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BRICS加盟を目指すタイの現状とその影響


タイのBRICS加盟申請とその影響

 タイが「BRICS(ブリックス)」に加盟申請を行ったというニュースについて、その影響にをまとめてたいと思います。まず、率直な印象としては、タイが「BRICS(ブリックス)」に加盟することによる影響は限定的であると考えています。
 東南アジアでは、以前にインドネシアが「BRICS(ブリックス)」に加盟するとの見方がありましたが、実現しませんでした。そのため、タイの加盟が実現すれば東南アジアで初めてのこととなります。そのため、全くインパクトがないわけではありません。しかし、タイという国は近年、中国との関係を重視してきた国であり、貿易などでも中国との取引が多く、中国との結びつきが強い国です。そのため、「BRICS(ブリックス)」に参加するというニュースも、中国に従って動いていると見ることができます。

タイの政治と経済の現状

 タイという国は政治が不安定であり、経済も低迷しています。そのため、タイが「BRICS(ブリックス)」に加盟するというニュースが他の国々に与えるインパクトは限定的であると考えられます。
 
タイの経済について、日本でも自動車などの製造業が強い国というイメージがありますが、最近は特に2014年に起こったクーデター以降、軍出身のプラユット首相が中国よりの政策を進めてきています。その結果、中国からの投資を積極的に受け入れ、中国経済の影響を大きく受ける経済構造になっています。

タイと中国の経済関係

 トランプ政権以降、アメリカは中国の製品に関税をかけていますが、その関税を回避するために中国企業は海外での生産を増やしてきています。その中でも、メキシコやタイはその一つであり、中国の製造業者が中国で生産したものをタイに輸出し、タイでわずかな加工を施した後、それを世界に輸出するというようなことも行われています。その結果、タイの輸出相手国は1位がアメリカ、2位が中国となっています。一方、輸入の方は1位が中国、2位が日本、3位がアメリカとなっています。

タイの経済成長率の低迷とその要因

 タイの経済は近年、低成長が続いています。新型コロナのパンデミックがあった2020年のGDPの成長率はマイナス6.1%で、2021年が+1.6%、2022年が+2.5%、2023年が+1.9%となっています。これに対して、日本は2020年がマイナス4.2%、2021年が+2.7%、2022年が+1.0%、2023年が+1.9%となっており、平均すると日本の方が高い成長率になっています。

 この経済成長率が低迷している要因として、中国経済の低迷が大きく影響しています。しかし、それ以外にも少子化の問題が控えていることもタイ経済が冴えない要因とされています。アジアの多くの国もこれから日本のように少子高齢化が進んでいくと見られていますが、タイはその中でも社会変化が比較的早く訪れることが予想されています。生産年齢人口の減少が見込まれているため、中長期的に見て有望な投資先と見られないことも増えてきています。

タイの政治の混乱とその背景

 タイの政治の混乱について少しだけ説明します。タイの現在の政治について説明する上では、2001年から2006年まで続いたタクシン政権ぐらいから説明するのが適切かと思います。
 タクシン政権は農村優遇的な政策で地方の支持を集めて首相になりましたが、その後クーデターで軍が政権を掌握しました。その後、タクシン氏は海外に逃亡していましたが、その後タクシン氏の妹のインラック氏が2011年から2014年まで首相を務め、タクシン氏は国外にいながらも影響力を持ってきました。そして、このインラック政権もクーデターによって倒れました。  
 2014年のクーデターの後に発足した政権は、アメリカから離れて中国よりの政策を明確にしてきました。この辺りから、中国との結びつきを強めてきました。現在は、2023年に行われた下院選挙の後、タクシン派を中核とする連立政権となっており、首相はセター氏が務めています。この連立政権には、新軍派なども入っています。一方で、2023年の選挙では、前進党という政党が第一党に躍進しています。前進党は、軍の影響力が長く続くタイにおいて、権威主義に反対し、社会民主主義を主張して若者から支持を集めているとされています。
 あまりにも多い政党や軍の影響力もあるため、この国の政治情勢は非常に不安定と言えます。そうしたことが海外の投資家から敬遠される理由の一つになっています。

タイの家計部門の債務問題とBRICSへの影響

 「BRICS(ブリックス)」の話に戻りますが、タイの経済の特徴の一つとして、家計部門の債務が拡大しているというのがあります。2023年末時点で家計部門の債務残高は16兆3,600バーツ(日本円で約70兆円)で、GDP対比で91%にもなっています。これは、コロナ後の低金利の時代に銀行が低金利で貸しまくったことに加えて、パンデミックで生活に困った人たちがキャッシングを行うようになったことが影響していると言われています。タイ経済、厳しい状況にあるのがお分かりいただけたと思います。
 
「BRICS(ブリックス)」に関しては 11月のアメリカ大統領選挙でトランプ政権になるか、それともバイデン政権になるかでその後の行方が大きく影響することになるでしょう。そういう意味で、加盟国もそれ以外の国も今は様子というところが多いのではないでしょうか。今回のタイの「BRICS(ブリックス)」申請について、今のタイミングで国際社会に与える影響は大きくないと考えています。

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