『死神の精度/伊坂幸太郎』 普通の物語に出てくる事件の数々だが、死神設定で伊坂ワールド😊
この本も再読だが、内容をほとんど忘れている。
備忘も兼ね、物書き目線で改めて読んでみた。
備忘
主人公の設定を覚えておけば、この物語は忘れないはず。
死神の精度
コールセンター担当女子社員とクレーマーの話と見せつつ、最後に大逆転。
死神の判断(「可」にするか「見送り」)は、気儘である。
死神と藤田
対象者は暴力団幹部の1人。
昔気質が疎んじられ消される運命だが、死神の調査期間に死ぬことはない。
吹雪に死神
作者は「吹雪の中の洋館密室殺人」を書きたかっただけなのかも知れない。
死神(超能力者)がいるのでミステリーではなく、謎解きも容易。
恋愛で死神
これは切ない物語。『2度塗り』が意味深く、最後の2度塗りは書いていない。
ヒロインになる予定の女性が、そうなる前に悲しみが訪れる。
旅路を死神
殺人犯と死神のロードサイドムービー。
この短編だけは尺を長く感じ、書き方に饒舌さが感じられた。
死神対老女
70才の美容師は他の短編主人公と関係している。
他の短編から数十年後のお話。
ネタバレありの感想
どの物語も行く末を匂わせつつ、最後まで書かれていない。
「起承転+」で終わる物語。
死神「千葉」が調査対象人物を中心に人間社会の一片を語る、一人称の物語。
・コールセンターの女子社員は、歌手になったのか?
・暴力団幹部は助からない状況で、調査期間をどう生き延びたのか?
・復讐とはいえ、洋館で殺人を起こした人たちの行方は?
・ヒロインになれなかった彼女は、どうなるのか?
・殺人犯との旅行だけは、結論が書かれている。
・初めて死神に青空を見せた美容師老女の行末は?
作者はどの物語も「結」まで考えているはず。
(最後の短編で、いくつかの短編のその後が書かれてはいる)
只、それを書くと平凡なありきたりな物語となり、短編集のキレが悪くなる。
それよりも物語の流れに直接関係のない「死神千葉」から見た人間の不思議さを語らせたり、人間と食い違う会話をさせて、ユーモアを醸し出した方が小説としては面白くなる。
会話文の偏りや説明文の長さを意識させない文章の配分に関心し、物語の持って行き方に巧みさを感じるが、レベルの差がありすぎて物語を書く参考になるのかは分からない。
最近『逆ソクラテス』の文庫化広告が新聞に大きく載っていた。
短編集の主人公が全部小学生だが、大人が読む価値があるらしい。
Kindleのwishlistにとりあえず追加した。
MOH