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業界の賃金は「大御所」が決めるのか

アンパンマンの作者であるやなせたかしは、いろんなキャラクターを次々デザインすることで知られていた。本人が対談記事で語ったところによると、200体ものデザインをしたという。
だが、問題はそれがほとんど「無償」であったことだ。

本人は「巨匠にはならないと決めた、だからどんな仕事も受けなければ」という人生哲学を持っていたようだ。だがそんなに頼まれるということは「あの先生めっちゃ有名なのにタダでやってくれるらしいぞ」という情報が出回っていたのだろう。「やなせたかしデザイン」というバリューなのにタダ。これは予算の少ない地方自治体などには非常にありがたい。しかし「やなせたかし先生に予算がかかる」などといって代理店が実は請求しているという可能性もある。

いずれにしろ、本人の人生哲学は素晴らしい部分もあるが、ちょっとあおりをうけそうなのは若手イラストレーターである。「あの大御所が無償なのに無名のお前がこんなに金をとるのか」みたいなこと言われたら非常にツライ。ポップなキャラなど方向性が近い人だと特に。まぁそもそもそういうことを言うような発注者は何かにつけて値切ったりクレーム付けたりしてきそうなのでやなせたかしというよりモラルの問題かもしれないが。ただ、いずれにしても「大御所が安くすることで起こる弊害」というのはある。たとえば超人気俳優がギャラ10000円でいいです、とやったら、自然と若手はそれを下回ることになってしまう。業界全体にも関わってくるわけだ。

これとちょっと違うが、よく聞く大御所の弊害の一つに「アニメ業界の賃金が安いのは、手塚治虫が最初に安く引き受けたから」という説がある。
そのため現在のアニメーターは生活水準に満たないような賃金でやっている、なんてのをよく聞くのだが、「これはどういう理由でそうなったんだ?」とふと思った。
イメージとしては「手塚治虫がどうしてもアニメがやりたいので安くやりますといって始めた。本人はアニメで儲けなくても漫画があるから問題なかった」というものである。
てなことで探していると下記のような記事を見つけた。

詳しくは記事を読んでもらうのが一番いいのだが、簡単に抜粋すると「手塚治虫が始めた時のアニメの賃金は別に安くない」という結論になる。
どうやら制作予算自体は確かに安かったらしいのだが、グッズ収入なども全部アニメ制作会社に入る契約になっていたので儲けは十分にあり、アニメーターも高給取りだったようだ。真相としては後追いでアニメを始めた会社が安い制作予算かつグッズ収入も何もない状態でやっていたから、というものらしい。
なお手塚治虫のアニメ会社では高給取りであっても環境自体は過酷だったらしく、そこから高給がなくなったので「単に過酷」な仕事となった模様。
ちょっと前にも「鬼滅の刃のアニメ制作会社が脱税」というニュースがあったが、これも取材記事によると単純に運転資金の確保のためで、通常の制作費だけでは毎回赤字になるから、というものだった。

あんなに人気のアニメを作ってて儲けてないなんてどういうこと?と思うが、これは要するに「制作会社は製作委員会から提示される予算だけでやっていて、 ヒットした時のロイヤリティ収入などは全部製作委員会に入る」ということだ。かといって安くあげようとして適当な絵では結局人気も出ないし、こだわればどんどん単価としては下がる、みたいな状況ではツラいだろう。

けっこう話がズレてきたので戻すが、アート系でも結構「大御所の弊害」がありそうなイメージだ。師匠の作品が10万円なんだから駆け出しだと1万円だろう、みたいな感じで。もちろんそれだけクオリティの差があるなら納得するだろうが…。
しかしこれは結局日本的な「年功序列」の考えから来るものなのかもしれない。完全にそれでいくなら最終的には高くなってくるのでいいのだが、都合のいい運用をされると若いうちは若手だからということで安くされ、年を取ると実力主義だからということで値段が上がらない、ということになる。
(本当に実力があるかどうかは関係なかったりする)

結局大御所問題と言いながら業界の搾取構造問題だったりするのかもしれないな。

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いらすとやにはこんなのもあるわけだからすごい。
でもコレも正直「このクオリティで全部タダ」なわけであって、「イラストに金がかかるならいらすとやで済ませる」と言われてるイラストレーターとかもいそうだな~。


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