見出し画像

ドイツの危うさ

◉農業アドバイザーで、農業ビジネス編集長の、浅川芳裕先生の、興味深いツイートが目に止まりました。メルケル首相時代、脱原発だ脱石炭だ脱炭素だと、極端に走ったドイツですが。農業政策でも、左派の発言力が強くて、こんなことになっているんですね……。何やらドイツという国は、戦前はナチスという極端に走ったと思ったら、戦後は反ナチスという極端に走っている印象です。

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ホーエンシュタインという村とその村にある小さなお城だそうです。なんとも美しい風景ですね。

◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉

①ドイツへの憧憬

確かにヘーゲルやニーチェ、キルケゴールを生み出したドイツ哲学、ヘッセやマンのドイツ文学の骨太さや、バッハやメンデルスゾーン、ヴェートーベンなどクラシック音楽の本場としての存在感、医学や化学などで世界をリードしてきた高い科学力、戦車や拳銃や軍服に代表される軍事におけるデザイン性など、とても魅力的な国です。

日本も、明治維新の舵取りが困難な時代、地方領主の連合でしかなかったドイツを大帝国に育て上げた鉄血宰相ビスマルクは、大久保利通や伊藤博文など明治の元勲にも多大な影響を与え、明治憲法もプロイセン王国の影響は大きく。陸軍も、ドイツ軍の影響を強く受けています。これは、海軍がイギリスの影響を受けたのと対照的ですが。

■ドイツは観念を重視■

日本ではドイツ好きが多く、それはロシア好きやイギリス好きを凌駕している印象です。そうやって出羽守が理想化したドイツですが、先述したエネルギー政策はもちろん、農業政策でもメチャクチャなことになっているようで。こうなると、理念先行の非科学的な国だと、つくづく思います。そういえば、共産主義思想を完成させたカール・マルクスも、ドイツ人でしたね。

こうなるとナチスを生み出し、強制収容所でのユダヤ民族浄化や、精神病者や障害者を安楽死させたT4作戦を実行した狂気は、何もナチスだけに責任を帰す事はできず。ドイツ国民全体の集団的無意識に潜航した本音が、浮上しただけなんだろうなと思ったりします。かのアインシュタイン博士も、心を病んだ次男エドゥアルトには、終生冷淡であったとか。

■大陸国家と海洋国家■

自分のツイートに対して、buveryさんからこんな引用ツイートが。たしかにドイツは観念論が発達し、多くの哲学者を生み出しました。そして、正しいのは理論であって現実が間違っているというのは、キリスト教原理主義者の発想なんですよね。マルクスの共産主義思想もナチズムも、実はキリスト教の強い影響化にあるという点で、マルティン・ルターの宗教改革も、ドイツから始まりました。

神聖ローマ帝国の後継であるドイツは、典型的な大陸国家でもあります。これは歴代中華王朝や、ロマノフ朝以来のロシアもそうですが。世界を大雑把に分けると、大陸国家と海洋国家に分けられますね。日本は島国なんですが、大陸国家の典型例である中華文明の影響を受け、長らく大陸国家的な性格を有してきた。天智天皇以来、鎖国が国是でしたし。

②平家・海軍・国際派

しかし、戦前の陸軍の暴走を見るに、やはり海洋国家として横の連帯を強化すべき。海軍も問題ありありでしたが、それでもまだ世界を見ていて、現実的な部分は陸軍よりありましたし。この国は、平家・海軍・国際派が出世できない国。商才があり、算盤ができ、経済と貿易を重視し、国際的視野がある人間が主流派になれない面があります。

平清盛から足利義満、足利義教、織田信長、細川政元、石田三成、荻原重秀、田沼意次、大久保利通、高橋是清と、そういうタイプは不人気で、人気があっても暗殺されたり変死するか、あるいは失脚するのが常。この系譜に、安倍晋三元総理も、入ってしまったのが残念ですが……。そう、自由で開かれたインド太平洋戦略とは、まさに海洋国家の戦略です。

■アメリカの二重性■

アメリカという国は海洋国家なんですが、多くの国が集まった連邦国家で、農業も工業も経済もエネルギーも自給自足で完結できるため、モンロー主義で大陸国家的な性格を併せ持ちます。州というと地方行政機関のイメージが日本人にはありますが、アメリカはユナイテッド・ステーツ。国が集まった連邦国家です。だから、州ごとに軍隊があり、警察の制度も違います。

その点で、平家・海軍・国際派が出世できない日本と、けっこう似ている面もあります。アメリカの、大陸国家的理念先行の問題は、BLMやトランスジェンダー権利推進派といった形で、顔をのぞかせます。興味深いのは、そういうアメリカの大陸国家的理念先行に、なぜか日本の国際派を自認する左派が呼応する現象があります。コチラのnoteを、参照してください。

■鎖国が日本の国是■

しかし彼ら国際派の左派は、出羽守と揶揄されるエセ国際派であって、真の国際派とは言い難いです。同様に、日本の大陸国家的性格は、沖縄の反基地闘争という形で左派が主導し反米思想をたぎらせるという、これまた奇妙なネジレを見せます。日本人はどんなにリベラルなつもりでも、無意識に国粋主義的な面を持っています。

日本人の心を一尺掘れば尊王攘夷が吹き出す、と言ったのは半藤一利さんでしたか。黄巾の乱で後漢王朝の人口が3分の1とも10分の1とも言われる大激減で、中華は三国時代に突入。司馬氏の晋王朝は短命に終わり、隋唐王朝の強大な王朝の出現まで、麻のように乱れます。この結果、周辺地域には独自文化や文明の萌芽が生まれ、独立自尊の機運が生まれます。

③攘夷と鎖国が日本の国是

これが、607年の遣隋使での対等外交を志向し、やがて白村江の戦いでの新羅・唐王朝への大敗を経て、日本は中華王朝と距離を置く、一種のモンロー主義に至ります。しかし、中華文明の影響は大きく、けっきょくは皇帝制度の真似をする。それが、皇帝のような皇帝でないような、天皇号の使用。そして中華の時間軸とは違う時空を生きてる証である独自の元号の使用。

それまで倭国と呼ばれていたのに、日輪のいづる大本という意味で日本国号を使いと、実は日本には強力な対中華コンプレックスがあったのですね。こういうことを島国の海洋国家の資質を持ちながら、日本が大陸国家の性格を持ち、この小さな国土を天下と呼んだ理由です。言うから、自分は右側にも嫌われるんですが、岡田英弘先生の受け売りです。

■攘夷としての安保闘争■

そういう国是ですから、日本人の心の深いところで、尊王攘夷の気持ちがあるわけです。尊王はともかく、攘夷の気持ちはあって、外国人が大きな顔をしたり、日本人を押さえつけるのが、我慢ならない部分があります。太平の眠りを貪っていても、いざ黒船が来ると命を賭す若者がボンボン出てくる。特攻で散華した方々が、アメリカがビビるぐらい出てくる。

なので60年安保も70年安保も、学生たちは共産主義思想やソ連や共産中国や北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を理想化していても、それを支持した大衆には、反米の気分が原動力だったわけです。Dappiアカウントが実は維新の会支持で、自民党でも親中派の議員はボロクソ、逆に立憲民主党でも松原裕議員には好意的だった理由も、無意識の攘夷思想だと自分は思っています。

■次はドイツ抜きでやる■

自分は保守派を自称していますが、この無意識の攘夷思想や日本式中華思想には、与しません。それが暴走したときの危うさは、先の対戦で証明済みですから。自国は特別であるという国粋主義は、一種の信仰ですからね。そしてこの危うさというのは、ドイツ的なものと親和性がある気がします。ビスマルクは優秀なユダヤ人を登用し、ドイツ帝国の栄華をもたらしましたが。大日本帝国の栄光と同じく、危ういです。

政治ジョークに「次はイタリア抜きでやろうぜ」がありますが。実際はイタリアは、ヤバそうになるとムッソリーニ政権を倒し、むしろ連合国側として参戦するという、現実対処の強かさを見せています。原理原則に固執して、昭和天皇の御聖断がなければ降伏もできなかった日本は、イタリアより賢明でしょうか? ヘタリアとか馬鹿にする前に、「次はドイツ抜きでやろうぜ」という思考実験は、しておいたほうがいいでしょう。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ