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いかにして私はコピーライターを挫折したか。 第16話 焦燥編

よく「フォロワーを増やす方法」みたいな見出しがあるが、だいたい「マメに」「頻繁に」といったド正攻法の内容か、いかがでしたかブログみたいな内容だったりして結局流し読みで終わる。だからフォロワーが増えないのだな。

さて、前回のような受賞を経て、周囲の評価もやや上がり、自分でもようやく自信が持てそうな感じになっていた。
が、それに伴って面白い(=アイデアが受け入れられやすい)タイプの仕事がガンガン入ってくるようになるかというと、そういうわけではない。

マジメな文章のみ必要とされる仕事も、ほとんど情報整理で終わる仕事もあった、というかそういう方が多かった。このへんは地方の広告業界あるあるかもしれない。ただ、これはこれでいいというか、きちんと筋道立ててやれば終わるタイプの仕事でもあるので、「つまらないアイデアしか出なかったらどうしよう」みたいなプレッシャーがなくやりやすい面もある。

そんな中、新たに入ってくるようになった仕事が一つあった。マンション広告である。不動産というのは一定の広告費が確保されているし、時代的にもマンション建設ラッシュ。広告代理店にとってもライフラインとなるくらいの予算があった。そこで組むことになった代理店CD(クリエイティブディレクター)は、「いかにもマンションといった既存の形ではなく、新しい提案をしていきたい」と語った。

この時内心で思っていたことはこうだ。

「マンション、興味ねえ~~~」

マンション広告に対するイメージは、「パース(建物CG)どーん、かっこよさげな雰囲気のコピーがばーん、売れるかどうかは立地次第」というものだったからだ。ただ何回かやって分かったのはそんなに印象が外れてもいないということ。新しい提案といってもそんなに変わらない形になること、そして、自分がこういうコピーがすげえ下手なこと。

何とかひねりだして何十個も書いたコピーも、我ながら大して変わらないのばっかりだなと思ってしまうし、実際提出しても反応が芳しくない。「住む人の気持ちになって」とか「自分が買うとしたら?」とかいろいろなイメージを持とうと思っても、元々の興味がなさすぎて全然湧いてこないのである。最終的に向こうで決定されたものを見ても「なるほど!」と思うより「似たようなことこっちも書いてたじゃん」と思ってしまうような状態で、正直どんどん嫌気がさしていった。

ただ、仕事はあった。小さな制作会社にとって、レギュラー的な仕事があることは非常にありがたい。そのため、ほとんど常にマンション広告に関わるようになっていき「やばいな…こればっかりになってしまうのか?」という焦りを感じるようになった。

毎回最終的には酒村さんの助けを受けたりしながらどうにか形にしていったものの、代理店CDとは微妙な空気だった。マンション以外の仕事ではコピーを褒められることもあったため、「マンションでは手を抜いてやがるな」とでも思われた可能性もある。そしてマンションコピーの下手さに加えて、チラシの校正がこれまた下手、というのも苦手に拍車をかけた。

マンションのチラシというのは非常に細かい情報が多く、しかも独自のルールがある。「こういう時はこうだろ!」と言われても「そんなの初めて聞くわい」みたいなこともあったし、周辺マップの距離やら、間取り図面やらと構成要素も多い。もともと校正が苦手だった自分にはまさに苦行であった。何回も見落としをやらかし、内部からも外部からも怒られ、疲弊していった。

とは言いながらさすがに数をこなせば慣れるかな、と思っていたが実際には全然そんなことはなく、やるたびに泥沼にはまるようになっていた。

次回、憔悴編に続く。


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