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『魔王/伊坂幸太郎』 日本人の流されやすさと、政治への無関心さをシニカルに書き表した小説
「また、伊坂?」と思われる方は、スルーで😅
まったく読んだ記憶がなく、新鮮な気持ちで読み直した。
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今年に入り、新装版となり表紙はライトノベル風。
Amazonで自分が注文した本をクリックしても、リンク先は出てこない。
魔王とは何者なのか?魔王はどこにいるのか?
世の中の流れに立ち向かおうとした兄弟の物語。
会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、1人の男に近づいていった。5年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。
備忘
2004年12月刊行『エソラ vol.1』(講談社)に掲載された「魔王」と、2005年7月刊行『エソラ vol.2』に掲載された「呼吸」を収録した単行本が、2005年10月20日に講談社より発売された。2008年9月12日には、講談社文庫が発売された。
2023年1月17日、講談社文庫の新装版が発売された。カバーのメインビジュアルは一般公募を行い、蓮村のイラストが選ばれた。
自分自身の作品への満足度と読んだ人たちの反応の差に思い悩んでいた伊坂が、「深く考えても仕方ないから、自分の好きなように書いてしまおう」と執筆したのが中編「魔王」であり、これまでの作品で伊坂が読者に好意的に受け止められていると感じていた「伏線を生かした結末」「意外性」「爽快感」を、本作では意図的に削っている。
魔王
舞台は東京。
物語は主人公安藤の一人称で進む。彼は超能力(一時的に自分の思った通りのことを近くの人に話させる)を身に付ける。
物語の終盤、安藤のそばには『死神の精度』の主人公千葉が寄り添っている。
呼吸
舞台は仙台に移り、魔王から5年後の物語。
安藤の弟、安藤潤也の妻詩織(魔王では恋人)の一人称で語られる。
安藤潤也は10個までの選択肢から必ず当たり当てる能力を身につける。
(ジャンケンは絶対勝つ、10頭立て競馬は1位を必ず当てる)
時々、亡くなった兄が憑依して無意識に語る。
ネタバレありの感想
この物語には伊坂幸太郎が得意とする、伏線とその回収が無い。
話が終盤に近づくにつれて徐々に増してくる、スピード感も感じられない。
物語の関連性では備忘に書いたとおり、死神千葉が出てくる。このあとに発刊された「モダンタイムス」は「呼吸」から50年後の世界で安藤潤也・詩織夫婦が登場するらしい。
2005年に発刊された小説だが、登場人物が語る日本の政治と世相の、どうしようもない感じは2023年現在とよく似ている。
登場人物たちが、オフィスや居酒屋で日本の政治の話をするシーンの多いところが、彼の小説としては異色。物語の中でファシズム政党が与党になり憲法9条改訂の国民投票をするところで物語は終わる。
あとがきで『この物語の中には、ファイズムや憲法、国民投票などが出てきますが、それらはテーマではなく、そういったことに関する特定のメッセージも含んでいません』と、わざわざ断り書きをしており、それは理解できるが、その物語の前提となる「日本政治のだらしなさ」「国民の政治への無関心さ」への批判は読み取ることが出来る。
世の中が二極分化しながら、その場の雰囲気で一気にファシズムへ向かう様子はありそうな話。
太平洋戦争がそうであり、以降、国民の政治に対する意識が高まったとは思えない。
ファシズム政党党首(「呼吸」では首相)を含め、その思想のコンセプトとして宮沢賢治の詩集を語らせる意味が、私にはよく分からなかった。
(引用される語句の意味は分かるが「なぜ宮沢賢治?」)
次は
伊坂幸太郎氏本来の面白みが少ない小説だが、登場人物が続く「モダンタイムス」は、購入済みなので読み始めている。
購入してから随分経ち、相変わらず内容を忘れている。
「魔王」が、思想的内容も含んでいる小説なので、物語以外本人の声も知りたくなる。日頃は読まないエッセイ集も購入した。
MOH