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アニメ業界の低賃金は手塚治虫のせい…ではない

宮崎駿監督が、手塚治虫先生が亡くなったとき、この批判を展開し、さもそれが定説のようにされてきましたが。何年も前から反証を挙げて疑問を呈する人愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt)は、いくらでもいました。にも関わらず、宮崎駿監督の信者はそれを聞き入れませんでしたけどね。ようやく、まとまった記事として、こんなのが出ました。

アニメ業界の低賃金は手塚治虫のせいなのか? 見えてきた意外な真実

悪いのは手塚治虫?
日本のアニメについて語られるとき、そこで働く人たちの低賃金が問題になる。
アニメが好きでその仕事をしているので、いわゆる「やりがい搾取」になっている、と。
それはアニメのみならず、映像の世界全体に言えるようでもある。
しかし映像全体であれば、不況でテレビ局の業績がどうこうとか、とくに特定の個人のせいにはされないが、アニメに関しては、いまだに「手塚治虫が『鉄腕アトム』を安く作ったおかげで、アニメーターは低賃金になった」と、亡くなって30年が過ぎている手塚治虫のせいにされている。
本当にそうなのだろうか。

だいたい、アニメ業界人自体が、手塚治虫戦犯説は否定しても、では貧乏体質は何が原因かと問われると、自分の知人のアニメーターはキャラクターデザイナーの取り分が多いと言い、岡田斗司夫氏は音響監督が取り過ぎと言い、ヤマカン監督は製作委員会方式が悪いと言い、バランバラン。ようするに、中の人も原因がわかていない。それじゃあ改善なんて不可能です。

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■真の戦犯はTJCと東映動画?■

自分が以前、Twitterで手塚治虫戦犯説に疑義を呟いたとき、宮崎駿監督の古巣の東映動画が悪い、具体的にある高名なアニメーターが自分に有利な歩合制を主張し、結果的にその人は東映の社長より高給になったという人もいました。具体的な確証が取れないので、実名は伏せますが。できる人がガバガバ取れば、そりゃあ若手は薄給になりますよね。

ここら辺について、ご自身も長年アニメーターで、後に漫画家に転向された宮尾岳先生が、思い切った肯定ツイートをされていました。ある意味で、宮崎駿監督批判でもあるのですが、もう業界から離れたからこそ、大監督に忖度することなく言えるのでしょう。さすがに、釈迦に説法する宮崎駿信者は現れていませんが……。

現実的に、上手さは評価しづらい。主観が入りますからね。であるなら、枚数という解りやすいい評価基準しかないでしょう。「プロとは上手い人ではなく早い人」という格言が、アニメ界にはあるようで。で、上手くて早い安彦良和先生とか、新人は太刀打ちできない。下手な絵はリテイク喰らいますから。んで、ここから具体的な宮崎駿監督批判が。

詳しくは、上記リンク先の元記事をお読みいただくとして。丁寧な検証で、読み応えがあります。個人的には、宮崎駿監督による手塚治虫批判は事実誤認の間違いが多い、というのはほぼ確定。乗り越えるべき漫画の神様でアニメ界の巨人として、否定したかったのでしょうけれど。また、宮崎駿監督の手塚批判は、東映動画の先輩でもある大塚康夫氏の、受け売りの可能性もあります。追記していきます。

ここら辺は、虫プロで育った富野由悠季監督も、手塚治虫先生への複雑な愛憎を吐露されていましたっけ。こんな本業が漫画家にアニメーションで負けてたまるかという想いと、亡くなった手塚先生の遺体にずっと寄り添っていたかったという想いと、両方を。宮崎駿監督も、手塚治虫先生を批判するなら、事実に基づいてやるべきでしょう。むしろ批判すべきは、古巣の東映動画ではないでしょうか?

■儲かってるアニメーターは誰?■

そしてこちら、ぬまきち氏のご意見も補助的に。一部は推測ですけど、そう外れていないような……。個人的には、才能ある人が稼いでも、何の文句はないです。むしろ見合った報酬を受け取るべき。ただ、東映動画の組合幹部だった頃の宮崎駿監督の理念とは、現状は相容れないだろうなぁ、と。もちろんジブリが傾いたときの、リスク分散と保険としての個人事務所という部分も、否定はできないですが。

説明を付け加えると、『二馬力』というのは宮崎駿監督の個人事務所。1984年に設立され、2004年に株式会社二馬力に吸収合併され、2016年にはスタジオジブリに吸収合併。2013年の『風立ちぬ』で宮崎駿監督が引退宣言から、2014年8月にジブリの制作部門の休止が発表され、制作部門の社員全員が退職。ただし、この時に退職金補填のため、二馬力はかなりの金(億単位?)を出したもようです。

自身はジブリの役員どころか社員にもならなかった高畑勲監督が、制作部門の社員化を進言して、でも自分はジブリで湯水のように金を使いまくった映画制作をして、制作部門を潰した結果ですが。けっきょく、今のアニメ界のように、必要なときに必要なスタッフを雇う形式にジブリはなったのですが。経営者ではなかった頃の共産主義の理想論なんて、現実には通用しなかった、ということですね。

■ブルジョア階級出身の共産主義■

西武グループの堤清・清二兄弟は東大に入って共産党に入党。地方財閥の一族であった網野善彦博士も、同じルート。どうも、お金持ちの子弟というのは、自分が努力したわけでもないのにお金持ちで良い環境にいることに負い目を持ち、大学で共産主義思想にハマるようで。それは東京大学卒の、高畑勲監督もまったく同じです。ブルジョア階級が赤く染まる逆説。貧乏人はその余裕もない人が多いわけで。

高畑勲監督は岡山の名家の生まれ。あの時代に東大に行くというのは、実家が太く余裕がないとダメ。うちの親父のように、せめて弟妹は高校に行かしたいと学費を捻出してた貧乏人とは、訳が違う。それは、従業員数千人の宮崎航空興学の経営者一族で、皇族も通う学習院大学卒の宮崎駿監督も同じ。で、当時の東映動画はそういう良家の子女が入社し、高学歴が出世する会社。虫プロの方が、よほど実力主義で門閥に関係ない会社だったようです。

高畑勲監督は、その手塚治虫先生が切り拓いたテレビアニメの世界での作品が、評価が高いです。『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』など、傑作の誉れ高く。逆に言えば、劇場用長編アニメは、どれも評価が芳しくない(個人的には『じゃりン子チエ』や『となりの山田くん』は名作だと思いますが)。電気紙芝居と馬鹿にしてた虫プロ開拓のテレビアニメで、才能発揮というのも、皮肉ですけどね。

■宮崎親子の新作に期待する理由■

ところで、引退宣言を撤回して2017年からアニメ制作に入ってるはずの、宮崎駿夫監督ですが。どうも、情報が完全にコントロールされていて、何を作っているか出てきません。『君たちはどう生きるか』というタイトルですが、どうも内容はファンタジーとのこと。あんがい、『風の谷のナウシカ2』をひそかに制作してるんじゃないか、という岡田斗司夫氏の指摘もあります。

個人的には、宮崎駿監督の大ファンですので、新作劇場公開用長編アニメには、とても期待しています。そもそも、ナウシカは原作漫画の2巻分も使っていませんから、結末まで全部描く必要はあるでしょう。また、宮崎吾朗監督にジブリを禅譲するのなら、この作品は外せません。ジブリにはヒットが義務づけられている作品が必要。であるならば、ナウシカは鉄板でしょう。宮崎監督個人に別途、原作料も入るし。

宮崎監督も、共産主義を表立って否定はしていませんが、『未来少年コナン』でも『もののけ姫』でも、アーミッシュのごとき文明の部分的な肯定をやらっかしていますから。そりゃあ二馬力に蓄財し、世襲もやるでしょう。社員に飯を食わせるってのは、そうならざるをえない。原始共産制は幻想。息子の宮崎吾朗監督にも、実は期待してます。『コクリコ坂』とか、けっこう良かったので。米林監督より期待できます。
どっとはらい

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