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ゴールデンカムイ 感想

・3900字強。



・この作品に出合えてよかった……

・メインストーリーの進行、追跡、逃走、捕食、キャラの掘り下げ、ギャグ、1907年冬の北海道の解像度を高める描写など、面白さの軸が複数ある。それぞれがちゃんと面白い上にバランスも良い理想的な漫画だった。褒める所が多すぎてどこから褒めればいいのかわからない。

・私が目指している作品像ランキング1位に急に食い込んできたな。

(目指している作品像ランキング)


・以下、 #ネタバレ 感想注意。

・良かった点を挙げて行きます。


コンセプト

 導入はこんな感じだった。アイヌ人が莫大な砂金を埋めた場所を唯一知っている男(のっぺら坊と呼ばれる)が網走監獄に収監されていて、その男が獄中から仲間に砂金の場所を外部に知らせるために24人の囚人に入れ墨をして脱獄さた。その囚人たちの皮を剥いで繋ぎ合わせることで、仲間にだけわかる暗号が浮かび上がるように設計されていて、それによって囚人には暗号の全体像を知られずに、仲間にだけ伝わるようにしていた。

 ここまで現実味のあって利害関係がきっちりしている上に面白い物語が発生しそうな予感のする風呂敷の広げ方は中々ないよ。

 入れ墨をされた人間たちは皆脱獄囚なので、一芸に秀でた奇人変人や極悪人ばかりなのも面白い。北海道中に散らばった24人の囚人を片っ端から探し出して、一枚の漏れもなく皮を剥がないと暗号が完成しないの、ドラゴンボールより条件厳しいな。

 主人公組は、「囚人を探す」「そもそも網走監獄ののっぺら坊本人に答えを訊く」「砂金が集められた経路から隠された場所を推理する」の3つのアプローチから金の在処を探す。どれか一つでも成功すれば金の在処がわかるのだけど、どれも難しく、競合相手もいる。


移動劇

 ジョジョの奇数部みたいに、旅をしながら進んでいくお話ってなんて言うんだ? 移動劇と言って合ってる?

 金カムは背景の描写が他の漫画より比較的多いから、キャラが立っている場所がありありと想像できる。

 野生生物を仕留めて食べながら野宿し、情報を集め、その情報を敵には悟られないように移動する。そのライブ感がウキウキするし、そもそも ”移動” と言うのはそれだけで面白いんだよね。

 OPやEDで走るアニメは名作だし、細田守作品でも終盤は走るでしょ(もっと良い例え話はなかったのか)。移動というのはそれだけで面白い。トイストーリーとか、移動してるシーンが映画の半分を占めるでしょ。

 金カムで発生する戦闘も、馬車、炭鉱のトロッコ、気球、汽車などの、およそ足場の安定していない、戦闘には不向きな場所でビュンビュン集中線飛ばしながらバトってくれてたので、ありがとう……と思った。

 尚、アマプラでアニメ金カムのトロッコシーンを見てみたけどあんまりだった。漫画版の方が迫力があるしBGMが勝手に聞こえてくる。

 度々書いてるけど、個人的に「逃走/追跡しながらの戦闘」がフェチなんだよね。「トロッコ戦」とか「列車の屋根戦」って皆も好きでしょ。

 例えばペンギンズとかインクレディブルファミリーが好きです。


不可逆

 金カムで一番泣いたシーン言っていい? いいよ

 金カムに「ジョジョ3部で言うならアン(家出少女)みたいな、ほぼモブの脇役キャラ」がいるんだけど、そのほぼモブの奴が一行を離脱するシーンです……

 そのキャラってマジでストーリーを全く動かしていないし思い入れもないキャラなのだけど、しかし不可逆的な別れの決断をするシーンはアツい……。

 現代が舞台の場合、別れを情熱的に描くのは難しいと思う。別れても、結局普通の金と行動力さえあればインターネットで再会して飛行機で会いに行くことができる可能性があるから、今生の別れを描くのは難しい。

 現代にどうしても不可逆的な別れを描きたかったら、科学では解明されていない超常的な力を使うしかない(君の名は。とかスパイダーバースの様な)。

 あるいは、ネットや飛行機の使えない、動物同士の別れを描くか。


 やはりローテクノロジーな舞台でないと、出会いと別れに重みが出ないのではないか?

 いつかの日記でも書いたけど、やはりローテクノロジーというのは創作と相性が良い。今後数万年くらいは「18~19世紀」という丁度いいローテクさの時代が創作の舞台として使われ続けるのではないかと個人的に思っている。


 読者は、不可逆的なことが起こった時に「ストーリーが進んでいる」と実感すると思う。逆に言うと、不可逆的な事が何も起こっていないなら、作者がいくらストーリーを進めていると思っていてもストーリーが進んでいる感がないと思う。


舞台の解像度

 金カムはご都合的展開がなく、フィクションに重みをもたせようとする工夫が多くてよかった。相対的に、金カム以外の漫画がいかにご都合で進行していて、いかに質量のないフィクションなのかがわかった。

 普通の漫画だったら、キャラが冬に焚火をして野宿するシーンがあったとしても「どうやって火を起こして雪の中で火を保っているか」なんて描写されないと思う。なぜなら、その様な描写をするのにも知識理解が要るし、無駄にページを消費するし、描写した所で全くストーリーの本筋を左右しないからだ。デメリットの割にメリットがない。

 でも、金カムはやった。

 獣の追い方、仕留め方、食べ方、皮のなめし方、仕留めた獣を金に換える方法、砂金の取り方、アイヌの挨拶の仕方、吹雪の凌ぎ方といった、本来はストーリーの進行に必要がないから描写されないシーンも丁寧に描写することで、その世界は紙面上にしか存在しないペラペラなフィクション世界でなく、実在する世界かのように質量を帯びてくる。


・案外、ナレーションによる説明が多すぎな漫画でも面白いのだなという気づきがあった。私はナレーションを忌避していたのだけど、金カムがナレーションばかりなのにしっかりと面白かったので、新鮮だった。

 物語の面白さを補うようなナレーションは面白くないので少ない方が良いと思うのだけど、ナレーション自体が面白ければ、ナレーションによる世界観説明がいくら多くても案外気にならないのだなという発見があった。参考になる。


キャラが個性的

 人間キャラの識別ができるよう、主要キャラは服装や顔を極端に特徴的にしてくれているので、見分けがつきやすい。

 刺青の囚人たちも、それぞれ一芸に秀でた極悪人なので、潜水ができたり、偽札が作れたり、音感が優れた盲人だったり、砂金に詳しかったり、脱獄ができたり、変装ができたり、とにかく個性豊かな天才が出てくる。

 その描写も適当ではなく、「そのキャラがその分野において如何に突出した技術を持つ天才なのか」が丁寧に具体的に描写されていて、天才キャラが好きな私にはとても刺さった。

 これは何回でも日記に書くのだけど、個人的に「ちょっと知力と体力が優れているだけの、財力も人脈もない裸一貫の一般人が世界を搔き乱す話」がフェチなんだよね。ゾロリとかルパンとかカイジとか。

 金カムは、全員がそれなのでありがたい……一般人数人がアイヌの未来を背負って奮闘している様が美しい……

 あのメンバーの頭脳だから前に進めるのであって、誰か一人でも頭脳が欠ければ前には進めないのだよな……

 ありがとう、ゴールデンカムイ……


 ごめん、もう金カムについて、「ありがとう」しか言えなくなった。

 結局の所、この手の作品感想ブログなんて、その作品が如何にありがたい作品なのか、情報量の薄い文章を連ねることでしか愛を表現できないのだ。あれこれと言葉を重ね、手を変え品を変え、表現を変えて文字数を稼ぎ、愛を発散させたいだけに過ぎない。


 ありがとう。ゴールデンカムイ……

 ありがとう。野田サトル先生……

 ありがとう。インタビュー記事……


ギャグ

 そうなんだよね。

 漫画はテキストより絵で笑わせることに注力すべきなんだよね。

 この人、人の顔の構造への理解度が高いから、めっちゃ表情豊かな上に、どれだけ表情が歪んでもちゃんとそのキャラだと識別できるんだよね。

「あー確かにその感情になったらその表情筋が動くわ」という表情筋あるあるを的確に突いてくるような、感情の機微を的確に絵で表現できる人だ。

 この人ほど ”真顔” を面白く描ける漫画家を他に知らない。補足するなら、「真顔が面白くなるシチュエーション」を作るのが上手い。

 何が面白いのかが言語化できないような、”機微” の動きによる笑いを描くのが上手すぎる。

 ツッコミがほぼ存在しないのも良い。エログロの見れる年齢層なら、ツッコミくらいは作中でされなくても脳内補完できるので、ノイズなのだ。

 また、モクモクのフキダシで内心を説明することがほぼないのも良い。モクモクフキダシがなくても心情がわかるような工夫がたくさんされている。

 「エログロあり/ツッコミなし/モクモクフキダシなし」の三点は、読者層から考えて相性がいいように思える。

 裏を返すと、「エログロなし/ツッコミあり/モクモクフキダシあり」の三点も相性が良いと思う。コロコロの漫画はほぼ後者だ。



オチ

 大きな風呂敷が広げられ、綺麗に畳めずにまだいくつかの問題を抱えたまま終わったと思ったのに、最後の1ページで残った問題を全て綺麗に解決したの、あまりにも美しく、そしてあまりにも美しい……

 オチが、あまりに綺麗にまとまりすぎている……

 おれは、このキャラたちをこんなに好きになってしまったのに、どうして彼らの活躍はもう見れないのか……

 理解に苦しむ……


・気が済んだのでおしまいです。

・次回は質問箱に答えていきます。


・おわり

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