時の高級感を感じさせるベロアの内調など70年代らしい色調にも独特の妖艶な雰囲気を感じさせられる。しかしながら映し出されるインテリアは、現代から見ると胸焼けしそうな重厚さがあったりするものだが、すんなりと軽やかに魅せるものでもあったように感じた。
ポストモダンという点ではやはり音楽の使い方が一番印象に残る。同録で撮影されたのがよく分かるのが、色々な場面でピアニストが演者のバックで演奏をしている所である。明らかに台詞や場面で待ちの姿勢を示していて、ある台詞が口から出るタイミングでピアノが演奏される。滑稽さははらみながらも、後付けではなくその場でピアニストも一緒に演じている様はこの映画の独特な雰囲気に一興を差し込んでいる。

ヨーロッパ的なデカダンスと、擬似的な神話。オカルティックなものがジャンル映画としてカテゴライズされる前の、奇妙なバランスの中に立っている作品だと思う。カルト的な作品ではあるし、どう扱えばいいのか判断に困る映画ではあると思う。フィルムノワールというにはオカルトでSF的な要素も含む。大友克洋のようなサイコキネシス作品とも捉えられるし、そういった表現が確立する前の端境期の作品とも取れる。そんな過渡期に作られた作品だからこそ、逆に先入観を払って今観る映画なのかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?