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Hさんの玄関事件

もう50年ぐらい前になるけど家のすぐそばにHさん一家が住んでいた。
どこかの地方のなまりのある言葉でよく喋る気のいいおばちゃんと無口で堅実そうなおっちゃん、そして私より2つ年上の男の子と1つ年下の女の子の4人家族。
Hさん家の子供たちとは一緒に遊んだ記憶はないけど、おばちゃんとうちの母は結構気が合うのか良くおしゃべりしていた。

当時、私は10歳ぐらいだったと思う。
夏休みのある日の夕方のことだ。
地球温暖化や熱中症などの言葉も耳にしたこともない時代ののどかな健全な暑い夏の夕方。
時間が太陽にとろける。
庭の水撒きでもしようか。

と、そのときビビビっと私のセンサーが何かを感知した。
私はあるものに異様に反応する。
それが怖いからに他ならないが他の人にはまだ見えないのに私はその存在を感じ取ってしまう。
その恐ろしいものとは・・・

ヘビ!!

私はこの生き物がどうしようもなく怖い。
ヘビには悪いが見た目も怖いし動き方も怖い。
だいたい、足もないのに何であんなに速く前進できる?

このヘビが、ヘビが、ヘビが、いた。
私は恐怖のあまり回りのことは見えなくなっている。
ヘビだけが見える。
戦わなければ・・・
やっつけなければ・・・

ヘビは壁に沿うように頭を上げてニョロニョロしている。

いまだ!

私は、ヘビに向かってこぶし大の石ころを投げつけた。
どやっ!!


ガシャーン

大きな音で我に返った。

うわあ、えらいことやってしもた。
ヘビがニョロニョロしていたのはHさんの家の玄関の入り口だった。
Hさんの玄関はガラス戸だった。
石ころは、そのガラスに命中。
ヘビはどこかへ逃げていき、Hさんの家の玄関のガラス戸が大破した。

しまった。
人様の家の玄関に石を投げ込んでしもた・・・・

自分のしでかしたことのアホさと重大さに耐え切れず一目散に逃げ帰った。
そして母に訴えた。

「どうしょー。どうしょー。
ヘビがおってん。ほんで怖いから石投げてん。
ほんならHさんとこのガラス割れてん。」

「・・・・Hさんとこに石投げてガラス割ってんやろ?!
しょうがないなあ。なにやってんのん。」

私は、母の陰に隠れるようにしてHさんに謝りに行った。
情けないことに自分で状況説明できなかった。
「ごめんなさい」というのが精一杯だった。
Hさんのおばちゃんは、
「ほんまにビックリしたわあ。
ヘビがおったんかいな。ほんなら仕方ないなあ。」
と、怒りもせず妙な理解を示してくれた。
ああ、助かった~でも歯がゆい。

ヘビのアホめ。
アホのヘビめ。

そうでなくても嫌いな怖いヘビがますます嫌いになったできごと。
石ころが自分の手を離れ、ガラスがガッシャーンと音を立てて我に返ったときの「えらいことやってもたー」感は一生忘れないやろうと思う。

ヘビのアホめ。
アホのヘビめ。





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