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「イスラエル戦争の嘘」手嶋龍一 (著), 佐藤優 (著)/【結論】解決策はない

前回の対談と同じ構成。

佐藤優氏はイスラエルに古くからの知人がおられるようで、ネタニヤフ首相の行動を批判することはあってもイスラエル国の行動原理を批評することはない。
2024年1月の対談なので推測がその後(?)の記述もある。

「私自身は病院を隠れ蓑にしてハマスがテロ行為を行っているという蓋然性は極めて高いと考えています。」
「もしアル・シファ病院の地下に軍事施設が何もなく、武器も出てこなかったなら、私は情報を扱う者として、以後は少なくともパレスチナ問題に関しては発言権を失うという覚悟で臨んでいます。」

佐藤優氏

実際には、どうだったか?

両者が正反対の主張をし、第三者の見聞がないため本当のところは分からない。
この攻撃により医師を含む多くの民間人が亡くなった事実だけが残る。

本の内容

内容説明
パレスチナのガザ地区を支配する武装組織ハマスが、イスラエルに突如牙をむいた。イスラエル軍も圧倒的な戦力で報復し、いまなお死傷者を出し続けている。イスラエルはなぜ「病院」まで標的にするのか。“インテリジェンスの大家”が、ハマスとイスラエルの内在的論理に分け入り、イスラエル戦争の実相を解き明かす。ガザから上がった戦火は、米軍の爆撃で中東全域に拡がりつつある。第三次世界大戦の芽を孕みながら止まらない。

目次
第1章 イスラエルvs.ハマス
第2章 ハマスの内在的論理とパレスチナ
第3章 ネタニヤフ首相とイスラエルの内在的論理
第4章 パレスチナとイスラエル その悲痛な歴史
第5章 近づく第三次世界大戦の足音
第6章 日本には戦争を止める力がある

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784121508157


雑感

気掛かりな「イスラエルの軍事侵攻がいつ終わるのか?」の記述はない。
両国が戦いを続ける意図を探り、その元となった歴史的な説明が続く。
その説明は「出エジプト」までは遡らず、オスマン帝国に少し触れ20世紀欧州列強の植民地政策に伴う中東への進出や、イギリスの3枚舌外交が語られる。

イスラエルの軍事侵攻について、お二方の意見が語られるのは第1章と6章。
その中で得意とする「インテリジェンス(この本では高い情報を得るための活動や組織を示す)」の重要さ、一国のトップがそれを重用しなければならない理由について経験を開示しながら説明している。

話の中身は面白いが、インテリジェンスが重要でそれら情報機関に所属している(所属していた)人たちがそんなに優秀であれば、政治判断で間違いを犯すリスクは少ないはず。

現実はどうか?

この本に出てくるネタニヤフ首相は、イスラエル国防軍の「サイェレット・マトカル(参謀本部諜報局のコマンド部隊)」所属がキャリアのスタート。
除隊後はハーバード大学とMITで政治学を学び、ボストン・コンサルティング・グループで経営コンサルタントとして勤務したあと、イスラエルに帰国し政界に入っている。
B.C.G.でどんなコンサルをやっていたのかが気になる。
ライバル企業情報の諜報の仕方をアドバイスしていたのだろうか。

ウラジーミル・プーチン大統領に至っては、KGBの対外情報部員として長く勤務したことは有名。
元インテリジェンスの二人が、終わるあてのない軍事侵攻を続け、多くの民間人が犠牲になっている。

このほか二人に共通するのは長期政権
ネタニヤフ首相がトータル15年首相をやっているのは知らなかった。
プーチン大統領に至っては実際どれくらいトップをやっているのか分からないくらい長い。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/russia/cv/r_putin.html

第5章に書かれた「第三次世界大戦の足音」は、核保有国イスラエルが戦術核を使用すれば、一気に核のボタンを押す敷居が下がり、北朝鮮を含め多くの小規模な核保有国が同じことをするのではないか?というお話。

あり得ない話ではない。


最後に

対談を少し引用したい。

この戦いの行方

イスラエルの論理を端的に表した言葉があります。「全世界から同情されながら滅亡するよりも、全世界を敵に回してでも生き残る」。これがイスラエルの国是と言っていいでしょう。

もちろん人間の命は何よりも重要だ。しかし、ユダヤ人をユダヤ人であるという属性のみを理由に地上から抹殺するという思想を持ち、それを実践するハマスのような組織とイスラエルが平和共存することは原理的に不可能なのである。


武器輸出国 日本の行方

佐藤  ガザ情勢が緊迫化するなか、日本政府は「防衛装備移転三原則」の運用指針を改正しました。 12月22日のことです。

手嶋  「防衛装備移転三原則」とは 2014年に安倍内閣がそれまでの「武器輸出三原則」のルールを大幅に変更した新ルールです。平和貢献、国際協力、日本の安全保障に役立つ場合に限って、防衛装備品を輸出できるとした重要なルールの改正でした。従来は、少なくとも殺傷能力の高い完成品の輸出は認められていなかった。それが今回の改定でライセンス生産によって日本国内で製造する武器は、ライセンスの供与国であれば完成品を輸出できると変更になりました。
(中略)
イスラエルはいまハマスとの戦闘で弾切れを起こしている。イスラエルの事実上の同盟国であるアメリカは、武器をどんどん輸出しているため、米国内の備蓄が底を突きかけている。アメリカ政府は慌てて「 PAC3」のライセンス生産をしている日本にプレッシャーをかけて急遽ルールを改定させ、完成品をアメリカに輸出させるようにしたのだと思います。
(中略)
日本は直接紛争地域に武器の完成品は送ってはいません。しかしながら、「玉突き」で間接的に武器を供給する。そんな時代が到来しつつあるのですね。

一党の議席が過半数を越える長期政権が続くこの国は、国民が知らないうちに、世界の争いに取り込まれているのかも知れない。



MOH



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