『魔王/伊坂幸太郎』 日本人の流されやすさと、政治への無関心さをシニカルに書き表した小説
「また、伊坂?」と思われる方は、スルーで😅
まったく読んだ記憶がなく、新鮮な気持ちで読み直した。
今年に入り、新装版となり表紙はライトノベル風。
Amazonで自分が注文した本をクリックしても、リンク先は出てこない。
備忘
魔王
舞台は東京。
物語は主人公安藤の一人称で進む。彼は超能力(一時的に自分の思った通りのことを近くの人に話させる)を身に付ける。
物語の終盤、安藤のそばには『死神の精度』の主人公千葉が寄り添っている。
呼吸
舞台は仙台に移り、魔王から5年後の物語。
安藤の弟、安藤潤也の妻詩織(魔王では恋人)の一人称で語られる。
安藤潤也は10個までの選択肢から必ず当たり当てる能力を身につける。
(ジャンケンは絶対勝つ、10頭立て競馬は1位を必ず当てる)
時々、亡くなった兄が憑依して無意識に語る。
ネタバレありの感想
この物語には伊坂幸太郎が得意とする、伏線とその回収が無い。
話が終盤に近づくにつれて徐々に増してくる、スピード感も感じられない。
物語の関連性では備忘に書いたとおり、死神千葉が出てくる。このあとに発刊された「モダンタイムス」は「呼吸」から50年後の世界で安藤潤也・詩織夫婦が登場するらしい。
2005年に発刊された小説だが、登場人物が語る日本の政治と世相の、どうしようもない感じは2023年現在とよく似ている。
登場人物たちが、オフィスや居酒屋で日本の政治の話をするシーンの多いところが、彼の小説としては異色。物語の中でファシズム政党が与党になり憲法9条改訂の国民投票をするところで物語は終わる。
あとがきで『この物語の中には、ファイズムや憲法、国民投票などが出てきますが、それらはテーマではなく、そういったことに関する特定のメッセージも含んでいません』と、わざわざ断り書きをしており、それは理解できるが、その物語の前提となる「日本政治のだらしなさ」「国民の政治への無関心さ」への批判は読み取ることが出来る。
世の中が二極分化しながら、その場の雰囲気で一気にファシズムへ向かう様子はありそうな話。
太平洋戦争がそうであり、以降、国民の政治に対する意識が高まったとは思えない。
ファシズム政党党首(「呼吸」では首相)を含め、その思想のコンセプトとして宮沢賢治の詩集を語らせる意味が、私にはよく分からなかった。
(引用される語句の意味は分かるが「なぜ宮沢賢治?」)
次は
伊坂幸太郎氏本来の面白みが少ない小説だが、登場人物が続く「モダンタイムス」は、購入済みなので読み始めている。
購入してから随分経ち、相変わらず内容を忘れている。
「魔王」が、思想的内容も含んでいる小説なので、物語以外本人の声も知りたくなる。日頃は読まないエッセイ集も購入した。
MOH