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いかにして私はコピーライターを挫折したか。 第14話 指導編

さっそく挫折シリーズ復活!復活と言えばイシターではなかろうか。
誰だよ、という方は「イシターの復活」で検索されると有意義な知識が入手できます。

一度全然違う話を挟んだのであらすじを。

<前回までのあらすじ>
激務を乗り越えて通常業務に復帰したかと思ったらいきなり分社化して新人コピーライターの坂田君と一緒に移籍することになったが、その会社がいきなり分裂した。

<ここより本編>
分裂後も普通に仕事は続いた。むしろ分裂したあとのほうが呉田さんと酒村さんの関係性も良好だったような気がする。

毎回すんなりコピーを考えられていたわけではないが、さすがに場数を踏んだせいか、「今回求められているコピーはこういう方向性だな」というアタリはある程度付けられるようになっていた(たまに大外れもある)。とはいえ、そこで新人育成も兼ねてやるとなると勝手が違う。
まず大前提として「俺が教える側でほんとにいいのか?」という自問があった。せいぜい3~4年とかの経験で、新人に対して「こう書け」と言っていいものだろうか?とはいえ他に人もいないし…。ということで最初にやったのが「入門書的な本を読ませること」であった。
これならベテランや大御所が書いているわけだから間違いという心配はなかろう。ということで一通り読んでもらっていざカンタンなものを書かせてみた。

「…?」
あれ?全然違うじゃん。さっきの説明伝わってないか?なんか言い方がまずかったかな?ということで要点を説明してもう一度修正させる。

「…??」
待て待て待て、全然直ってないよ。文章がつながってないって説明しただろ!あとそもそも国語的に意味が違う!ってことでもう一度修正させる。

「…???」
うおーい、「例えばこんな言い回し」ってのがマジでそのまんまやんけ!いや、最後は良くなったかな?いやいやでもこれでOK出してたら結局デザイナーから差し戻されるぞ。しかし時間がない!…今回はこっちで引き取るか…。

この時は気づいていないのだが、「そもそも自分も同じ入門書読んでるが最初はろくに書けていない」のである。とはいえ自分としては「さっき教えた部分だろ!」みたいな感覚になっている。この時上手に伝えるスキルが身についていれば…とは思うが、当時は「自分のコピーもダメ出しを食らうのに、その自分から見ても明らかにヤバいコピーを書いてくる新人にも何か言わないといけない」という状況にけっこう悩んでいた。

何度も直しを入れ、時にはその繰り返しで明け方になり、かろうじてOKを出すものの結局8~9割くらい自分が書いた形になることもあり、これって坂田君にとっても不満だろうなと思っていた。若手のデザイナーで坂田君と同じ年齢の井達君(仮名)というのがいたのだが、こちらは最初こそやや躓いたものの、順調に成長していて酒村さんからも作業をある程度任されたりしていた。同い年であれば坂田君もやりやすかろう、ということでコンビで仕事に当たってもらうこともあったが、その時のほうがいいものを書いていた気がする。

ただ、自分の指導力不足もあり、坂田君の成長スピードは速いほうとは言えなかった。周囲からも「いつになったら独り立ちできるのか」という言外のプレッシャーを感じたが、自分自身もどんどん仕事量が増えていき、それをこなしながらさらに指導する、という状態にかなり限界を感じていた。

「やり方が甘いんじゃないか」「坂田君にとっても中途半端なんじゃないか」といったことを言われるようにもなり、ある時覚悟を決めた。坂田君が入社して2年ほど経っていただろうか。酒村さんと自分と坂田君の3人で話し合うことになった。

「これまで半端に途中でコピーを引き上げたりしていたのが良くなかったかもしれない。これからはビシビシやるし、最後まで徹底的にやり抜いてもらおうと思う。今までよりきつくなると思うし、しっかりと自分がどうしたいか、よく考えてみて。それこそ嫌なら辞めてもらうくらいの話だから」
といった意味合いのことを伝えた。要は石にかじりついてでもやり切るかリタイアするか、みたいな話である。それまでも結構深夜作業があったのに、さらに厳しくなるぞ、という宣告をしたわけだから、半分脅しだ。

そして結果として、坂田君からは「辞めます」という答えが返ってきた。残念ではあった。結局育ててあげられなかったわけだし、だとすると2年間ムダに過ごさせてしまったのではないかという思い。ただ、正直に言えば伝えた時から「辞めるだろうな」とも思っていた。何度も直される現状に不満を感じていたのがわかったし、行き詰まり感も出していたからだ。

ということで結局コピーライターは一人体制となった。多忙なのは変わらなかったが、「育成」という肩の荷が下りたことで、ある意味開き直れた時期でもあった。

次回、「受賞編」に続く。

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