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【読聴感想】直木賞受賞作「八月の御所グラウンド」万城目 学(まきめ まなぶ) (著)

本作品、直木賞受賞後「オール読物」で、初めの方を読んで気になっていたが、ようやく読むこと(聴くこと)ができた。

KindleとAudibleとで、時と場所により切り替えながら読了(聴了?)。Kindleは端末が変わっても(Oasis→iPhoneとか)データ同期で続きを読めるが、KindleとAudibleとではそこまで便利にできていない。読んだところまでAudibleをスライドさせたり、聴いたところまでKindleをめくらなければならない。

受賞作「八月の御所グラウンド」の他、短編「十二月の都大路上下ル」が掲載されている。


以下の感想文、少しネタバレがある。
(ミステリーではないので、ネタバレが読書欲を奪うことはないと思うけど)

十二月の都大路上下ル

一読者として「書き方が気になる」ところを指摘しておきたい。

 雪が降っている。
 どんよりと濁った空を見上げ、頰をごしごしとさすった。
 鼻筋に落ちた雪片がしんとした冷たさを肌に伝えていく。
 耳の先に触れてみるが、こちらは寒さのせいであまり感覚がない。
 宙に向かって、白い息を吐き出し、その場で十回足踏みした。

十二月の都大路上下ル

文学的にはとても勉強になり、お手本的な表現。
でも、このシーンでは高校1年で急遽アンカーとなった「サカトゥー」が、タスキを待っている一人称のつぶやきで、コースを間違えそうになったり気配りが足りないと自省する主人公なので、この一行の表現に違和感を感じた。
鼻に付いた粉雪が冷たい」みたいな表現が似合う主人公だと思うが、考え過ぎなのかもしれない。 
 
この物語も著者のベストセラー「鴨川ホルモー」のような現実的ではないモノが出て来て、サカトゥーとアンカーを競う走者だけに見えている。
 
全体的には爽やかな青春スポーツ物語。
著者は2017年から4年間(地方と本選)計8回、高校女子駅伝を取材したとのことで、走る臨場感が伝わってくる。


八月の御所グラウンド

読了後、タイトル名で検索すると『成瀬は天下を取りにいく』の著者、宮島未奈さんの感想が目に留まる。
ネタバレせずに面白さを伝える感想文は巧み。

謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163917320

アイデアは2014年に文藝春秋の方と浅草で飲んだのがキッカケ。
そこから練り上げて行ったらしい。
 
この物語も現実には居ない人たちが登場して活躍する。
ネタバレは早いが、それに対応する主人公や周りの人たちの描写が上手く、オチが分かっていても興味深く読み進められる。
少しだらしない登場人物と京都という場所、それに歴史を上手くミックスさせて読者を飽きさせない物語。
最後に戦争の犠牲も加えているところが読者を惹きつけところでもあると思う。
 
御所Gで朝早く野球大会をやる設定は、著者の経験(入学してすぐのクラス対抗)によるものらしい。

読書と聴書

この本、6割をKindle、3割をAudibleで読んだ(聴いた)。

Audibleでスジは追えるが、文字を読んだ時のような景色が頭に浮かばない。
自分が面白いと思う本は読んでいて、そのシーンが頭に浮かび登場人物が動き回っているが、Audibleを聴いて物語は進むが、場面場面が思い浮かばない。
慣れの問題かもしれないが、漢字・平仮名・カタカナが合わさった文字が目に入りそれで情景が思い浮かぶような気がするのだが、どうだろう。
今のところAudibleのように耳から入ってくる情報では情景が浮かびにくい。
慣れたら耳から聞いてもシーンが思い浮かぶのだろうか。

現代ファンタジーと歴史

直木賞受賞作品であるが、第2次世界大戦で亡くなった名投手が登場するファンタジー。 それを現実に感じさせるために京都の歴史が役立っている。

SF小説の拙作にも京都で新撰組が登場する。
「安定を重視して就職したつもりの会社が…ブラックな地球防衛隊?だった件」(074.出社4日目 亜香里の初ミッション その1:2020年3月初出)
https://ncode.syosetu.com/n7159fw/74/
小説の中に知られた歴史を持ち込むと物語に厚みが増す(ような気がする)。




MOH



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