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読書日記#4『なにごともなく、晴天。』ーーベーコンの姉さんのまかない飯

読書のたのしみのひとつに、おいしいものとの出会いがある。たとえば、ただの目玉焼きだって、そこにストーリーがのっかると、それが悲しいものであっても特別な食事になる。

吉田 篤弘さんの『なにごともなく、晴天』(平凡社)は、高架下で働く人たちの物語だ。そこに謎の女探偵がでてきて、日常にちょっとしたミステリーが生まれる。ただ、わたしはどうもお腹がすいているので、今は、物語の内容よりも、この本にでてくるおいしそうなものについて語らせてほしい。

主人公B子(本名、美子)は、<高架下・晴天通り>の38番にある行きつけの<太郎食堂>がお休みにはいったために、21番の〈ベーコン〉という純喫茶(?)に通い、そこであるまかない飯を食べている。〈ベーコン〉の姉さんは「自分はパンとベーコンとコーヒーさえあれば生きていける」というほど、ベーコンを愛する人物で、絶品のまかない飯「荒野のベーコン醤油ライス」をB子ために作ってくれる。本を読んでもらえばわかるが、本のページから、醤油とベーコンがいい感じに焦げるにおいが、ふわっとかおってきて、これはもう作らないわけにはいかなくなる。

ちなみに、この本には「荒野のベーコン醤油ライス」のレシピがふたつ掲載されている。姉さんが作るのは冷や飯を使ったチャーハンだが、わたしはおまけのページに掲載されていた筆者がおすすめする作り方を参考にすることにした。作り方の詳細は本を読んでもらうといいので、ここではざっと説明しよう。

まずは、炒めたベーコン(仕上げに醤油とレモン汁)を炊きたてご飯の上にのせる。ほら、こんなかんじ。

この切り方がミソ。

そして、ネギをまぜこむ。

緑が入るとまた食欲をそそりますな

そして、レモンをじゅっとしぼっていただく。筆者の方が、野菜も食べてくださいと書いてらっしゃったので、ほうれん草と昨日のキャベツスープも添えた。

陰の主役、レモン!

レモンのおかげで、さっぱりといただける一品だった。これはもう我が家の定番料理にしたいほど。わたしは姉さんのように、ベーコンを燻すことはできないので、スーパーで700円近くするベーコンを使ったが、十分なごちそうだ。

さて、お腹も満たされたことだし、最後にタイトル『なにごともなく、晴天。』について触れておきたい。この気の利いたタイトルについて、筆者のあとがきに、次のようにあった。

世の中の状況は、「なにごともなく」どころではなく、想像を絶する最悪の事態が連続して起きていたのですが、その不安な日々をはね返すような表題を、ひとつのまじないのようなものとして掲げようと思ったのです。希望をこめたタイトル。他に何があるだろう、とすぐに決まりました。

p.273『なにごともなく、晴天。』(平凡社、2020年)

「なにごともなく」のあとには、かっこつきで、(そんなはずはないけれど)と続くとも書いてあった。今、わたしたちのまわりでは、未来なんてあるのだろうかと思うほど、毎日いろんな悲劇が起こっている。地震だっていつ起こるか分からないし、いつ戦争がはじまるともしれない。

この本には守りたい日常が描かれている。どうか、このなにごともない日々が続いていきますように、そう願わずにはいられない。

おまけのデザート

この本には、「荒野のベーコン醤油ライス」のほかにもうひとつ気になるおいしそうな飲み物が出てくる。それは主人公B子がはまっていたクリーム・ソーダ。B子は週に一度の銭湯の帰りに<高架下・晴天通り>にある喫茶店に寄り、かならずそれを注文する。そのクリーム・ソーダはしゅわしゅわしたみどり色ではなく、オレンジとバナナの新鮮なミックスジュースを炭酸で割ったものに、昔デパートで食べたようなアイスがのっている。B子がそれを楽しむ描写は、それはそれは幸せな日常の光景だ。

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