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静かに降る雨音を聴きながらレコード特有のノイズを思い出す

小学生の頃、世の中にCDどころかカセットテープも出現していなくて音楽を聴く機器はもっぱらレコードだった。
レコードは、回転するレコード盤の外側に針を落とすと針が溝と触れ合うノイズが生じる。ジジジジというその音とそれを包み込むようなミシミシとした回転の緩やかな音が合わさると、それは地面に沁み込んでいく降り始めの雨の音みたいで気に入っていた。
しばらくのジジジジミシミシの後、曲が流れ始める。

毎年運動会の前になると突如強化練習が始まるラジオ体操第一もレコードから流れる音楽に合わせて体操していた。
このレコードは多分学校の中で一番酷使されているに違いなく、傷もかなり多く、傷の多さはそのままノイズになっていた。
それは地面に沁み込んでいく降り始めの雨の音などではなく、けっこう本降りの雨の音でザザザザザという雑音の後チャンチャチャチャラララ チャンチャチャチャラララ チャラリラリラリラ チャンチャチャチャンチャチャチャン~とピアノが流れる。その間にラジオ体操のおじさんが「ラジオ体操第一~腕を前から上にあげて背伸びの運動~」というセリフを言わはるのだがレコードについたキズのせいで「背伸びの運動」が「背伸びのうんど~~~う」って間延びしてしまう。それがまた良かった。
それはレコードのキズのせいでラジオ体操のおじさんが失敗をしたわけではないのになんかラジオ体操おじさんがいつも言い損ないをしているみたいで妙に親しみを感じられたのだ。
ははは。おっちゃん、また「うんど~~~う」になってんで。

今思うと、このレコードに限らず子供時代はノイズが多かった。
小学校では週に何度がみんな運動場に出て全校朝礼が行われた。
全校生徒が整列し、その正面真ん中に朝礼台があった。
たかさ1mにも満ちないその朝礼台の上でマイクで校長先生がお話をする。
連絡事項のある先生がマイクでお話をする。
児童会の生徒がマイクでお話をする。
このマイク、ワイヤレスだったかなあ・・・
このマイクのノイズも味のあるノイズだった。
「あーあー、ただいまマイクのテスト中。本日は晴天なり。」とかをいう事もあったから今どきのマイクと比べたらさぞかし性能の悪いものだったのだろう。
このマイクもなんとなく砂を噛んだうなギシギシした感のノイズがはいる。
さて、児童会というのは生徒会のことで、この児童会からの「落とし物の紹介」が朝礼の時にあるのだ。
私は好この「落とし物の紹介」が大好きだった。

「では、落し物の紹介をしますっ。ギシギシ
ハンカチ。児童玄関に落ちていました。ギシギシ」
こう言って落し物のハンカチを全校生徒に向かって見せる。
しばらく待って反応がなければ次。
「黄い帽(通学用の指定の黄色い帽子)。ギシギシ
2年3組山口、と書いてあります。ギシギシ」
そしてまた全校生徒に向かって見せる。

・・・・名前書いてるんやったら2年3組にもっていったったらええやん。
心の中で突っ込みながらも「いやいや、ここで紹介するからええねんやん。」と落し物の紹介コーナーに価値を置く。
この落し物の紹介をしたいがために児童会の役員になりたかったのだ。
児童会役員になるには、期間中に立候補し、高学年の集まる体育館の舞台上で立会演説をし、児童選挙に勝たねばなれない。
気が弱く、小さな声しか出せなかった私は立候補の勇気などなく家のテープレコーダーのマイクで落し物の紹介の練習をした。
「落し物の紹介をしますっ。
黄い帽。4年5組市原と書いてあります。」
テープレコーダーのマイクはギシギシしたノイズがなく全く味気なくて話にならん。






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