マッチングアプリで実際に会ってみたpart3
前回までのあらすじ
初めてリアルで女にあった男。
出会ってから40分間素顔を拝めなかったが、
食事が来ていざ食べようと女はついにマスクをとった。
その素顔やいかに。
そして2人の経緯は、、、
皐月の東京で繰り広げられる男の恋愛模様、ここに完結。
ついに見れた、女の素顔
男は少し緊張していた。
これまでいろいろあったが、やっと女の顔が拝める。
あとちょっとだけ首をひねれば、今まさに料理を食べようとしている女の顔が見れる。
ここに至るまで感情の起伏は激しかった。
男は若干、辟易としていた。
ここまで来たらもうどんな結果であったとしても、
今日という日を楽しもうと決めていた。
思えばアプリ上でも確信はなかったのだ。
顔が少し見える程度の写真一枚しかなかったのだ。
話してみたらウマがあった、電話してみたら声が可愛かった。
今思えば一方的で無責任な男の期待、妄想が膨らんだ結果だった。
もうここまで来たのだ。
あとは神のみぞ知るのだ。
この男女の行く末は。
そう、心に決めた。
意を決して男は振り向いた。
正直に言おう。下の中。
あえて喩えよう。フワちゃんだった。
それ以上でもそれ以下でもない。
男はすべてを悟った。そして懺悔した。
これは自業自得だった。
長らく恋愛という舞台から遠ざかっていた男の儚い夢物語だった。
考えてみれば、男だって褒められた容姿ではない。
おそらく中の下、よくて中の中だった。
至極当然かもしれない。
これは男の持論だが、
世の中は顔と金である。
悲しいがそれがまず初めにくる。
ヒトのDNA、生殖本能からしてこれは明白な事実である。
誰だって楽をしたいし、いい容姿に憧れる。
子孫繁栄というヒトの最たる目的を考えればこれは不動である。
男はそういう考え方なのだ。
よく、「ヒトは見た目じゃない、お金でもない」というようなことを耳にするが、綺麗事である。と。
ヒトは他人を許容できる最低限のラインがあって、
そこを満たすには容姿か金でしか埋められない。
もちろん個人のボーダーはヒトそれぞれではあるが。
今回は男の琴線に触れることはなかった。
男は、女に容姿を求めるタイプだった。
ただそれだけのことである。
決して女は悪くない。
性格は最高だった。おそらく人によっては容姿も最高なはずだ。
ただそれが今回の男ではなかった。
これを見て「ひねくれている」、「間違っている」そう思う方もいるだろう。
それでいい。
これは男の価値観なのである。
もちろんこの先変わることもあるだろう。
ただ、今の一点に関していえば、ここを曲げることはできなかった。
それから後のことはあまりよく覚えていない。
いや、一つだけ覚えていることがある。
芋ソーダの山椒いり、はとんでもなく美味い。
そしておそらくスモーキーなウイスキーにも合うはずだ。
この後男は芋ソーダ山椒いりを、おそらく5杯ほど飲んだ。
もちろん仕事で培ったトーク力で話もした。
決して雰囲気は悪くなかった。
店員に「今日はデートですか?」なんて聞かれたりもした。
どちらかというと、男はその店員とデートをしたかったが。
結論のない話が続く。
上司がどうだ、客がどうだ。
それなりに楽しかった。
趣味も一致していた。
男は都内のおすすめの居酒屋を数件教えた。
ただ、決して「今度行きましょう」とは言わなかった。
そうこうしているうちにラストオーダーの時間だ。
男と女は最後に同じものを頼んだ。意図せずだ。
ハイボールの山椒いり。
これもとんでもなく美味かった。
男の読みは当たった。
最後の酒を煽りながら、そもそもなぜアプリを始めたのか、という今更な話題になった。
当然、相手を求めてのことだった。
しかしその先は双方言及しなかった。
女にとっても男はハズレだったのである。
ついに時間は終わった。
店員がお会計を持って来た。
レシートには「9867円」
女はすかさず財布から1万円札を取り出した。
男はそれを制し、カードを店員に手渡した。
男にとって、それはせめてもの罪滅ぼしだった。
割り勘にでもされたら男のメンタルが持たなかった。
女も女で、まるで借りを作りたくないようだった。
それを察した男は2000円だけもらった。
これにも相当な覚悟があったが、
女のことを考えるとそうするのがおそらく着地点だった。
荷物をまとめ、2人は外に出る。
女は終バスがあると言って足早に去っていった。
男も本来であれば送るべきところだったが、
既に2人にその余裕はなかった。
女を見送る。
徐々に小さくなっていく背中。
女は振り返ることはなかった。
それでいい。
おおよそ女の姿が見えなくなってから、男も駅に向かった。
時刻は23時30分。
いろいろな感情を抱えたまま男は歩き出す。
ふと頬に冷たい感触。
浴蘭月の空は泣いていた。
そして男の心も泣いていた。
駅へと向かう。足取りは重かった。
ふと、スマホの通知がなる。
女からのラインか?
違った。いいねの通知だった。
写真は10枚。
そのうち顔がわかるものは3枚。
プロフィールも確認する。共通点は25個。
いつもより、いいねに力が入った。
そして男は再び駅へと歩き出した。