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インド総選挙結果とインド経済の解説


 2024年6月4日に、インドの総選挙の結果が判明しました。与党のインド人民党の圧勝が予想されていましたが、苦戦しました。与党のインド人民党は単独で過半数を獲得できませんでした。

総選挙結果と株価の動き

 連立政権では過半数を獲得し、モディ首相は勝利宣言と続投する意思を示しましたが、マーケットはこの結果に落胆しました。インドの主要な株価指数であるセンセックス指数は一時5%以上下落しました。

選挙結果の詳細

 選挙結果を振り返ると、モディ首相を引きいるインド人民党の獲得議席は240で全543議席の過半数割れとなりました。与党連合国民民主同盟(NDA)は293議席を獲得しました。モディ首相は勝利宣言し、続ける意向を表明しましたが、事前の予想では、インド人民党が単独で350から400議席を獲得するという見立ても多かった中で、予想外の結果になったと言えます。

野党の動きと地域の影響

 一方、モディおろしで20ほどの野党が結した野党連合インド国家開発包括同盟(INDIA)は229議席を獲得しました。格差拡大や生活費高騰などを訴えて支持を獲得しました。今回、与党インド人民党はウッタル・プラデーシュ州を始めとした4つの州で64議席を失ったことが大きな敗因となっています。

ウッタル・プラデーシュ州の影響

 ウッタル・プラデーシュ州というのはインド北部に位置し、人口2億4,000万人とインド最大の人口を有する州です。同州の住民の4分の3がヒンドゥー教徒で、次に多い宗教がイスラム教徒だとされています。イスラム教徒を冷遇し、宗教対立を深めるモディ政権のやり方に、ヒンドゥー教徒も不満を持っている可能性が指摘されています。ただ、この辺りはメディアによっても伝え方が異なっているので、全体像を把握するのが非常に難しい面があります。

GDP成長率と実態の乖離

 今回の選挙の結果が事前の予想と大きく異なるものになった要因として、インド経済の実態を捉えることが非常に難しいということが関係しているという見方もあります。インドは近年、新興国の中でも非常に高いGDP成長率を実現してきています。新型コロナパンデミックがあった2020年はマイナスの5.7%になりましたが、2021年はプラスの9.6%、2022年は+7.0%、2023年は+7.8%、2024年も+6.8%で成長することが予想されています。
 こうした高い経済成長を実現していることでモディ政権の支持率が大きく下がることはないだろうと、そうした見方が多くなっていましたが、インドの場合、GDPの成長率がどこまでインド経済全体を表しているのか、怪しいと見る向きがあります

非公式部門の存在

 例えば、建設現場での日雇い労働、出店いわゆる露店商と言われる仕事など、小規模な経済活動についてはどこにも届けを出していないし、行政の指導も受けていない。つまり、税金も納めていなければ、最低賃金など何の法律にも守られていない劣悪な環境で仕事をしている人たちがいます。統計においては非公式部門とされていますが、この非公式部門は把握しようがないため、GDPなどに反映されていないと言われています。

非公式部門の影響

 そして、インドの労働人口の9割近くの人たちがこの非公式部門に従事しているという説もあります。つまり、大多数の人たちの経済的に置かれている状況というのがGDPなどに全く反映されていないということです。GDPの成長率は伸びていますが、実際の大多数の国民の生活は厳しい。統計に全く表れていない最低賃金以下で働いている人たちがたくさんいる。こうした統計データが実態を反映していないことが選挙結果のサプライズにつながった可能性があります。

統計データの問題点

 統計データが当てにならないという問題は、私のように経済を分析する立場からすると非常に厄介で、悩ましい問題です。中国の話などでもこの問題はよく指摘されますが、経済の全体像を見ていく上では数値はとても重要で、統計局が出した公式データというのは見ていかないといけない、でもそれだけでは当てにならない。では何で経済動向を語ればいいのか。他の国においても、程度の差はあるものの、統計だけを信じていてはいけないということです。

インド社会の複雑さ

 インドの場合、全体像を把握するのが極めて困難な国であるということを、改めて今回の結果で思い知らされました。なぜ今回、与党が議席を落としたのかということに関して、ヒンドゥー教優遇の政策への不満など言われていますが、ウッタル・プラデーシュ州だけで2億4,000万人も人口がいて、75もの県があります。インド国内で地域間の格差も大きく、宗教や民族も多数あり、言語は主要なものだけで10以上あると言われています。全体像を把握するのは極めて難しいですし、全体がまとまるのも非常に難しいと言えます。
 2014年から首相を務めるモディ氏は、今回の選挙での勝利を歴史的異業と言っていましたが、このインドで長期間にわたって政権を維持しているということはすでに十分すごいことなのかもしれません。

インドの政治と経済の今後の見通し

 そういう意味では、このインドという国が今後もどんどん成長し、先進国の仲間入りを果たすというのは、多くの人が思っているより難しいかもしれません。
 今後の見通しですが、今回の選挙結果を受けて、モディ政権は雇用の拡大や地域間格差の是正などにより重点が置かれる政策を行っていく可能性がありますが、インフラ投資などが政府の優先課題として進められていくという状況は大きく変わらないと見られます。
 今回の選挙でインド経済の成長見通しが大きく変わってしまうとか、そういうことになる可能性はそんなに高くはないでしょう。ただ、一部優遇されてきた大企業との関係にますます批判が高まる可能性もあり、海外投資家もインドへの投資を見直すきっかけになるかもしれません。株式市場のボラティリティはしばらく高い状況が続くかもしれません。

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