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ビジネスと会計とIFRSの話


 YouTubeでコメントをいただきましたので解説します。「日本でもIFRS(国際会計基準)の導入が始まり数年経過したが、メリットとデメリットはあったか。」というご質問です。
 「会計」とは何かというところから始めたビギナーの方に向けた解説ですが、最後の段落「IFRS(国際会計基準)と日本基準の差について」はややマニアックです。

会計とは

 「会計」とは何かというところから簡単に解説したいと思います。
 会計とは企業のビジネスを数字に置き換えるためのツールです。企業のビジネスについて、今年は儲かったとか儲からなかったとか、在庫が膨らんだとか借入が増えたとか、言葉で言われてもピンときません。数字で示すのが最も客観的です。企業のビジネスを、会計を通じて数字に置き換えましょう。

会計基準とは

 では、どのような方法で企業のビジネスを数字に置き換えるべきでしょうか。先祖代々受け継いだ社長の椅子、この価値は5億円はくだらないだろうとか、優秀な社員が抜けたのでとりあえずマイナス1億円など、企業ごと、経営者ごとに勝手気ままに数字に置き換えて問題ないでしょうか。
 客観性が損なわれるため大問題です。そこで、数字に置き換える際のルールが必要となります。そのルールを集めたものが「会計基準」です。会計基準の枠組の中に、IFRS(国際会計基準)と日本基準があります。日本でもIFRSを適用する企業が増えてきました。

ビジネスと会計基準の関係

 ビジネスと会計基準は密接に関係しています。まずビジネスがあり、会計基準がその次にあります。ビジネスが変化すれば、当然に会計基準も変化が必要になります。
 
具体例を示します。

具体例①複雑ではない取引

<取引>
100円の商品を100円で販売した。

 企業のビジネスで、上記の取引が発生したとします。これを数字に置き換えるのは簡単です。詳細なルールは特に必要ありません。仕訳の詳細は省きますが、簿記を3日も勉強すれば数字に置き換えることができるでしょう。

具体例②複雑な取引

<取引>
100円の商品を100円で販売した。10円分のポイントを付与している。また、一ヶ月以内であれば無料で返品を受け付けている。

 ビジネスが進んでくると、上記のような複雑な取引が発生します。
 
売上は100円で計上すべきでしょうか、それともポイントを引いた90円で計上すべきでしょうか。また、販売時に売上を計上して問題ないでしょうか。無料の返品期間終了の一ヶ月後に計上すべきでしょうか。これに、SNSで商品の宣伝をしてくれれば追加でポイントを付与するなどの取引が付随してくると、もう大変です。誰もが同じ数値に置き換えることができるための詳細なルールが必要になります。
 実際にビジネスが複雑化したことで、より詳細な売上の計上額と計上時期を決めるためのルールが必要になりました。こうして登場したのが「収益認識基準」です。IFRS(国際会計基準)で開発され、日本基準でも導入が完了しました。

IFRS(国際会計基準)と日本基準について

 IFRSと日本基準について、IFRSの方が進んでいると主張する人がいます。これは恐らく間違いではありません。ビジネスの複雑化が海外の方が進んでいるためです。IFRSの後追いで、日本基準が変化してきたことが多いのも事実です。収益認識基準もそうでしたし、使用権資産についても、IFRSの後追いで日本基準での導入が決定しています。
 一方で、IFRSの方が進んでいるため、すべての日本企業がIFRSを適用すべきと主張する人もいます。これについては、その必要は全くないと考えています。オーソドックスなスタイルでオーソドックスなビジネスをしている企業がわざわざIFRSを適用するメリットはないです。

ご質問の回答

 質問の回答をまとめたいと思いますが、IFRSの導入によるメリットはありました。複雑なビジネスをしている日本企業がIFRSを適用することで、日本基準を適用していた時より、企業のビジネスを正確に数字に置き換えることが可能となりました。これは間違いありません。
 しかし、非常に限られた条件下ですが、複雑なビジネスもしていないのにIFRSを適用し、日本基準を適用していた時よりも表面上の数字がよく見える、そのようなことが可能になりました。これがデメリットです。これは、のれんの会計処理がIFRSと日本基準で違うことが原因です。

IFRS(国際会計基準)と日本基準の差について

 ややマニアックな内容になりますが、できるだけ簡単に解説したいと思います。IFRSと日本基準の差についてです。

埋められる基準間の差異について

 IFRSと日本基準の差について、収益認識基準や使用権資産がありました。IFRSの後追いで、日本基準でも導入されています。ビジネスの複雑化が海外の方が進んでいるため、先にIFRSで開発され、それを日本基準でも真似しようという流れが一般的です。
 このような差は、ルールがより詳細なものに変わるだけのため、日本基準でも早期適用が認められることが多いです。日本基準で後追い予定のIFRSの基準を先に適用してもいいよ、そのようなイメージです。基準の差として、そこまで問題になりません。

埋められない基準間の差異について

 一方で、IFRSと日本基準には埋められない差があります。のれんの会計処理です。
 90億円の企業を100億円で買収した際、この差額の10億円がのれんになるわけですが、IFRSはのれんを償却しないルールのため、価値が毀損しない限り10億円が計上され続けます。一方、日本基準はのれんを償却するルールのため、償却が完了すればゼロ円になります。下図の例では、ビジネスの実態は何も変わりませんが、IFRSを適用するだけで、日本基準よりも年間2億円得することになります。こちらが問題になります。

 この差が埋まるか埋まらないかは現時点では分かりません。すぐに埋まることはないでしょう。数年前にIFRSでのれんを償却する方向、ある意味でIFRSが日本基準の後追いをする方向での検討が行われていましたが、検討で終わりました。反対派も根強いようです。


ご参考(前回のnoteオリジナル解説記事)

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