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突然、妻が坊主になった夫の話(ノンフィクション)。

ある日家に帰ると、妻が坊主になっていた。出家したわけではなく、ヘアスタイルの話だ。自分は反射的に思った。「ついにきたか」と。予感があったわけではないのだが、下地はあったからだ。これには息子が影響している。

我が家の息子はかれこれ4年ほど坊主スタイルである。ずっと自宅でバリカンを入れているので非常に経済的な息子と言える。最初のころこそ6mm~9mmくらいの長さにしていたのだが、最近は3mmくらいまで踏み込むこともある。そして散髪が終わった時に、自分の頭をじょりじょりなでながらこう言うのだ。

「風を感じるわ~」

まあ3mmになる前も坊主なので長めの坊主から短めの坊主にクラスチェンジするだけではあるのだが、これを見ていつも妻はうらやましがっていた。自分も風を感じたい、と。ツーリングに出かけたい人みたいなセリフだが、この場合はスピードなしで風を感じるやり方だ。ひらたく言うと自分も坊主にしたいのだ。
とはいえ、他の保護者ともちょくちょく会うことを考えると、いきなり母親が坊主になったら子供たちがからかわれるのでは、とかPTAで浮いてやりにくくなるのでは、といった懸念があり、実行できていなかった。
そこにきてコロナでの長期間休校である。これはチャンス、と思ったのだろう。いちおう子供たちにも聞いてみたらしいが、やめてくれというどころか推奨されまくったらしく、妻は自分の頭にバリカンを入れた。

そして自分が帰宅すると坊主になっていたわけだ。さすがに3mmは最初からだと飛ばしすぎと思ったのか、12mm程度の「長め坊主」ではあった。だが、どちらにしてもまごうことなき坊主だ。自分が思い浮かべたのは、エイリアン3でのシガニー・ウィーバーである。しかも服装がグレーだったのでぶっちゃけ「囚人」のイメージが浮かんでしまった。

義兄に写真を送ると、「自分かと思った」という返信がきた。そう、坊主になった妻は義兄に似ている。どっちかというと似ているほうだな、くらいにしか思ってなかったが、「髪型」というフィルターを外すと、似ている度が2ランクほど上がる(3ランクで本人)。いかん、このままでは我が家はお父さんが二人になってしまうではないか。だが妻はどちらかというとその状況を楽しんでいて、子供たちに
「もう我が家にお母さんはいないからね」
と言っていた。子供たちは「ええー」と言いながらキャッキャしていたので特にダメージはなかった模様。いいのか。
娘は髪が長く、自分は短髪。家族4人の髪型構成は、「ロング・短髪・坊主・坊主」となる。坊主でワンペアが作れるようになるとは思わなかった。
その後義弟家族とZoomで話す機会があり、せっかくなので盛大にばらしたい、という要望が妻から出た。そこで「PCでのZoom会話中に義兄を呼ぶ、と見せかけ妻がスマホで参加する」流れを考え、いざ実行するとどうなったかと言うと、なぜか義弟からは「お義兄さんすいません」と謝られ、甥っ子たちは本当に義兄が来たのかと一瞬勘違いしたのち、ドン引きしてまあまあ固まるという結果となった。義弟としてはさすがに姉のことをよくわかっているのか面白がってはいたが、こちらに対してはすまなく思ったのであろうか。

ただ、何にすまなく思うのかと考えると、よくわからなくなる。
要は「お義兄さん(姉が突然坊主にして)すいません」ということだが、夫の反対を押し切って坊主にしたわけではなく、というかそもそも事前に相談されたわけでもない。こちらとしては普段の言動から「いつかやりかねない」と思っていたので多大なるショックを受けて精神を病んだというわけでもない。
そう、特に被害者は出ていないのだ。ショック受けたほうがよかったのかなあ。髪を梳くクシを買ってきたタイミングだったらショックだったと思うけど、買ったことないし。

そんなわけで坊主の妻と坊主の息子とロングの娘と白黒の犬と暮らしている。


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