たべものエッセイvol 3:まどろみのフルーツサンド
フルーツサンドを買ってきた。
それもデパ地下で。
2個入りで648円のその商品は、デパ地下入り口付近にあるショーケースの中でお行儀よく、上品に鎮座していた。
私は売ろうとしなくても売れるタイプのスイーツなの。と言わんばかりにおすまししている。
たっぷり、もったりとしたクリームとフルーツの酸っぱさがすぐに口の中で想像できた。
誘惑に負けた私はそそくさと注文しており、フルーツサンドは紙袋に入れられた。
持ち手のない紙袋はいつもなら煩わしいだけだが、今回は違う。
なんたってデパ地下のフルーツサンドなのだから。
紙袋のほんのりとした木材の香りというのは特別感があるし、有体物を運んでいるというよりもその先にあるクリエイティブさとか夢とか楽しさを運んでいる気にさせる。
ぴったりだ。
帰路につき、ビニールをペリペリと剥く。
口に入れた途端にいちごの瑞々しさと甘酸っぱさが舌をつつき、しかしクリームが流れ込むためフルーツ本来の濃い酸っぱさが幾分中和される。
最終的にはぼんやりとした何かへ変化を遂げた。
そう、なんだか想像していたよりも
ぼんやりしているのだ。
でもこの、ぼんやり感が良いんだ。
まだ肌寒い3月の朝、早くにふと目が覚め「まだ寝てもいいな」という余裕と共に目を閉じて、2回目の眠りをじっと待つあの布団の中のあたたかさ…気持ちよさ…
まどろみの感覚。
まさにフルーツサンドはそれの味だった。
時間セレブにしか味わうことが許されないまどろみ。
贅沢が欲しくなったらまたデパ地下へ買いに行こうと思う。
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