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『死神の精度/伊坂幸太郎』 普通の物語に出てくる事件の数々だが、死神設定で伊坂ワールド😊

この本も再読だが、内容をほとんど忘れている。
備忘も兼ね、物書き目線で改めて読んでみた。

7日間の調査の後に対象者の死を見定める、クールで少しずれている死神を取り巻く6つの人生の物語。2004年、第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞
2006年、第134回直木三十五賞候補、2006年本屋大賞第3位
以下の6編から成る短編集である。
死神の精度(『オール讀物』2003年12月号)
死神と藤田(『オール讀物』2004年4月号)
吹雪に死神(『オール讀物』2004年8月号)
恋愛で死神(『オール讀物』2004年11月号)
旅路を死神(『別冊文藝春秋』第255号・2005年1月)
死神対老女(『オール讀物』2005年4月号)

Wikipedia


備忘

主人公の設定を覚えておけば、この物語は忘れないはず。

千葉
本作の主人公である死神

死神の「調査部」の一員として人間の世界に派遣され、調査対象である人間を一週間にわたり観察し、死を見定める。対象者を「可」(映画では「実行」)とした場合は八日目に死亡し、「見送り」とした場合は死なずに天寿を全うする事となる。「可」にするか「見送り」にするかどうかについて明確な基準はなく、裁定は死神の裁量に全て任される。殆どの調査対象は「可」となり、「見送り」になる事は極めて稀である。また、調査期間の間に対象が死亡する事はない
自らが行っている死の身定めを仕事と割り切っており、人間の死にも全く興味がなく、「人の死に意味はなく価値もない」と考えている。
彼が仕事のために人間界へ赴くと必ず雨が降っており、青空を見た事がない。死神が素手で人間に触れると、人間は気絶し寿命も一年間縮まってしまう。
死神が人間の世界に派遣される際、外見や年齢は「情報部」が事前に導き出した、もっとも仕事をしやすいものになる。容姿が仕事のたびに変わるのに対して名前は毎回変化せず、死神個々の名前は必ず、「千葉」や「秋田」など市町村と同じ名前になっている。
ジャンルを問わずミュージックをこよなく愛しており、仕事の合間に時間が出来ればCDショップに行き、CDを貪り聴く。その偏愛ぶりは「人間の死に興味はないが、人間が死に絶えミュージックが無くなることは辛い」と言わせるほどである。これは死神に共通して言える事で、CDショップや音楽が流れる喫茶店に行けば必ずといっていいほど他の死神と出会う事が出来る。音楽を偏狂なまでに愛しているのに対し、渋滞は人間が作ったものの中で一番醜いものだと考えている。
人間の世界の価値観や言葉などをあまりよく理解しておらず、「雪男」と「雨男」を同じようなものだと思ったり、人間とは違う発言をしたりするため、人間と会話する際に微妙に会話がかみ合わないことが多々ある。
同著者の作品『魔王』にも登場している。

Wikipedia

死神の精度

コールセンター担当女子社員とクレーマーの話と見せつつ、最後に大逆転。
死神の判断(「可」にするか「見送り」)は、気儘である。

死神と藤田

対象者は暴力団幹部の1人。
気質かたぎうとんじられ消される運命だが、死神の調査期間に死ぬことはない。

吹雪に死神

作者は「吹雪の中の洋館密室殺人」を書きたかっただけなのかも知れない。
死神(超能力者)がいるのでミステリーではなく、謎解きも容易。

恋愛で死神

これは切ない物語。『2度塗り』が意味深く、最後の2度塗りは書いていない。
ヒロインになる予定の女性が、そうなる前に悲しみが訪れる。

旅路を死神

殺人犯と死神のロードサイドムービー。
この短編だけは尺を長く感じ、書き方に饒舌さが感じられた。

死神対老女

70才の美容師は他の短編主人公と関係している。
他の短編から数十年後のお話。

ネタバレありの感想

どの物語も行く末を匂わせつつ、最後まで書かれていない。
起承転+」で終わる物語。
死神「千葉」が調査対象人物を中心に人間社会の一片を語る、一人称の物語。
 
・コールセンターの女子社員は、歌手になったのか?
・暴力団幹部は助からない状況で、調査期間をどう生き延びたのか?
・復讐とはいえ、洋館で殺人を起こした人たちの行方は?
・ヒロインになれなかった彼女は、どうなるのか?
・殺人犯との旅行だけは、結論が書かれている。
・初めて死神に青空を見せた美容師老女の行末は?
 
作者はどの物語も「」まで考えているはず。
(最後の短編で、いくつかの短編のその後が書かれてはいる)
只、それを書くと平凡なありきたりな物語となり、短編集のキレが悪くなる。

それよりも物語の流れに直接関係のない「死神千葉」から見た人間の不思議さを語らせたり、人間と食い違う会話をさせて、ユーモアを醸し出した方が小説としては面白くなる。
 
会話文の偏りや説明文の長さを意識させない文章の配分に関心し、物語の持って行き方に巧みさを感じるが、レベルの差がありすぎて物語を書く参考になるのかは分からない。
 
最近『逆ソクラテス』の文庫化広告が新聞に大きく載っていた。
短編集の主人公が全部小学生だが、大人が読む価値があるらしい。
Kindleのwishlistにとりあえず追加した。


MOH

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