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広告賞と賞金と承認欲求と。

20代半ばから30台半ばにかけて、コピーライターをしていた。とはいえ宣伝会議の講座に通ったこともなく、有名な師匠の下についたわけでもない。ただ、第二新卒くらいの時期に当てもなく広告制作会社の面接を受けて、運よく通った会社でコピーライターを名乗っていただけだ。別に資格もいらないので、入社してすぐに名刺には「コピーライター」と印字される。急に一人前になったかのような錯覚と、何も後ろ盾がないのに名乗っていいのかという不安があった。

そうしてそのころ自分が何を目標にしたかというと、宣伝会議賞受賞とTCC(東京コピーライターズクラブ)である。宣伝会議賞のほうはたまたま雑誌で見つけて何となくやっていたのだが、この頃は注目度も低いし周囲のコピーライターはほぼ応募してないし、それより実務をちゃんとやれよ、みたいな空気があった。
それよりなにより、圧倒的な権威があったのはTCCだ。毎年出るコピー年鑑は重いわ高いわ(20000円くらい)で、とても個人所有できるようなものではなかったが、そこに出ているのは紛れもなくその年トップクラスに話題になった広告たち。そして巻末近くになるとその年の「TCC新人賞」が掲載される。受賞した作品と、個人の写真と、メッセージ。それは憧れであったが、正直大半は首都圏や大阪あたりの大手広告代理店の人たちであり、地方でこれを受賞するのはかなり難しい。そもそも、大手広告代理店の地方支社の人たちもこれを狙っているのだ。新人賞といいながら普通に40代くらいの人も応募していて、その人たちの下について仕事をしながら賞に出せるコピーを書ける仕事をするというのはとてもハードルが高い。しかも、特に賞金はないしむしろ月会費を支払う必要がある(当時で月額5000円)。それでもかまわないから受賞したいというほどのステータスがあったのだが。

TCCはそう考えると公募の賞とはまた違う位置づけだが、コピーライターとしての箔を付けるために公募受賞実績を狙う人たちもいた。今もいるだろうけど。「あれこの人TCCに出てたぞ」みたいな人が地方のラジオCMコンテストでも受賞してたりする。普段の業務の息抜きなのか、単純にラジオCMが好きだからなのか知らないが、こちらとしては「くそう、自分の畑でたくさん作物取れるのによその畑まで攻め込みやがって」みたいな気分にはなる。負けずに戦えてる人もいるだろうが。

しかし、グランプリ級ならいざ知らず、地方の賞で佳作レベルだとすると、賞金は5000~10000円くらいだったりするので、とても収入として当てにするレベルではない。ほんとにお金のみが欲しいのであればアルバイトでもしたほうがよく、やっぱり「受賞の喜び+お金」というセットであろう。プロフィールにも書けるし。このへんはまあ言ってしまえば承認欲求を満たしつつおまけで多少美味しいものが食べられるくらいのものだ。
「面白いのが書ければいい。承認欲求はない」とか「単にお金目当て。承認欲求ではない」という人もいるのだろうか。それはそれでちょっと「うそーん」という気になってしまうのだが。「M-1獲って誰よりオモロイこと見せつけてやれたら賞金なんかいらんわい」と言ってしまうトガリ芸人みたいな。まあでもこれこそ思い切り承認欲求か。

最近のTCC新人賞事情は知らないが、昔より大手広告代理店率が下がったりしているのだろうか。電通がどれだけ問題起こして叩かれてもそのへんは実際あまり変わらないんじゃないかと思っているが。やっぱ営業含めてノウハウが強すぎると思うので。結局「TCCに応募できそうなコピーが書ける仕事」を受けないとどうにもならないしね。
それがどんな仕事かといえばもちろん「コピーに自由度があること」である。まあ不自由な条件を乗り越えていいものを作るのがプロという話もあると思うが、それだけでなく。そもそもカタログのページ内の見出しとか、情報整理がメインの仕事では応募できないわけです。とはいえ全国区のCMとか新聞15段(要は1ページ)のチャンスはそうそうない。そこで若手や地方の弱小プロダクションなどが狙うのは新聞の小さいスペースのコピー連作とか、雑誌の1ページ広告とか、「予算はかからないがコピーを自由に書ける」仕事。特に連作だと必要な応募点数も集まりやすいので一石二鳥。最近は3~5点必要らしい。ちなみに審査料は12000円。まあこれは冷やかしや記念応募で大量に送られたりするのを防ぐ意味もあるだろう。

受賞なんて狙ってなくて、むしろ狙えるレベルのものを作っても出さない、という人もいるのかもしれない。ルールを作る側に立つのだろうか。自分で自分を承認できているんでしょうなぁ。こういう人が海外の広告代理店とかに移るようなイメージ。

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