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初めての一人旅で出会ったあなたに、もう一度会えたなら。

19歳の春休み、日帰りで大阪へライブを観に行きました。

それまでライブ自体行ったことがなく、一人で県外に出ることもまったくの初めてでした。

それでも行こうと決心したのは、当時ドハマりしていたアーティスト同士が対バンすると知ったからです。

「そんな夢みたいなことって…!」といてもたってもいられず、生まれて初めて大阪の行き方を調べ、ライブチケットと往復の乗車券、全財産1万6千円を握りしめて新大阪駅に降り立ちました。

大阪に着いてまず思ったこと。


地下空間がめちゃくちゃ広い。

まるで迷宮。


網の目のようにいろんな路線が通っていて、それで迷宮のように入り組んだ構造をしているようなのでした。


初めての知らない場所。

一人きりで頼れる人は誰もいない。

心細さと緊張でずっとドキドキしていました。


しかし、当時の私はなぜか誰にも悟られたくなくて堂々と地下迷宮を歩き、ライブハウスがある心斎橋に行くため地下鉄に乗りかえました。


車内には吉本新喜劇の広告が貼られていて、たった数分の乗車で「大阪に来たんだ…!」と心の中で大興奮でした。


心斎橋に無事到着するもライブの時間には早く、しかし観光地の情報などは全く調べていなかったので(!)、歩いて行ける範囲を延々とうろつきました。

大阪の街は平日でも人がひしめき合っていて、「大阪ってやっぱりめちゃくちゃ都会なんだな~」と能天気な感想を浮かべていました。


3時間ほどウロウロしたらやっと開場時間になったのでライブハウスに行くと、会場の入り口で女性に声をかけられました。

「おひとりですか?」


見た目、私と同じくらいの年齢の、ライブ参加者らしい女性。


私は緊張を悟られないように、


「そうです」


と答えると、


「私もです~」

とほがらかな答えが返ってきて、自分以外にも一人で参加している人がいることにほっとしたのか、上演時間まで彼女と色々な話をしました。


人生初ライブで初県外遠征であること。

実はすごく緊張していること。

今から演奏する、大好きなアーティストたちのこと。


彼女は、今は大学の都合で京都に住んでいるけれど、もともとは大阪が地元なんだ、と教えてくれました。


やがて開演時間になり、私と彼女はまた「一人」になってライブを観ました。



人生初のライブは、耳がぼーっとするくらいうるさくて、照明がまぶしくて、会場全体が熱気に包まれていて、彼らがただただ最高にかっこよくて、永遠みたいなのに一瞬で、まるで嘘みたいな、夢みたいなライブでした。


ライブが終わって会場の外に出たとき、幸運なことにまた彼女と合流できて、一緒に駅まで歩くことになりました。


帰り道、大阪に来てから私がしていたことを話すと、彼女は驚き、大阪案内をしてくれました。


公演は終わっていましたが吉本新喜劇の劇場や、グリコの看板(想像していた100倍大きかったです)や、たこ焼き屋さん。


たこ焼きは一口食べて度肝を抜かれました。

地元で食べるようなたこ焼きとは全く違ったのです。


外はカリッと、中はとろっとろ。


これが本場か…!と感動すると同時に、今まで地元で食べていたたこ焼きはたこ焼きじゃなかったんだなぁ…としみじみ思いました。


そろそろ電車の時間、というところで、行列ができているチーズケーキ屋さんの前を通りかかりました。

もともと寄るつもりではなかったのですが、大阪で大人気のお店らしく、この時間だと売り切れていることの方が多いのに、と彼女は言いました。

そのチーズケーキ屋さんはホール売りで、「多くないの?」と思ったのですが、「めちゃくちゃおいしいから!絶対損させないから!」という彼女にすすめられるまま1ホール買いました。


そして駅まで着き、解散するかと思いきや、「大阪の駅は迷宮だから絶対迷う」と最後まで付き添ってくれました。


忘れていましたが、そういえば降り立った時に自分で「迷宮だ」と思ったのでした。

私は、迷宮をスイスイ歩く彼女の後ろを、生まれたてのヒヨコのようについていきました。


そして乗り場まできて、持っているチケットが引換券で乗車券と交換しないと乗れないことが分かり、交換所を彼女に案内してもらい、見送られながらなんとか乗車しました。



「ありがとう!」と言い合って電車のドアが閉まり、動き出した後、


「名前、聞いてなかったな…」


と気づきました。


彼女は優しくて親切で、本当に素敵な人でした。

きっと彼女がいなかったら、大阪にまったく触れることなく終わっていたでしょうし、そもそも帰ることすらできなかったかもしれません。

彼女のおかげで大阪はいいところだなぁと思えましたし、それ以来、殻が破れたというのか、一皮むけたというのか、東京でも焼肉屋でも海でも、一人でどこへでも行けるようになりました。


彼女は私の恩人です。


できるなら、もう一度会ってお礼が言いたいです。

でもそれはきっと叶わないので、せめてどこかで元気にしているといいなぁと願っています。


そうそう。

家に帰って、一人で食べたチーズケーキは、本当に震えるくらいおいしくて、私の人生でいまだにナンバーワンです。

1ホールが、夢みたいにあっという間に消えてなくなりました。

絶対また食べたいので、いつか必ず大阪に行こうと思います。


このnoteが彼女に届くかはわかりませんが……初めての一人旅であなたと出会えて本当によかったです。

ありがとうございました。





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